第35話



それから特に会話もなく、手を繋ぎながら2人並んで座っていた。

そこに気まずさはない。お互いが嬉しさと安心と愛情を感じている。

しばらくして、蓮弥が口を開いた。



「…腕治るまで、俺の家にいなよ。利き腕だから、大変でしょ。」



「え、でも…」



「俺にできることは、なんでもしたいよ。それに…菜子と離れる時間があるのが嫌。ずっと一緒にいたい。」



「!」



「ダメかな…?」



「ううん、嬉しいです。」



菜子は微笑む。



「良かった。」



蓮弥は頬を赤くして、嬉しそうに笑う。



「…蓮君の笑顔、ずっと見たかったです。」



「…俺も。目を閉じると、菜子の笑顔が浮かんできてさ、全然眠れなかった。…もうね、菜子が俺の生きる意味なんだよ。」



「じ、自分のためにも生きなきゃ…!」



「それが自分のためにもなってる。」



蓮弥は優しく微笑む。

しかし、しばらくすると目を逸らして顔を片手で隠す。



「…あー、なんかクサいこと言ったし、重いよね。俺、たぶんめちゃくちゃ重い奴なんだと思う。頭ん中、菜子しかいない。自分でも追いつかないくらい菜子が好きで、色々先走るし焦ってるしいっぱいいっぱいだし…かっこ悪いね。」



蓮弥の耳が赤い。



「…でも、そんな蓮君も好きですよ?」



菜子は顔を赤らめながら蓮弥の顔を覗く。

蓮弥は菜子をチラリと見て、彼女の頬を片手で挟む。



「…可愛いな、ばーか。」



「なっ…!」



蓮弥はそのままキスをして、菜子の頭をこちらに寄せた。



「もうこれ以上惚れさせないで。パンクする。」



「〜ッ!」



菜子はその一言に蒸発しそうになった。





翌日。



––駿ちゃん、仲直りできたよ!



菜子は駿太にメッセージを送った。



––♪



––良かった!なっちゃんは笑顔が1番!有賀さんにもよろしくー♪



––本当にありがとう!



––どういたしまして?俺何したっけ…?



「…ふふ。」



菜子は思わず笑った。



「どうしたの?」



蓮弥が菜子の様子を見て、不思議に思う。



「駿ちゃんに、ありがとうってメッセージ送ってました。有賀さんにもよろしくだって。」



「そっか。今度お礼言いたいな。」



「そうですね!駿ちゃんはシュークリームが好きです!」



「会う時買って行こうか。」



「はい!」





そして2人は外へ出る。買い出しをしつつ、必要な荷物を菜子の家から蓮弥の家に運び入れた。



「ごめんね蓮君、全部運んでもらっちゃって…」



「いいって。ご飯作るね。菜子はゆっくりしてて。」



蓮弥は手際よく料理をする。

台所に立つ蓮弥を、菜子は胸をキュッとさせながら見つめていた。

そしてあっという間に夕飯が完成する。



「いただきます!」



菜子は慣れない左手でスプーンを使って口に運ぶ。



「…美味しい!!」



「そう?良かった。」



「ほんとにすっごく美味しいよ!すごいね!私より上手…」



「まぁ、中学からずっとやってたから。…あ、これで菜子の胃袋、掴めるかな?」



「もう掴まれた!」



「ん、じゃあもっと色々作って、余計に離れられなくするね。」



蓮弥はご機嫌で料理を食べる。

菜子はドキッとして、思わずスプーンで料理を掬い損ねる。



「あ、食べさせてあげようか?左手、使いにくいでしょ?」



「いいいえっ!れ、練習しないと困るので!!」



「そっか。大変だったら言ってね。」



「は、はいっ。」



その後、蓮弥は食器を片付け、風呂の準備をする。

菜子はその間、洗濯物と取り込んでたたんでいた。



「…あ、菜子!いいよ、ゆっくりしてなって。」



戻ってきた蓮弥が菜子を止める。



「このくらいなら大丈夫です!それに私も何かしないと申し訳なくて…」



「こういう時くらい、甘えなって。俺、嫌々やってるわけじゃないし。菜子の力になりたいの。」



「う、でも…」



「じゃあ、腕が治ったら甘えさせて。」



「はい…!たんと甘えてください!」



「…待ち遠しい。」



蓮弥は菜子の額にキスをした。



「あ、お風呂どうする?俺が身体洗おうか?」



「そ、それは自分でやります!!」



「…そうだね、俺の理性が保てないから、治ったらだね。」



「えっ…!?」



菜子は首まで真っ赤になる。

蓮弥はいたずらな笑顔で菜子の頭を撫で、洗濯物を運んだ。



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