第36話



翌日。



「ご迷惑とご心配をおかけして、本当にすみませんでした。今日からまた頑張らせていただきますので、よろしくお願いします!」



菜子は職場で挨拶をした。

社員は皆、菜子を心配し気遣ってくれた。

その優しさと温かさに、菜子は思わず涙した。

菜子の作業スピードは遅くなったが、パソコンでの作業が主なため、なんとか普段の業務はこなせそうだ。



そして、菜子は在庫確認をしに現場へ向かった。

文字が書けないため、スマホでメモをするが、棚の段ボールや箱が持てなくて困っていた。



「…菜子?」



蓮弥が荷物を運びながらやってきた。



「あ、お疲れ様です。」



「在庫確認?手伝おうか?」



「え、でも…お忙しいですよね?それに、安藤さんが後で来るので大丈夫です!」



「俺は全然大丈夫だよ。ちょっとでも進めておきたいでしょ。何すればいい?」



「えと、じゃあ…あの棚の箱を…」



「ん、わかった。」



蓮弥は棚の箱を菜子の前に次々置き、確認できたものを戻していく。



「榛原さん!ごめんごめん!」



安藤が急いでやってきた。



「あれ、有賀君が手伝ってくれてたの?ありがとう!」



「いえ。重いものあれば、今運んじゃいますけど…」



「あらら?優しいじゃない!榛原さんパワーかしらね!」



「ちょっ…安藤さん!」



菜子は顔を赤らめながら慌てて安藤を止める。



「そっすね。菜子がいなかったら、手伝わないかもです。」



蓮弥は笑う。



「ぎゃっ!!」



菜子と安藤は蓮弥の笑顔と発言に赤面した。



「あらぁ…もしかして、付き合ってるのー?」



安藤は、2人が恋人同士であることを知っているが、とぼけて聞く。



「…はい、彼女です。」



蓮弥は少し頬を赤らめながらも、微笑んで言う。

菜子は驚き、嬉しさと照れもあって目が回る。



「そうなの!?おめでとうー!」



「やっぱそうかよ!!」



声のした方へ目を向けると、須貝がいた。

なかなか戻ってこない蓮弥を探しに来たようだ。



「抜けがけだ!!俺らの癒しのアイドルが…」



須貝はがっくりと肩を落とす。



「うるさい。…ごめん菜子、あと大丈夫?」



「あ、はいっ!ありがとうございました!」



「ん。じゃあ、また後で。」



蓮弥は須貝を連れて戻っていった。



「…有賀君、デレデレね。榛原さんが入院してた時、この世の終わりみたいな顔してたけど、戻ってきたらアレだもの。」



「そ、そうなんです、か…」



菜子は赤面する。



「本当に良かった。色々とね。…さ、仕事するか!」



「はいっ!」



菜子と安藤は作業を始めた。






終業後、菜子と蓮弥は一緒に帰宅する。

蓮弥は菜子の鞄を持って歩く。



「今日、ありがとうございました。」



「全然。一緒にいる時間が作れて、ラッキーだった。」



「ッ!…あ、あの、付き合ってるって言っちゃって良かったんですか…?」



「あー…俺はもう隠したくないんだけど…菜子的にはまずかった?」



「い、いえ!嬉しかったです!」



「そっか。良かった。…これで菜子に言い寄る奴も、そういう目で見る奴もいなくなればいいけど。」



「へ?」



「須貝が言ってたでしょ、菜子は癒しのアイドルって。菜子さん、現場では人気者ですよ。」



「えっ…!?」



「ほんとはずっとモヤモヤしてた。…だから、これからは見せつけてやるの。俺の彼女だって。」



蓮弥は菜子の頬を軽くつねる。

菜子は心をきゅうっとくすぐられ、次第に熱くなる。



「…イケメンがそんなこと言うのは反則ですよ…」



菜子はぶつぶつと呟く。



「ん?」



「なんでもないですっ。」



「えっ、菜子待って。」



菜子は早足で歩き始めた。

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