第33話



翌週。



「なっちゃん!」



駿太がお見舞いに来た。



「駿ちゃん…」



「え゛、どうしたのその目…!まさか事故で…?」



菜子の目は数日間泣き続けて腫れ上がっている。



「こ、これは違うよ!心配しないで!」



「そう…?」



「…駿ちゃん、聞いたよ。助けてくれて、ありがとう。」



「え、俺はたまたま通りかかっただけで結局何にもしてないよ!全部有賀さんが頑張ったんだよ!」



「……そっか…」



「あれ、有賀さんはいないの?お仕事?」



「……別れちゃった。」



菜子は力のない笑顔で言う。



「…え!?なんで!?」



「私といるのがつらいんだって。」



「そんな…」



「私、なんて言ったらいいかわかんなくて。私がいるから大丈夫なんて言いながら、結局彼を傷付けたし。引き止める資格もないんじゃないかって思えてきちゃって…」



「…なっちゃんはそれでいいの?」



「え…?」



「なっちゃんは有賀さんと離れてもいいの?資格とか、小難しいことに囚われて諦めるの?有賀さんへの気持ちは、そんなもんだったの?」



「ち、違う…!」



「じゃあ、素直にぶつけてみればいいじゃん。有賀さん、なっちゃんのことすごく大事に思ってたよ。きっと有賀さんも難しいこと考えてるんだろね。お互い遠慮して離れるなんて、馬鹿馬鹿しいよ。好きなら好きでいいじゃん。むしろ一緒に乗り越えなよ。」



「駿ちゃん…」



「あ…ごめんね!俺能天気で…!複雑な事情があるかもしれないのに小難しいこととか言って…」



「…ううん、ありがと。勇気出ちゃった。」



「…そう?ならいっかぁ!」



駿太はニコニコと笑う。



「本当にありがと、駿ちゃん。」



「…有賀さんね、たくさん叫んで助けを求めてたよ。俺は耳が聞こえないから、なっちゃんを助けられないって苦しんでた。有賀さん、きっと今も苦しんでる。救ってあげられるのは、なっちゃんだけだよ。」



「…うん。私、早く治して彼に会う。」



「うん!応援してるよ!」



「ありがと!」





その頃、病室の外で

絢香と洸が聞き耳を立てていた。



「…完全に入るタイミング見失ったな…」



「ほんと…どうする?」



「ここは何も聞かなかったフリして」



––ガラッ。



「…あ。」



絢香と洸は同時に声を発する。



「あ、2人とも!お見舞い来たの?」



扉を開けた駿太がニコニコと2人に声をかける。



「あ、うん。そうだけど…」



「なっちゃん!アヤちゃんと洸が来たよ!」



「わ!ありがとう!」



菜子は笑顔を見せる。



「菜子…大丈夫?」



絢香が心配する。



「大丈夫だよ!体が丈夫で良かった!」



「…そっか。良かった。」



「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ!」



「うん、ありがと駿ちゃん!」



「……」



洸が病室を出た駿太を追いかけて、頭をわしゃわしゃと撫でた。



「わ、何っ?」



「…お前ほんといい奴だな。」



「え?どうしたの?」



「…なんでもねぇよ。気をつけてな。」



「うん!」



駿太は笑顔で帰って行った。



「…ほんと、かっこいいよ。お前は。」



駿太の後ろ姿を、洸は心配と尊敬の眼差しで見つめた。そして、優しく微笑みながらため息をついた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る