第20話



その後も、菜子と蓮弥は今まで通り毎週土曜日にどこかへ出かけた。しかし、13〜17時の制限は緩くなり、土曜日以外でもメッセージのやりとりが増えた。

菜子はいつも嬉しそうに蓮弥と話をする。

彼女の笑顔が、蓮弥の心を何度もくすぐった。気付けば、無表情は柔らかい表情に変わり、菜子を見る時はいつも小さく微笑んでいる。






そして、とある土曜日の帰り道。

菜子の歓迎会の日に立ち寄った公園を通った。



「…ね、榛原さん。そこの公園、寄ってかない?」



「公園?」



「うん。」



「はい!寄りましょ!」



そして2人はベンチに座った。

菜子が蓮弥に告白したベンチである。

彼女はもちろん覚えていないのだが。



菜子と蓮弥は座ったまま、2人きりの空間で仲睦まじげに話をする。

しかし、2人の間にある隙間が、恋人同士ではないことを物語っている。



時刻は午後6時。約束の5時は過ぎた。

辺りは薄暗くなっており、外灯がつき始める。



「涼しくなってきましたね。」



「うん。…もう6時か。ごめん、つい時間を忘れちゃう。」



「私もです!有賀さんとおしゃべりするの、楽しいので!」



「うん、俺も楽しい。」



「ほんとですか?良かった!」



「…暑いのに、連れ回してごめん。」



「全然!私もあちこち行きたいですし、有賀さんといると楽しいが勝っちゃいます!」



菜子はニコニコと曇りのない笑顔を見せる。

その笑顔に、蓮弥は胸が熱くなる。



––やっぱり、俺は…



しかし、思うように言葉が出ない。



すると、夕方の涼しい風が優しく吹き始めた。

蓮弥の火照った胸の中を少しだけ冷まし、言葉を発する余裕と勇気を与える。



蓮弥はぎゅっと拳を握った。




「…これからも、ずっと一緒にいてよ。」



「もちろんです!友達は一生ものですよ!」



「……そうじゃなくてさ。」



「ん?」



菜子は微笑みながら、首を傾げる。

蓮弥は目を逸らす。

しばらくして、小さく微笑みながら菜子を見つめる。











「好きだよ。」












「…え?」



「榛原さんが、好き。」



「………うそ…」



「嘘じゃないよ。」



「…だ、だって……」



「本気だよ。わかってよ。」



「…こ、困ります…」



菜子は目を逸らす。



「…だって…私…ずっと…ずっとずっと…有賀さんが好きで…でもこの気持ちは閉じ込めて、ずっと友達として一緒にいようって決めたのに…」



菜子の瞳からぽろぽろと涙が溢れる。



「…ごめん、知ってた。榛原さんが、俺のこと好きでいてくれてたの。」



「へ…?」



菜子は思わず蓮弥を見る。



「歓迎会の日、榛原さん、ここで俺に告白してた。昔、俺に会ったって。それからずっと好きでいてくれたんだよね。」



「う、うそっ!?私…」



「ごめん、黙ってて。気まずくなるかもって思ったら、言えなかった。でも、あの日のおかげで、今の俺がある。俺は救われたんだよ。」



「……私、なんだかすごく恥ずかしい人間じゃないですか…」



菜子は俯いた。



「恥ずかしくなんかないよ。俺は嬉しかった。自分の気持ち押し殺してまで、俺と友達でいてくれて、考えてくれて…。」



「……」



「でも、もう押し殺さないでほしい。俺に正直な気持ち、ぶつけて?…ずるい人間でごめん。もう嫌になったら、嫌って言ってくれて構わないから。」



「……嫌になるわけ、ないじゃないですかっ…」



菜子はぎゅっと、自分のスカートを掴む。

そして、蓮弥を見つめた。



「…ずっと好きです。昔も、今も。」



「……ありがとう。」



蓮弥は立ち上がり、菜子の正面でしゃがむ。

そして、菜子を見上げながら言った。



「…こんな俺だけど、彼女になってくれますか?」



その言葉に、菜子は再び涙を流す。

世界が、キラキラと輝いて見える。



「…はいっ。はいっ!」



菜子は何度も頷いた。



「……良かった…嬉しい…」



蓮弥は膝を抱えてうずくまった。



「…ふふ…」



菜子は鼻をすすりながら微笑み、蓮弥の頭を撫でた。



すると、蓮弥は菜子をチラリと見た後立ち上がり、ベンチの背もたれに手をかけながら、菜子の額に自分の額を合わせる。



「…!」



菜子は顔を赤らめる。



「…菜子、好きだよ。」



蓮弥は菜子の涙を指で拭いながら言った。

彼も頬をほのかに赤らめている。



「わ、私も、好きです…」



菜子も心臓の鼓動を速めながら想いを伝える。



想いをしっかり聞いた蓮弥は、菜子の頬を指で撫で、ゆっくり唇を近づけてキスをした。


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