第11話



「すみません、お待たせしました…!」



翌日、待ち合わせの時間に、菜子が蓮弥のもとへ走ってやってくる。グレーのパーカーに白のスカートという、シンプルなコーディネートである。



「ううん。てか、ファミレスでよかったの?」



「はい!すみません、私、オシャレなお店とか疎いもので…」



「正直、俺も苦手。ありがたい。」



「良かった!ささ、入りましょ!」



2人は窓側のテーブル席に座る。

菜子は終始落ち着かず、そわそわとしている。



「…緊張してる?」



「あっ、いえ!いや、はい!」



「なんだそれ。」



蓮弥は小さく笑う。

菜子は緊張で正面に座る蓮弥を直視することができない。



一方蓮弥は、どこか安心していた。先日菜子の気持ちを知ってしまったため、もし完全恋愛モードで来たら…と身構えていたが、シンプルコーデにファミレスなので、友達として来てくれたと感じたのである。



「な、何食べましょうか!私はいつも明太クリームパスタです!」



「へぇー、食べたことない。そんな美味しいの?」



「はい!イチオシです!…あ、でもこの期間限定の海鮮ちらし、美味しそう…」



「たまには違うの食べてみたら?」



「うう…そうですね…チャレンジしてみます!」



「ん。俺も決まったよ。」



「じゃあ店員さん呼びますね!」



菜子はベルを鳴らす。



「お待たせしました。ご注文お伺いします。」



「季節の海鮮ちらしで!有賀さんは?」



「明太クリームパスタで。」



「かしこまりました。少々お待ちください。」



店員は戻っていった。



「…あ、有賀さん、それで良かったんですか…?」



「うん。榛原さんイチオシだし。」



「う、嬉しいです…有賀さんのお口に合うといいんですけど…」



菜子は下を向いて顔を赤らめる。



「俺、誰かと飯行くの久しぶりかも。」



「え、そうなんですか?」



「うん。友達もいないし。」



「そ、そうですか…あ、でも今度からはどこへでも行けますよ!友達がここにいますから!行きたいところがあれば、遠慮なく言ってください!」



「…あ、ありがと…」



蓮弥は少し照れ臭そうに言う。



「そういえば、有賀さんっておいくつなんですか?」



「今年で28。」



「そうなんですか!私は今年で25なんで、3つ上ですね!」



「そっか。知らない間にどんどん歳ばっかとって、気付けば三十路手前。」



「気にしてるんですか?」



「うん。かなり。」



「ふふ、意外です。」



「そうかな?」



しばらくすると、料理が運ばれてきた。



「おいしそー!!早速、いただきます!」



「…いただきます。」



「…ん!美味しい!チャレンジして正解でした!お魚プリプリです!」



「ふふ、そう。こっちも美味しい。」



「ですよね!良かったぁ!たまに物凄く食べたくなるんです。」



「…今も?」



「そうですけど、こっちも美味しいので満たされました!」



「…食べる?」



蓮弥は自分のフォークとスプーンをパスタの皿の上に置き、そのまま菜子へ差し出した。



「…んぇ!?」



菜子は吹き出しそうになり、口を手で押さえる。



「口つけちゃったけど。それでも良ければ。」



「あ、あああの、それは全然、私は気にしないんですけど、その…」



「じゃあそっちも、ちょうだい。」



「は、はいっ…」



2人は皿を交換して、一口食べる。



「あ、こっちも旨い。」



「よ、良かった、です…」



菜子は緊張と意識のしすぎで、全く味がわからなかった。



その後、2人は店を出る。

菜子は歩きながら、ぐるぐると考え込んでいる。



––有賀さん…か、間接キスとか気にしない人…?いや、私がお子ちゃますぎるのか…そうだ、気にしすぎだ私!小学生かよ!私は大人!こんなの普通!友達でもやる!そうだよ、駿ちゃん達とは普通にやるじゃん!意識するな私!



「…榛原さん?」



「…!すいません!何でしたっけ?」



「俺まだ時間とれるけど…榛原さんはどう?」



「私は今日一日暇です!じゃあ、ボウリングとかどうですか?」



「…やったことない。」



「…え!?」



「俺、昔から友達いなくて。友達とやるようなこと、全然やったことないんだ。」



「そ、そうなんですね…。わかりました、じゃあ、友達とやってみたいことリスト、作りませんか!?」



「やってみたいことリスト?」



「はい!それを、例えば…毎週土曜日に楽しむ!いかがでしょう?」



「…なにそれ、めちゃくちゃ良い。楽しそう。」



蓮弥は目を輝かせる。



「そうと決まれば、早速作りましょう!」



2人は近くのカフェに入り、リストを作成した。


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