第6話
「榛原さん!ほんとよくオッケーもらえたね!すごいよ!」
飲み会の席で、安藤が菜子に肩を組みながらコソッと言う。
「いやぁ…でも席遠いですし…」
蓮弥は現場の仲間に囲まれている。
仲間も普段なかなか話せないので、絶好の機会だと思っているようだ。
「お待たせしましたー!烏龍茶と烏龍ハイです!」
「はーい。烏龍茶誰ー?」
「あ、私です!」
菜子はグラスを受け取る。
「あれ、榛原さんお酒飲まないの?」
「あ、はい…お酒苦手で…」
菜子は苦笑いする。
本当は飲めないことはないが、酒癖があまりよろしくない。
「そっかぁ。でもせっかく誘えたのに、話さないなんてもったいなくない?後で行ってきなよ。」
「そ、そうです、けど…」
菜子はチラリと蓮弥を見る。
すると、蓮弥も菜子を見て、目が合った。
「…!」
菜子は咄嗟に目を逸らしてグラスを持ち、一気に半分以上を飲み干した。
「あー!榛原さん、乾杯まだだよ!」
「え゛っ、す、すみません!」
そして、10分後。
「安藤さぁん…有賀さんとお話したいぃ…」
菜子はしくしくと泣きながら安藤にべったりくっついている。
「ど、どうしたの、榛原さん…。…!もしかして…さっきのグラス、烏龍ハイ!?」
安藤は少し残っている菜子のグラスの飲み物を飲む。
「…あちゃー。お酒だ。…よしよし。こんな可愛くなっちゃうのね、榛原さん。」
安藤は菜子の頭を撫でた。
「…すみません、俺、用事あるんでそろそろ帰ります。」
「えー!もう帰るのかよ!」
蓮弥はブーイングを苦笑いしながら躱し、席を立って帰ろうとする。
「…!あー、有賀君!悪いんだけど、榛原さん送ってくれない?お酒飲めないのに間違って飲んじゃって、もう寝ちゃいそうなのよ。」
安藤が蓮弥に声をかけた。
菜子は安藤の肩に寄りかかり、うとうとしている。
「…はい。わかりました。」
蓮弥は菜子を連れて、店を出た。
菜子はふらふらとしている。
「……。榛原さん、乗って。」
「んー…」
菜子は抵抗なく、蓮弥の背中に体を預ける。
蓮弥は菜子を背負って歩く。
「…榛原さん、家どこ?」
「んー…お水…」
「水?えーと…」
道の向かいの公園に自動販売機があるのが見えた。
蓮弥は公園に向かって歩く。
「榛原さん、ちょっと降ろすね。」
蓮弥は菜子を公園のベンチに座らせ、自動販売機で水を買う。
「はい。飲める?」
蓮弥は菜子の正面でしゃがみ、ペットボトルの蓋を開けて菜子に渡す。
「ありがとぉ…」
菜子は水をぐびぐびと飲む。
「…大丈夫?」
「…あれ、有賀さん…?」
「あ、うん。そうだけど。」
「…やっとお話できましたぁ。」
菜子はニコニコと嬉しそうに笑う。
「あ…うん、まだ酔ってるね。」
蓮弥はスマホで時間を確認する。
「…7時か…」
「あー、桜の木ですねぇ。」
菜子は、道沿いに植えられている木を見ながら言う。現在は葉桜の状態である。
「そうだね。この道、春は綺麗だよ。」
「…有賀さん。ずっと前に、大空公園の並木道、歩いてましたよねぇ。」
「…え?」
「へへ。私、偶然お見かけしたんですよぉ。貴方があまりにも儚くて、綺麗で…私、あの日からずっと貴方に恋してたんです。」
菜子は顔をほのかに赤くしながら、嬉しそうに笑う。
「!……そ、そう…」
蓮弥は下を向いて首を掻く。
「まさか7年後に会えるなんて、私は一生分の運を使っちゃったんですねぇ。」
菜子はとても嬉しそうである。
「…俺は榛原さんが思うような、綺麗な人間じゃないよ。さ、帰ろう。」
蓮弥は菜子に背を向け、背負う体制になる。
「はぁーい。」
菜子は再び蓮弥に背負われ、うとうとする。
「…あ、榛原さん。家どこ?」
「……」
「…おーい。」
寝息が聞こえる。眠ってしまったようだ。
「…困った…もう帰らないとまずいんだけど…」
蓮弥は悩んだ末、自宅へ運ぶことにした。
自宅に着くと、蓮弥は菜子を自分のベッドに寝かせた。
––…7時40分…。…頼むから、起きないでくれよ…。
蓮弥はシャワーを急いで浴び、寝る支度をして部屋に戻る。
菜子はすやすやと眠っている。
「……ふぅ…」
時計を見ると、8時をわずかに過ぎていた。
蓮弥は菜子をしばらく見つめた後、何も言わずにローソファーの上に横になった。
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