第33話 試験終了の合図(ギルド長視点)

 カッコウ様の指差した三人の動向を見守っていたが、本当の意味でこの試験を合格したのは三人だけだろう。

 そして、私の視線を辿っていた受付嬢の一人が声をかけてくる。


「一人だけでしたね。本当の意味でこの試験の裏の意図に気が付けたのは」

「暴力で解決するのは想定外でしたけどね」


 こちらの想定では、じゃんけん以外のゲームで解決する流れだった。

 だが、まさか暴力で試験を突破する人間がいるとは思わなかった。

 しかし、あれも合格の一つの方法だ。


「ただ、意図に気が付けたからといって、それが最善の手だとは限らないけどね」

「そう、なんですか?」


 あの包帯男は確かにこの中の冒険者の中では頭が回る方のようだ。

 力も強いのは確かだし、冒険者見習いとしての枠を超えている。

 だが、答えを出すのに時間をかけ過ぎだ。

 相手に考える時間を与えれば、その分自分は不利になる。


 恐らく実戦経験に乏しく、長らく学校などに通っていた人間だろう。

 筆記試験を長期間受けている人間は、いつだって答えがあると思い込んでいる。

 だが、実戦において答えが必ずしもあるとは限らない。


 特に駆け出し冒険者の場合は、自分よりも強いモンスターと対峙することが多い。

 そんな時に倒せる答えがない時に取る行動が命運を分ける。


「ダンジョンのモンスターを倒す時には答えがないかも知れない。そんな時に必要なのは自分の強みをいかに押し付けるかということ。だからこそ、今回の試験では自分の強みが何なのかを再確認して欲しかった」


 今回変わったやり方で合格した三人は皆、自分の強みを理解したやり方だった。


 勇者は権力と財力、奴隷の獣人は動体視力、包帯男は暴力。


 それぞれの強みが理解できていれば、自分よりも強いモンスターを倒す時に自分の強みを生かした戦い方ができるはずだ。


 自分の得意分野を更に上回る敵との戦い方は、自分達で学んでいくしかない。

 そして、今回運勝ちだけし、試験で学びを得ていない冒険者の対応も考えなければならない。


「今回の試験で特殊な合格をしたあの三人以外の新人冒険者が、冒険者ギルドで依頼を受注する時は、しっかりと吟味するように受付嬢全員に通達して下さい」

「それって……」

「Eランク以上の依頼は勿論のこと、Fランクの依頼も難しいものは回さないということです」

「分かりました」


 薬草の採取や下水道の掃除といった地道な仕事であっても、モンスターが出現する可能性がある。

 危険なモンスターが出現する可能性がある場所に、むざむざ弱い冒険者を派遣して死なせる訳にはいかない。


 こちらの様子を伺っていたカッコウ様が眉を顰める。


「いいんですか? 彼らに恨まれるかも知れませんよ?」

「恨まれてもいいです。命が一番大切ですから」


 仕事を回してもらえないと冒険者ギルドに苦情が来るかも知れない。

 だけど、文句が言えるのは生きているからに違いない。


 冒険者ギルドは冒険者達から舐められる仕事だ。

 安全地帯でただ冒険者を派遣しているだけの楽な仕事だと思われがちだが、最も冒険者の死に触れている場所だ。

 彼らの死亡届の受理や、遺族への連絡をしているのは我々で、仕事を振り分けた後に死亡を聴かされた担当受付嬢がどれだけ精神を病むのか、冒険者は知る由もないだろう。


 それでも我々は泣き言一つ言わずに彼らをサポートする仕事をしている。

 誇りを持って仕事に命を賭けている。


「ただいまを持って試験を終了します」

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