第42話 間違っても回復薬があるから問題ない
ベネディクト第四特別工場。
ここで運搬作業があるということで移動して来た。
中に入って見学してみたが、中には沢山の人が大勢いた。
機械技術が発達していないせいか、人海戦術で労働しているように見えた。
「回復薬は馬車で運搬するんですね」
「ええ。サキモリさんにも馬車に乗ってもらいます」
「馬車か……」
結構揺られるから酔いそうになるから、馬車は苦手だ。
せめて舗装されている道を進んでくれることを祈る。
馬車だと石ころ一つあっても乗り上げて大変だからな。
「運ぶの手伝いましょうか?」
「お気遣いなく。サキモリさんは周囲を観ていて下さい。ここが襲われる可能性もあるので」
「そ、そうですね」
強めの語気で言われて恐縮する。
素人が出すぎた事を言ってしまったかな。
ずっと待ち続けるのは居心地が悪くて、手ぐらいは動かしたかったんだけどな。
ただ、ベネディクトさんの言う事は正論だ。
身体を動かしたいんだったら、自分の仕事を全うしないと。
「よろしくお願いしますね。今回は上客に渡す大事な商品なので、万全を期すためにサキモリさんに依頼を出したんですから」
「はい、分かりました」
かなりの量を運搬するみたいだけど、回復薬を運ぶんだよな?
そんなに必要な場所ってどこだろうか?
一つの薬屋の店舗に仕入れをするような量じゃない。
もしかして、何店舗か回るんだろうか。
「そういえば、どこに商品を運搬するんですか?」
「城です」
「城?」
「ええ。ケージ帝国の中心に聳え立つ、あのケージ城ですよ」
「なっ――」
ベネディクトさんが指差したその場所の外観は詳しくないが、中はよく知っている。
俺はこの異世界に召喚されたから初めて足を踏み入れた場所だ。
あそこには嫌な思い出しか残っていない。
「どうされましたか?」
「い、いいえ」
あそこだけには近づきたくなかった。
俺があそこに行ったら、第三王子のフラスコが何をするか分かったもんじゃない。
だが、今更任務放棄をする訳にもいかない。
運搬する場所が分かった途端逃げたら、ベネディクトさんが不審がる。
その情報を城の人間に引き渡したら、その時点で詰みだ。
せめて、運搬作業は城の外か、中に入るにしても入口付近ぐらいだったら、俺の存在がバレないかも知れない。
「馬車って、あの城内に入っ――」
質問をしている途中、鼓膜が破れんばかりの爆発音が轟く。
視界の隅に炎が吹き上がるのが見えた。
「爆発!? まさか!?」
工場の外から職員の一人が入って来た。
縋るような視線でベネディクトさんを見据える。
「撃退をお、お願いします!! 強盗です!!」
「何ですって!?」
「俺が行きます!!」
俺は急いで外に出ると、馬達が興奮して嘶きを上げていた。
運ぼうとしていた荷物の一部には火の手が上がっているし、職員の人達は悲鳴を上げながら逃げていた。
そんな中で商品を漁っている連中がいた。
布などで顔を隠している連中は俺を見ると武器を持ちながら凄んできた。
「邪魔だ、どげ――げえええええ!!」
「なんだてめ――えぐぅ!!」
ゴチャゴチャ言う前に、男達に腹パンを喰らわせると悶絶したまま膝を折る。
「一体てめぇは――あぎゃあ!!」
「ふざけんな、ブッ殺――ごぎゃああ!!」
殴った奴の歯がどこかへ飛んで行ったが、探してあげる暇はない。
とりあえず怪しい奴は片っ端から殴っていった。
たまたま運悪く顔を隠していて、白衣も着忘れている職員さんがいるかも知れないが、今は確認している暇がない。
なにせ俺は一人。
そして賊は数十人以上はいるみたいだ。
あまりにも人手が足りていない。
「……間違って殴っても回復薬あるから大丈夫だろ」
攻撃呪文を使ってくる奴等もいるし、手加減している余裕がない。
ただ、一人だけ動きが違う奴がいた。
「こいつ」
俺を見て一目散に逃げた。
立ち向かったら勝てないことを悟る分、向かってきた連中よりかは頭の回転が早いらしい。
だが、すぐには追いつけない。
どんなスキルを持っているんだと思っていると、
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【名前】フリーダ
【レベル】1
【装備品】
【革の靴+2】……装備すると素早さが上がる。
【素早さの指輪+3】……装備すると素早さが上がる。
【スカーフ+1】……装備すると素早さが上がる。
【スキル】素早さ上昇(レベル1)・嗅覚上昇(レベル1)・暗視(レベル1)・鋭い爪(レベル1)…………
【固有スキル】獣の眼(レベル1)・逃げ足(レベル1)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
なんか勝手に出て来た。
しかも、
「な、何か前よりも見えるようになってる!!」
色々と項目が見られるようになっている。
これで襲撃犯の一人の実力が分かった。
全ての実力が詳らかになった訳ではないようだが、装備品やスキルから考えると、どうやら逃げることに特化した奴らしい。
だったら、こいつを捕まえたら俺に対抗できる術はないはず。
後はたった一人。
前を走る奴を捕まえれば、俺の視界に入ってきた襲撃犯は全て戦闘不能にした。
「な、なんで!? この前よりも速いっ!!」
グイッと服を掴むと、フリーダとかいう襲撃犯を地面に叩きつける。
「あぐっ!!」
倒れた拍子に口を隠していたスカーフが取れると顔が顕わになる。
その顔はダンジョンで見た万引き女だった。
「あっ、お前!! この前俺のもの盗んだ奴!!」
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