第41話 指名依頼の詳細
依頼の紙には、待ち合わせの場所と時刻、それから地図が書かれていた。
土地勘がない俺は少し迷いながらも、それらしき場所に着いた。
「ここか……」
冒険者ギルドから歩いていける距離だと受付嬢の人に聴いたけど、それなりに遠かったな。
三十分以上はかかったんじゃないだろうか。
依頼者との待ち合わせ場所に指定されたのは、大きな建物で、近くに馬車が二台も止まっていた。
運搬作業が頻繁に行われる場所なんだろう。
「何かを作っている工場か……」
依頼内容などの詳しい話は待ち合わせ場所についてからと聴いていたけど、まさか待ち合わせ場所が工場とは思わなかった。
「ああ、サキモリさん!! 今日はわざわざ来てもらってすいません!!」
工場の中から人が出て来た。
俺のことを知っている人か。
「ああ、どうも」
その人は眼鏡をかけ白衣を着込んでいる典型的な研究員みたいな見た目の人だった。
髪の毛が長すぎて瞳が隠れているが、それ以外のパーツが精緻に並んでいる。きっと髪を上げればモテそうな容姿をしているのに、ボサボサの髪と、怠そうな猫背の姿勢で損しているような人だった。
「今日は少し忙しくて、冒険者ギルドに顔を出せなかったせいでわざわざ来てもらってすいません……」
「いいえ、それは構わないんですが……。すいません。どなたですか?」
「あ? え? ああー、そうでした、そうでした、すいません。名乗っていなかったですね」
白衣のポケットに手を出し入れてしたり、後頭部で頭をかいたりと、落ち着きがない。
眼を合わせようとしないでキョロキョロしているし、人と喋るのにあんまり慣れていない人なのかな。
「申し遅れました。私、ベネディクトと申します。あなたに依頼を指名した者です。今回はよろしくお願いします」
「ああ、どうもよろしくお願いします」
手を出されたので握手した。
抵抗はあるけど、この辺じゃ普通の挨拶なのかな。
お辞儀で済ませたいんだけど。
「――それで、今回はどういったご用件で、俺は指名してくださったんですか?」
「ああ、実はですね。護送任務をお願いしたいんですよ」
護送任務。
想定外の依頼だ。
ただモンスターなどの敵から戦うんじゃなくて、敵から何かを守らないと行けないってことはそれだけ難易度が上がる。
他の依頼とは種類が違うから、わざわざこの人は俺に指名依頼してきたのか。
「護送任務というと、何を?」
「ああ、そこからですよね!! 私、実は薬を作っている会社の代表なんです。ベネディクトの回復薬といったら界隈の中じゃ有名なんですが御存知ありませんか?」
「す、すいません。勉強不足で……」
「あはは、そうですか、そうですか。冒険者の方に知られていないとなると、私、まだまだですね。もっと有名にならないと!!」
遠くを見つめながら拳を上げている。
熱い人みたいだけど、周りが見えないタイプだな。
こういうオタク気質な人は好きだけど、喋っていると疲れることが多いんだよな。
「それで護送というのは? 何を?」
「回復薬を製造工場から運搬作業を行いたいのですが、最近妨害行為が多くて困っているので、それを護っていただく為に是非サキモリさんにお願いしたかったんです」
回復薬か。
ダンジョンに行く前に露店などで売っていたな。
ベネディクトの回復薬って自分でいうくらいだから、俺が手にした回復薬もこの人が作ったものかも知れないな。
「な、なるほど。回復薬ですか。どうしてそれを俺に?」
「最近、運搬作業中に盗まれることが多いんですよ。工場を直接狙われることも増えて来たので、護衛を冒険者のような実力のある方にお願いしたいんですよ」
実力ある人、か。
今回一番聞きたかった質問を投げかけてみる。
「俺が言うのもあれなんですけど、どうしてFランク冒険者に?」
「……うーん。ぶっちゃけますと、Fランク冒険者の方の方が依頼料は少なくなるんですよ。Cランク以上の方を指名するとそれなりの費用がかかるんですが、予算が降りないんですよ」
「本当にぶっちゃけましたね」
成程な。
だから実績がないに等しい俺を指名したってことか。
代表なんだからもっと金に糸目をつけずに予算を使えばいいのに。
「襲撃者に心当たりはあるんですか?」
「うーん。ウチは薬の製造業でシェアナンバーワンですからね。色々な所で恨みを買っているでしょうから、特定は難しいですね。ライバル会社が薬の配合率を盗むためとか、単純に売ればお金になるから盗賊の類の犯行か……。数が多いので一つの組織から狙われるとは思ってないですね」
つまり、敵は沢山いて特定できないと。
敵が特定できれば、対策が立てやすいかなと思ったけど、出たとこ勝負ってところか。
増々依頼の難易度が高くなったな。
しかし、聞けば聞くほど、
「大変そうですね……」
「まあ、規模が大きくなればリスクも増えます。ただ問題なのは薬は毒にもなり得るので、盗まれた場合、どんな悪用がされるか分からないのが不安なんですよ、私は」
「というと?」
「傷を治すポーションであっても、配合次第では中毒性のあるクスリになったり、媚薬のように強制的に人の心を支配するようなクスリも配合できるようになります。そこらに生えている草であっても知識があり者が配合すれば、依存性の高い薬を作り出すことが可能です。それが私は怖いんですよ……」
薬を盗まれるのはレシピを盗まれるのと同義ってことか。
ポーションと一言で括っても、品質の良し悪しがあるのは当然か。
ベネディクト製の強力な効能のあるポーションの成分を解析すれば、より効果のあるクスリを作れるってことなのかな。
傷を癒すポーションをライバル会社に模倣されるよりも、悪用されることを憂いているみたいだ。
この人、いい人だな。
代表でありながら予算を自由に使えないってことは、襲撃事件が会社内でそこまで重いと認識されていないということ。
なのに、会社や被害者のことを考え、万が一に備えて人を雇って事件を未然に防ごうとしている。
力になって上げたくなったな。
「最近、流行しているクスリが『ヘブンアッパー』というクスリです」
「ヘブンアッパーですか?」
「フワフワとした気分になり、全能感で気持ちよくなるクスリです。傷を癒す効果もあるようですが、強烈な依存性があり、レベルも上がります」
「レベルが上がる!? それって凄くないですか? 本当ですか、それ?」
クスリを摂取しただけでレベルが上がるんだったら、それを飲んだ方が普通にダンジョンでレベル上げするより遥かに楽だ。
「本当です。ですが、ダンジョン以外で飲めば効果はなく、ダンジョンで飲んでレベルが上がってもダンジョンから出ればレべルは1に戻りますからね。あまり意味のない薬ですよ」
「でも、それがあれば魔王だって倒せるんじゃないですか?」
「そうかも知れません。ですがヘブンアッパーは先程も言った通り依存性があり抑制など聞きません。急激にレベルが上がる為、過剰に飲めば身体が内側からボロボロになり――最悪の場合死に至ります」
「そう、ですか……」
やっぱりそんなうまい話はないか。
一人一人は弱くとも、大勢の人間が死を覚悟してヘブンアッパーを飲めば魔王に勝てるかもしれないっていうのだけは分かった。
「それで、どうでしょう。今回の護送任務はお受けになっていただけますでしょうか」
「うーん。そうですねー」
話は大体分かった。
受けてみたいという気持ちに今、俺は傾いている。
ただ危険な指名依頼だ。
ここは慎重に受けるかどうかを判断しなくてはならない。
間違っても考えなしに引き受けるのは駄目だ。
「成功失敗関係なく、報酬は10万ギルド用意するつもりです。いかがでしょうか?」
「引き受けましょう」
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