第40話 依頼の受け方
冒険者ギルドまで帰ると、俺は戦利品を鑑定してもらった。
鑑定が終わったみたいなので受付にまで来ると、戦利品の値段を聞いた。
「全部で4000ギルドになります」
「4000ギルドですか……」
時給換算すると500ギルドってところか。
地元のバイトの最低賃金下回っているぐらいしか稼げていない。
万引き犯を探し回って走ったから相当疲れたんだけど、思ったよりも金にならなかった。
次の探索で使いそうなものを除いて売ったとはいえ、宿屋で働いていた方がよっぽど稼げていた。
戦利品を盗られたのは仕方ないとはいえ、第十階層にいるとされるフロアボスと戦闘できていれば、もっと貴重な物を持ち帰れたかも知れないのに。
今後の為にも、Fランクダンジョンのフロアボスの実力がどれぐらいかも知りたかった。
「お売りなりますか?」
項垂れていたので、俺が売るかどうか迷っているように思ったらしい。
今日中に売らないと日持ちしない物だってある。
冒険者ギルドにまとめて売ることで、値段を少し上げてくるサービスもあるみたいだから売らないという選択肢は最初から俺にはない。
「はい、お願いします」
「それでは即金で今お渡ししてもいいですか?」
「……はい、それでお願いします」
「最初の冒険でこれだけ稼げたら十分ですよ」
「ああ、はい、ありがとうございます」
俺が落ち込んでいるので、励ましてくれているんだろう。
こういうマニュアルに書いていないであろう言葉をかけてくれると傷ついた心に沁みる。
「先程報告された件ですが……」
「はい」
「やはりこちらでできることは少ないですね。ダンジョンでは『緊急避難』が適用され、罪に問われないことが多いです。事件にするなら帝国兵に一度ご相談を――」
「ああ、いいえ、何でもないです、すいません。ありがとうございます」
ダンジョンで手に入れた戦利品を盗まれたと冒険者ギルドで報告したのだが、やはりどうにもならないらしい。
盗まれた証拠や証人でもいれば、指名手配犯みたいに賞金をつけて捕まえる依頼を冒険者全員に向けて発信することもできたみたいだ。
だが、生憎そんな都合のいいことはできない。
「掲示板ご覧になっていますか?」
「いいえ、あまり……」
掲示板に依頼書が貼ってあり、そこから選んで冒険者ギルドに提出。それから冒険に出るのがデフォみたいだけど、まだ冒険者ギルドという場所に慣れていないので後回しにしていた。
それに、あそこはいつも人だかりが多くて近寄り難い雰囲気があるので、ちゃんと確認することは数少ない。
「ギルドで直接買い取りするより、あそこの掲示板から仕事を引き受けた方が報酬は割高になりますよ。指名料が加算されますから。ただ、その分、失敗した時に賠償金を支払わなければいけないですけどね」
「失敗、ですか……」
薬草採取とかモンスターを何匹狩るとかそういう依頼書は見かけたけど、失敗ってするもんなのかな。
「そうですね。自分のランクに応じた依頼しか受けられないようになっているので、実力不足ということで失敗する方は少ないですが、達成期間が遅れてしまって失敗扱いになることは多いですね。冒険者の皆様は時間にルーズな方が多いですから」
「そ、そうなんですね」
言葉に棘があるな。
冒険者の相手をしていてしんどい思いもしていたんだろうか。
冒険者ギルドには数回しか顔を出していないけど、受付嬢の人にクレームをつける人間が多いのは観ていて思った。
血の気がある人達だから、達成期間とやらを超過した場合逆切れでもされた経験でもあるんだろうな。
時間にルーズっていうのも、冒険者っていう職業が、自営業みたいなもんだから、時間をキッチリ守るサラリーマンみたいなタイプの人間が少ないからなんだろうな。
「ですので、ほとんどの方は依頼内容を達成して、依頼を受けるのが一般的ですね」
「え? どういうことですか?」
「だから、薬草を十個採取してきて、掲示板に行き、依頼書を手にして、即座に我々受付嬢にこの依頼を達成しましたと報告するということです」
「え? そんなのアリなんですか?」
「勿論、問題はありません。依頼を達成していることには変わりないのですから」
そっか。
依頼を受注し、冒険者ギルドに報告。
そして、依頼を達成したら、また冒険者に報告。
それしか方法を思いついていなかったけど、むしろ、依頼を達成してから報告する方が賢いやり方だな。
というか、それが一般的な方法か。
俺って、頭悪いな。
待てよ。
だとしたら、俺もそのやり方で報告した方が利益を上げられたのでは?
いや、それだとまとめて戦利品を数多く提出して得られたサービス料金が無しになるよね?
ということは、どっちが儲けられるか分からないな。
電卓が欲しい、電卓が。
それか、暗算が得意な経理担当ができるパーティメンバーが欲しい。
「あのー、確か多く戦利品を売れば、その分お金になるんですよね?」
「はい、そうですね」
「それってどのぐらいですか?」
「……物によってサービス料金が変わるので断言は出来ませんが、薬草を10個まとめて採取したら10ギルド加算され、ダガーを10個売られたら50ギルド加算されたりと、物の価値によって加算されるギルドは違います。それに、あまりのも状態が悪いものは加算の対象外となりますのでご注意下さい」
「まあ、それはそうですよね……」
故障品でサービス料金が加算されるならば、ジャンク品を集まられるだけ集めてお金稼ぎが出来そうだしな。
それができるなら、俺自身がリユース店を経営すれば、大金持ちになれそうだったから残念だ。
「依頼は依頼料が加算されるから、普通に冒険者ギルドで取引するよりも高値で取引されるんですよね?」
「はい。依頼者によってその値段は上下しますが、相場は存在しますよ。あまりにも低い場合はずっと掲示板に貼りだしたままです。最初は相場が理解できないでしょうから、ずっと残っている依頼は手にしない方がいい、ということだけは覚えておいた方がいいと思います」
「なるほど……」
だからわざわざ依頼書に貼られた日付が記入されていたのか。
何ヵ月経ったら冒険者ギルド側が剥がすみたいな決まりもありそうだ。
……って、それが聞きたかったわけじゃない。
勉強にはなったけど。
「その依頼サービス料と、売れば売るほどお金がもらえるサービス料ってどっちがお得なんですかね? あっ、やっぱり、物によって違いますよね?」
「そうですね、その通りです。……先程、サキモリさんが売ったものは取引済みなので、どちらが最終的に高くなるかは計算できませんが……」
「ああ、それはいいです、全然!!」
申し訳なさそうに頭を下げられると、こちらが申し訳なくなる。
「どちらがお得かどうかは気になるのでしたら、その都度こちらに訊いてもらっても構いません。こちらで計算致しますので」
「え? いいんですか? そんな手間のかかることをしてもらって」
「はい、大丈夫ですよ。それが私達の仕事ですから」
そこまで手厚くサービスしてくれるならありがたいな。
大量の戦利品を持ってきて計算してくださいと言ったら嫌な顔はされそうだけど、そういうことまでやってもらえるということを知れてよかった。
冒険者ギルドが多岐に渡ってサービスを行っているので、細かい部分まで知っている人少なそうだな。
俺が異世界人だからというだけじゃなく、この世界の人も。
今日の受付嬢さんはかなり詳しい人みたいだけど、明らかに手際悪くて質問に答えられない新人っぽい人もいるしな。
今回は当たりの受付嬢さんを引いたらしい。
話すんごい長くなっているのに、根気強く返答してくれていて、しかも嫌な顔一つしないし。
「あと……」
「あと、なんですか?」
何か言おうとして迷ったようだ。
蛇足的な話だろうか。
異世界は知らない事ばかりだからどんな情報でも知っておきたいので、俺は話をしてくれるように促す。
「先にダンジョン探索をしてから、依頼書を提出する際には気を付けて欲しい点があります」
「? 気を付けて欲しいことですか?」
「人気のある依頼はすぐに取られます。特にFランクの依頼は人気がありますから」
「人気……なんですか?」
依頼のランクが上がればそれだけ報酬が上がる。
それだけ危険度は上がるだろうが、俺ならなるべく上のランクの依頼を受けたいけどな。
「人気というのは語弊がありましたかね。Fランク冒険者の方の母体が大きいんです。Fランク冒険者で足踏みする方が多いので、必然的に依頼はすぐに消化されてしまうんですよ」
「…………」
やっぱり厳しいんだろうな、ランク上げっていうのも。
もしも冒険者資格試験の時みたいな異色の試験内容がランク上げにも適用されているのなら、ただ腕っぷしだけでのし上がれるという訳でもなさそうだし。
俺も最初はFランクで十分だと思っていたけど、よりより戦利品を獲る為だったらランク上げも視野に入れなと行けないかも知れない。
「ちょっと、いいですか?」
別の職員の人が、後ろから受付嬢の人に声をかけて来た。
受付嬢の人は俺と職員の人を見比べる。
「今ですか?」
「はい」
有無を言わせない職員さんに受付嬢の人は困惑した顔をする。
俺もいきなりの出来事だったので、何もできずに固まる。
「すいません、サキモリさん、少しだけ外してもいいですか?」
「あ、はい」
「そこでお待ちください!!」
「は、はい」
職員の人にいきなり叫ばれてビックリした。
何か俺やらかしたか?
「す、すいません。ですが、そのままお待ちください」
そう言われたら俺は待っとくしかない。
今日は今日とて冒険者ギルドは大盛況みたいだから、ずっと待ち続けているのは勝手にプレッシャーを感じてしまっている。
他にも待っている人がいっぱいいるのに、こうして座っているだけなのは針の筵なんだけど。
「えっ? 本当ですか?」
一際大きい声で受付嬢の人が、俺の顔を見ながら驚いている。
もしかして、俺の話をしているんじゃないだろうな。
数分だけ話が終わると、職員の人がどこかに行くと、受付嬢の人が椅子に腰を下ろす。
「――話の途中で申し訳ありませんでした」
「いいえ、全然」
思ったよりは早く話し合いが終わったので待ってはいない。
ただ、何の話をしていたのかは気になる。
「実はサキモリさんのことでお話があったみたいです」
「俺、ですか?」
「はい。実はサキモリさん、先程掲示板の話はしましたね?」
「――はい」
「掲示板ではなく、冒険者個人やパーティを指名する依頼もあります。そうなりますと、相場は掲示板の依頼よりも報酬は高くなります。本来ですと、Cランク以上の冒険者ぐらいにならないと指名はかかりませんけどね」
「なるほど……」
それなりに名の通った相手じゃないと指名しないだろうしな。
実績や評判の良さがないと指名なんてされないだろう。
「実は先程、サキモリさんに指名が入ったそうです」
「え? 俺に仕事の依頼が来たってことですか!?」
「はい。Fランク冒険者の方が指名を受けた事例を私は知りませんが、サキモリさんは色々と噂になっているので当然かも知れないですね」
「噂、ですか……」
あれか。
試験でCランク冒険者の人を差し置いて合格しちゃったやつか。
でも、実績と言ってもそれだけだよな。
俺より強い人や有名な人はもっといそうだけど、わざわざ俺を指名するなんてどんな人なんだろう。
「どうされますか? 恐らく難しい依頼をされるかもしれませんが、報酬は高いと思います。お話を聴くだけでもいいと思いますけど」
「そうですね……」
Fランクダンジョンへ行って、歯ごたえが無くて後悔したばかりだ。
わざわざ個人を指名するってことは、難しい依頼内容なんだろう。
ただ、話を聴くだけでもいいと言っているのだから、内容を聴いてから受けるかどうかは判断すればいい。
「分かりました。俺のことを指名してくれた方のお話を聴いてみようと思います」
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