第43話 人狼族の懇願
襲撃者の一人であるフリーダを組み伏せていると、手足をばたつかせて逃れようとしてくる。
「うっ、くそっ!!」
「暴れても無駄だ。というか、俺の商品盗んだ奴だろ。どうした?」
「あんなの全部売ったヨ!!」
「何!!」
「残念だったネ。弁償しようにもお金なんて私はないヨ」
「おいおい……」
開き直りやがった。
失うものが何もない奴は怖いな。
でも、実際お金ない奴からお金を巻き上げるので至難の業だよな。
そこまで損害ないから、働いて返して欲しいんだけど。
「とりあえず、縛らせてもらうからな」
「くそっ……」
ベネディクトさんに捕縛用に縄を貰っていたが、こんなに早く役に立つとは思わなかった。
もっと緩くしろヨ!! と叫んでいたが、何も聞かなかったことにしてしっかりと締め上げる。
フリーダを動けなくしていると、ベネディクトさんが駆けつけて来た。
「怪我はなかったですか!? サキモリさん!!」
「はい。大丈夫です!! それより、他に襲撃者はいないと思いますけど、探してもらえますか? それに、倒した連中がいつ目を覚ますか分からないので……」
「捕縛しておきますね。――おい!! みんな手伝ってくれ!!」
何をしていいのかアタフタしている職員達をしっかりとまとめあげた。
それに、俺が言いたい事を理解して先読みした指令を出した。
この人、適当にしているような見た目をしているのに有能だな。
前いた世界でもこういう人と仕事がしたかった。
「この方……人狼族ですね」
「人狼族?」
「獣人の一種で、人間の身体能力や反射神経を遥かに超える力を持つと言われています。その力を悪用する輩が多いと聞きます」
ベネディクトさんがそう説明してくれると、
「それはお前達人間のせいダッ!!」
フリーダは逆立つ毛で怒りを顕わにした。
「お前ら人間が私達を差別しなければ、私はこんなことをしなくて済んだんダッ!!」
「……獣人奴隷ですか。あなた達は誰の命令でこんなことを?」
「…………ッ!!」
「まあ、別に答えなくていいですよ。あなた達は憲兵に突き出します。罪を犯した獣人奴隷に人権なんてないですよ。牢獄で尋問されれば嫌でもペラペラ喋るでしょうし」
この人のこといい人かなって思ったけど、怖いな。
話している相手が相手だから、態度が厳しくなるのは当たり前なんだけど。
冷静に話しているようで、襲撃犯には怒り心頭なんだろうな。
何度も襲われているみたいだし、薬品や馬車が壊れてしまっている。
今回の一度の襲撃だけでも被害額は相当なものだし、労働者の心労もあるだろう。
経営者目線だと、フリーダは最悪の屑としか見えないだろう。
「あのー、憲兵って城の?」
「ええ。手間ですが、憲兵を呼ぶよりも、城に私達が向かった方がいいですね。サキモリさんも同行をお願いします。彼女達がまた暴れないとも限らないので」
「城って、どこまで入ります?」
「? 中に入って運搬作業をしますよ」
「そう、ですか……」
「城の中には入りますが、ずっと荷台の中にいてもらっても大丈夫ですよ」
「あっ、そっ、そっか! そうですよね!!」
「? どうかありましたか?」
「いいえ!! 大丈夫です!! 全部解決しました!!」
そうか、運搬作業を手伝わなくていいのなら、荷台の中に隠れていれば憲兵達に姿を顕わさなくて済む。
だったら城まで行っても、俺が大人しく隠れていれば問題は解決だな。
「ま、待って!! ……いや、待ってください!!」
フリーダは土下座の格好で頭を下げる。
「捕まるのはいい。ただ、姉に連絡させてください……。たった一人の家族なんです。もしも私から連絡がないって分かったら、きっと姉は悲しみます……。だからせめて一言だけでも……」
「…………」
「…………」
フリーダは泣いていた。
俺とベネディクトさんは黙りこくっている。
多分、同じことを考えているだろう。
同情できる話だが、正直、信じられるような話じゃない。
薬品を盗みに来るような奴だ。
嘘泣きぐらいいくらでもできる。
きっと、隙をついて逃げ出すことぐらいは考えているだろう。
俺は再度フリーダのステータスを確認する。
「戦闘用のスキルはないっぽいし……。いや、全部見えている訳じゃないからな……」
「スキルは全部見えていないんですか?」
「多分、そうですね。俺もよく扱えてないんで分からないんですけど……」
俺だったらフリーダを制御することができるはずだ。
ここはダンジョンじゃないから、レベル差があるはず。
ダンジョンで追いつけなかったのに、さっき追いつけたのはきっとレベルに差があったからだろう。
……ん?
というか、ベネディクトさん、普通に俺と一緒にスターテス画面をのぞき込むような動作をしていたような気がするんだけど。
「もしかして、これ、見えているんですか?」
「いいえ。ただステータス画面を見ることができる人間がいることを知っているだけです」
俺の指の動作だけで分かったのか。
やっぱり、俺以外にもスターテス画面を発生させることができる人間がいたのか。
仕様が分からないから、会ったら色々質問してみたいんだけどな。
「サキモリさん、まさか彼女の話を信じる訳じゃないですよね?」
「それは……」
フリーダのステータスを確認した意図を読まれたようだ。
全てを信じる訳じゃないが、涙まで流されると同情はしてしまう。
甘いようだけど、少し顔見せさせるぐらいはさせてやりたい。
これだけ損害を出されたベネディクトさんは許さないだろうなと思っていると、
「……いいですよ、彼女をお姉さんの所に連れて行っても」
「ほ、本当カ!!」
フゥ、と嘆息をつく。
経営者として更なるリスクを負うことは良くないことだろうけど、人間味のある決断をしてくれた。
「ただし、薬品とあなたのお連れの方の運搬作業が全て終えてからです。サキモリさんも、それでいいですか?」
「はい!!」
俺は迷わずそう答えた。
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