第37話 ダンジョンショップの問題点
第十階層へ行く為の階段前に、店を構えることにした。
ここならば必ず人が通る。
この霧の樹海ダンジョンは道が迷路みたいに入り組んでいるし、霧によって視界が遮られている。
そこらの道で商売を始めても気づかれない可能性がある。
だが、ここなら第十階層へ到達する人間は必ず通るし、それに階段前は何故か霧が晴れていた。
だけど、初めての商売ということで噴出した問題がいくつもある。
「まずは柵が欲しいな……」
当初の予定ではダンジョンで手に入れた戦利品を使って、店の周りをバリケードみたいに囲って安全な店にするつもりだったが、数が足りていない。
もっとちゃんと考えて柵を購入した方が良かったかも知れない。
お金があって、アイテムボックスに収納できるのなら『建物』が欲しいけどな。
柵や壁じゃなくて、お店の建物そのものをダンジョンに出店することができたら、それが一番いい。
この柵は俺のスキルで壊れませんよと言っても、柵を壊そうとするモンスターの姿を眼にするとお客だって気が気じゃないだろう。
購入する意欲がなくなってどこかへ行ってしまうかも知れない。
「あと、棚も欲しいな」
アイテムを地べたに並べてみたが、やっぱり見栄えが悪い。
一々しゃがまないといけないのもバツだ。
小さいストレスを感じるだけで、人の購買意欲っていうのは削がれるものだしな。
商品を陳列する棚があれば手に取りやすいし、眼に入りやすい。
商品の中には生ものもあるから冷蔵機能がついている棚が欲しい。
冷蔵機能のある魔石もありそうだから、普通の棚を買ってもそれはクリアできそうだ。
せめて商品を敷く布ぐらいは購入しておいた方が良かった。
ダンジョンの床に直置きするのは、流石に購入者がいい顔なんてしないだろう。
「やっぱり、俺はまだまだだな……」
ダンジョン探索自体は上手くいっていた。
むしろ、自分の考えている以上に、モンスターに苦戦することなくスムーズに目標だった第九階層まで到達できたと思う。
だが、肝心の商売が全然上手くいっていない。
今まで俺が経験して来た商売っていうのは、コンビニや宿屋みたいに事前に商売が行えるように準備されていた。
そこでの労働も大変だったけど、そもそも商売をする場所を確保することから苦労が始まっている。
それを今になって改めて思い知った。
その為に必要不可欠な要素が俺には欠けている。
「やっぱり金か……」
先行投資金がないと、商売が成功するかしないか以前の話だ。
まあ、そのために金が必要だから、商売しないといけないんだけど。
矛盾しているけど、まずは金がないと始まらない。
思っていたよりもアイテムが手に入ったから、それが上手く売れてくれれば金になるんだけど。
「あと、旗とか欲しいよな」
商売をしているアピールの為の宣伝が欲しい。
旗なら遠くからでも目に入るし。
コンビニで上り旗なんて必要あるのか? とか思っていたけど、ダンジョンで商売を初めようなんて奴はいないだろうから、その説明の為にも上り旗が必要な気がしてきた。
「あっ」
考え事をしている内に、霧の中から人影が見えて来た。
どうやら初めてのお客様が来店なさったみたいだ。
とても店という体裁を整えていない吹き曝しではあるが、お辞儀をして記念すべき最初のお客様を迎える。
「いらっしゃいませ。ここはアイテムを売買する移動するダンジョンショップです。どうぞ、ウチの商品を見て行ってください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます