第36話 Fランクダンジョン『霧の樹海』
Fランクダンジョン『霧の樹海』。
常に霧が発生し、多くの木々が生い茂るダンジョンだ。
外から見たら完全に洞窟にしか見えなかったが、入ってみるとまるで森の中にいるようで不思議な感覚だ。
今まで出現してきたモンスターのレベルの平均は5といったところで、階層を降りる事にモンスターのレベルは上がっていく。
今の所モンスターに苦戦はしていないが、それ以上に厄介なのはこのダンジョンの立ち込める霧だろう。
「俺、方向音痴なんだよなあ……」
駅のトイレから出ると、毎回反対方向に歩いてしまうぐらい方向音痴だ。
俺にとって、地図と睨み合いながら方位磁石を片手に正しい方向に歩くのは難易度が高い。
地下に進む事に霧が深くなっていくせいで、目印が付けにくい。
道なりに進んで、今は第九階層だ。
冒険者ギルドで地図や方位磁石が高値で売っていたから買うのを渋っていたが、持っていなかったらもっと迷っていただろうな。
「おっ、と……」
カラン、と足にナイフが当たる。
足元に何か落ちているのも分からないぐらい霧が濃くなってきた。
拾い上げると、
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【ナイフ+2】……推奨売買価格120ギルド。短めのナイフ。所々欠けているので耐久性は低い。
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と、画面が出現した。
持ち物を再確認すると、
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【アイテムボックス(レベル25)】(19/25)
→サンドイッチ×1
水袋×1
薬草×4
ナイフ×2
フットラビットの肉×3
壊れた鎧×1
樹液×7
マンイータートレントの根×3
皮の靴×2
ディアツリーの肉×2
ディアツリーの角×8
包丁×1
回復薬×2
木の矢×3
鎧×3
木製の盾×1
ポットアントの蜜×8
スカーフ×2
火打ち石×2
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ズラリと今まで拾った物、持参してきたものがズラリと出てくる。
「結構、武器落ちてるもんだな……」
血だらけになっているものや、欠けているものが多く見られているので遺品なんだろうが、あまり深く考えるのは止そう。
ただ、アイテムボックスがあるお陰でかなり楽に動けている。
同じ種類の物であっても別の個数で数えられる謎があるが、多くの物を瞬時に取り出しできるのは便利だ。
初めてのダンジョンっていうことで、釣りでいう所のボウズになることも覚悟していたけれど、これだけ物を揃えられているのは初めてにしては中々な気がする。
ただ、本当に目利きだったら入手する物を取捨選択するんだろうが、俺は手に入れられる物はとりあえず拾っている。
推奨売買価格がゴミ程度のものだろうが構わずに拾っているが、アイテムボックスがいっぱいになるのは予測できる。
「俺よりももっと凄いアイテムボックスのスキルみたいなものを持っている奴がいてくれたらなあ……」
スキルはかなり種類があるような気がするから、そんなスキルを持っている人間がいてもおかしくない。
一回の冒険でこれだけ手に入るのだから、そういったスキルや、アイテムを保存できるアイテムがあってもおかしくない。
「……ナイフ使おうかな」
売り物になると思ってナイフは使わないでおこうとしていたが、拳が痛くなってきた。
こんなに長時間何かを殴った経験がなかったから、こんなに疲れるとは思わなかった。
短期間の間に自分の力が強くなりすぎて、手加減もいまいち分からないから余計な力が入っているような気がする。
そのせいで拳だけじゃなくて全身が痛い。
武器を使えばもっと小さい力で敵を倒せそうな気がする。
俺はナイフを真横に振る。
「ギ、ギィァッ!!」
飛びついてきたフットラビットが中空で静止する。
俺の突き立てたナイフと、フットラビットの鋭い歯が激突したのだ。
「気配を読むのも慣れて来たかも知れないな」
まぐれかも知れないが、背後から迫っていたフットラビットを視界に収めなくともある程度の位置を把握できた。
フットラビットの動きが遅いので、草叢を掻き分ける音が聴こえたせいでもあったが、上手く対応できてきた気がする。
今まで傷という傷を負っていないのがその証拠だ。
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【名前】フットラビット
【レベル】5
【特徴】炎系の魔法が弱点。視野が狭く、直線の動きには強いが、横からの攻撃には弱い。
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フットラビットは、見た目がずんぐりとした兎だ。
多分、このダンジョンで一番弱くて、一番戦ったモンスターでもある。
そのせいかは分からないが、ステータスに最初は表示されていなかった【特徴】という項目が増えている。
何度も戦う内に項目が増えたんだろうか。
火を起こして松明を投げつけたり、フットラビットを横から攻撃したりしたので、その俺の行為がそのままステータスに反映されているのかも知れない。
「相手の攻撃はやっぱり無効化できるみたいだな……」
襲いかかって来るフットラビットの猛攻を、ナイフで何度も防ぐ。
倒そうと思えばいつでも倒せるが、自分のスキルについてもっと知っておきたいので色々試しながら考察していく。
「――うわっ!!」
フットラビットの攻撃でナイフが折れた。
部分的に『経営圏』を解除したせいだ。
言葉に出さなくても、この温い戦闘なら『経営圏』の発動のON/OFFぐらいはできるようになった。
もっとスピーディーな戦闘や強い敵との遭遇時は言葉に出さなければいけないかも知れないが、かなり自分の固有スキルが使いこなせるようになってきている気がする。
「よっ、と!!」
俺は拳骨でフットラビットの頭蓋を割る。
勿論、手加減している。
あまりにも強い衝撃を与えて木っ端微塵にすると、アイテムボックスに収納できない。
ただの肉片になってしまう。
その辺りのシステム面もまだ謎が残っている。
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【レベルが上がりました】
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「うわっ、や、やっとか……」
霧の樹海の第九階層まできて、やっとレベルが一つ上がった。
これでようやくレベル26か。
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【名前】崎守 天守 (サキモリ テンシュ)
【レベル】26
【攻撃力】22
【防御力】39
【魔力】18
【耐魔力】31
【素早さ】28
【ジョブ】店主
【スキル】ステータス表示(レベル26)・鑑定(レベル20)・暗視(レベル6)・分析(レベル2)・防御力上昇(レベル18)・耐魔力上昇(レベル16)・攻撃力上昇(レベル23)・魔力上昇(レベル8)・素早さ上昇(レベル11)・耐火上昇(レベル25)・商品詳細編集(レベル26)
【固有スキル】経営圏(レベル10)・アイテムボックス(レベル26)
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レベルが上がったみたいだけど、イマイチどのぐらい上がったか分かりづらいな。
ただ感じたことは一つ。
あまりにもレベル上げの効率が悪い。
「やっぱり、Eランクダンジョンの方へ行った方が良かったかな」
出てくるモンスターのレベルが低すぎてレベルを一つ上げるだけでも一苦労だ。
冒険者ギルドでFランクダンジョンか、Eランクダンジョンどちらを探索するかを訊かれた。
初めてのダンジョンだしFランクダンジョンを選択した方が安全だと思ってFランクダンジョンを選択したのだが、間違いだったかも知れない。
「あと一階でフロアボスか……」
Fランクダンジョン『霧の樹海』は地下十階までしか階層がないと聴いている。
そして、第十階層にはフロアボスがいて、そのモンスターは強いらしい。
ということは、ここらで装備を整える人間が多いことになる。
稼ぐならここが一番なはずだ。
「ここら辺で店、やってみるか……」
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