第26話 冒険者試験開始
「こ、腰いてぇ……」
道を歩きながら、腰に手を当てる。
昨日、手頃な値段で宿泊できる宿屋を探したのだが、どこも高かった。
やっぱり街中ともなると宿泊費が高い。
格安の宿屋だったので部屋の内装を確認せずに部屋を借りたのだが、ベッドがなかった。
藁の上で寝たし、水道管もなかったので自分で井戸の水を汲みに外に出ないといけなかった。
力仕事もあったし、寝ている場所も悪かったので腰が痛くなってしまった。
年齢のせいもあるだろうけど、こんなんで今日の試験は上手くいくんだろうか。
手元の紙を眺める。
昨日、冒険者ギルドで自由に取って下さいという文字と共にあった紙だった。
その中でも興味を引かれたのは二枚の紙だった。
今月の冒険者の試験の開始される時間帯と集合場所が書かれている紙と、冒険者のランク付けの定義の紙だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Fランク冒険者……戦闘能力は問わない。新人冒険者への称号。
Eランク冒険者……自分を救える力と、それに見合った実績がある冒険者への称号。
Dランク冒険者……パーティを救える力と、それに見合った実績がある冒険者への称号。
Cランク冒険者……小さな村や町を救える力と、それに見合った実績がある冒険者への称号。
Bランク冒険者……都市を救える力と、それに見合った実績がある冒険者への称号。
Aランク冒険者……国を救える力と、それに見合った実績がある冒険者への称号。
Sランク冒険者……世界を救える力と、それに見合った実績がある冒険者への称号。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
これが絶対ではないだろうが、概ねのランク付けってことだ。
昨日のシュタインっていう剛腕の人がCランクとか言っていた気がする。
こうして見ると思ったよりも強い人だったんだと分かる。
パーティのリーダーを率いるどころか、軍を率いる将ぐらいの地位はあるんじゃないだろうか。
こうなったら徹底的に身を隠さないと。
自分の頭に包帯がちゃんと巻かれていることを、手で触って確かめる。
異世界人であることがバレないようにしないと。
「ん?」
冒険者ギルドの横にある広場のような開けた場所に着いた。
ここが試験会場らしいのだが、何やら騒がしい。
まるで動画投稿者が街中に現れたぐらいの五月蠅さだ。
「あれ? 俺って目立ってるッスか?」
人垣の隙間から除いたら、憎らしくも見知った顔が見えた。
「――わっ」
俺は思わずしゃがみ込んで身を隠した。
よ、よりにもよって、逢坂と顔を合わせることになるなんて。
でも、それも当然か。
一ヵ月に一回しか冒険者になる為の試験がないというならば、冒険者を目指す同士がかち合ってもおかしくない。
しかし、一体どんな格好なんだ?
黄金色に輝く甲冑を着込んでいる。
あれが勇者専用の武装ってことか。
趣味が悪いし動きづらそうだけど、あれで戦闘能力が向上するんだろうか。
まあ、俺もミイラ男みたいに顔全部包帯で覆われているから、人のことを指摘なんてできる訳もないが。
「皆さん、お集りいただいてありがとうございます」
魔石がはめ込んでいる拡声器を使って、女の人が声を張る。
冒険者ギルドの人だろうか。
冒険者ギルドで見た制服を着込んでいる。
他にも冒険者ギルドの人はたくさんいて、俺達の周りを囲むようにして立っている。
「これより、冒険者試験を開始します。進行役は冒険者ギルド長のこの私がさせてもらいます」
この人が、冒険者ギルドの長なのか。
凛々しくて綺麗な人だ。
そして、ついに試験が始まるのか。
周りを見渡すと、百人以上は志望者がいるみたいだ。
想像以上に人が多い。
これだけ多いってことは、今まで何回も受けている人も少なからずいそうだな。
俺よりも何倍も体が大きかったり、強そうだったりする人がたくさんいる。
緊張で胃が痛くなってきた。
「指定の時間より十分以上過ぎましたので、門を閉めさせていただきます」
鉄の門が数人がかりで閉められようとしていた。
あれで、遅刻した人間が入って来られないようにしているのか。
「トイレや用事がある方は門が閉まる前に仰って下さい。試験開始前にここから出る方は二度と戻って来られません。来月また受けてください」
その言葉を聞いて動く者はいなかった。
程なくして重い門は閉じられる。
これで逃げることはできなくなったな。
「はい。これで全員ですね。今回の試験ですが、特殊な試験を行います」
広い場所に閉じ込められたことになる。
周りには試験に仕えそうな道具や武器はなさそうだ。
試験というのだから、筆記試験も想定していたのだが、机もない。
ということは、実践方式の試験か?
「あなた方に最初にやってもらうのは――」
周りに言い知れぬ緊張が走る。
特別な仕掛けもないような試験会場で、人だけが集められている。
だとしたら、自ずと試験内容は限定できる。
そのことにここに集まっている連中は、察することができる者もいるはずだ。
恐らく、ここで行われるのは、対人戦。
試験の受験者同士による血で血を洗う戦いが、今――始まろうとしている。
「じゃんけんです」
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