第27話 試験内容の説明

 周囲の冒険者達が、ギルド長の言葉にザワつきだす。


「じゃんけん? 今、じゃんけんって言ったか?」

「試験内容がそんなふざけたお遊びな訳あるのか?」

「運だよな、じゃんけんって。そんなことで決まっていいのか?」


 じゃんけん、と訊いて混乱した俺の反応が間違っていた訳じゃなさそうだ。

 やっぱり、じゃんけんで勝負して合格か不合格を決めるなんておかしい。


 普通、戦闘面の強さを見るんじゃないのか?

 じゃんけんで勝ったら冒険者になれるって、そんなの試験でも何でもない。

 ただの遊びだ。


「ふざけんな!! じゃんけんなんかで俺達の合否を決めるっていうのか!!」

「そうだ!! 横暴だ!! じゃんけんなんてその時の運だろうがあっ!!」


 不平不満を言う声が大きくなっていき、直接ギルド長を批難する大声を上げる人間まで出て来た。

 冒険者になることを夢見たり、その日暮らしの人だっているはずなんだ。


 異世界って日本より治安悪そうだから、ギルド長に殴りかかる人間が出てもおかしくない。

 俺なんかいきなり斬られたのがいい例だ。

 夕方になったら大抵の店は閉まるし、通行人もいなくなった。

 襲われる危険性があるから、みんな宿屋や家にいるんだろうな。


「文句があるならば帰ってもらっても結構です。どうぞ、お帰りを」


 ギルド長は冒険者達からの不満に平然としていた。

 俺が力自慢の冒険者志望の人間達から批難されていたら、卒倒する自信あるけどな。


「あなた達に冒険者の資格を上げる権利を持つのは私達です。気に喰わないのなら他の国に行ってください。止めはしません」


 そう言うと、チラリと視線を移す。

 ギルド長の視線の先には、ローブで顔を覆っている人がいた。

 なんだろう、あの人、と思う前に、紙を広げて再び話し出す。


「運は冒険者が必要とすべき要素の一つです。運が悪ければ、剣や杖が折れた状況下でモンスターに襲われるかも知れません。魔法しか使えない魔法使いが、魔法を弱体化するモンスターと対峙するかも知れません。今回図るのはその運です。――もっとも、今回のように特異な試験をしなければならなくなったあなた方は、運がないかも知れませんけどね」


 声が上擦っている。

 興奮しているというよりかは、緊張しているように聴こえる。


 どうしたんだろう。

 さっきはあれだけ堂に入った話し方をしていたのに。


 ただ、俺が微妙に違和感を覚える程度だ。

 他の冒険者志望の受験者を横目で見ても何の反応もしていない。

 俺の勘違いか?


「よく考えて下さい。運が良いのか悪いのかはあなた方が決めることです。普段は的を標的とした魔法スキルを見る試験や、冒険者としての知識を求められる筆記試験が試験内容としてあります。――ですが、魔法を使えないけど剣の腕前は最強の冒険者は? 知識はなくとも腕っぷしに自信がある冒険者は? そう思ったことはありませんか? あまりにも不平等な試験に辟易していた人もいるかと思います。ですが、じゃんけんは平等です!! なら、あなた方は運がいい受験者ということになります!!」


 つらつらと理論を並べていくギルド長に、みんな言葉を紡ぐ。

 真剣に耳を傾けるようになっている。


 だからこそ気になってしまう。

 さっきから、チラチラとローブの人間に向かって視線を送っている。

 そして、ローブの人間は軽く頷いているように見える。

 合図を送っているように見えるけど、一体どういう関係なんだ?


 立っている場所が、あまりにもギルド長から近い。

 冒険者ギルドの関係者のように見えるが、他の受付嬢と距離を開けている。

 一歩下がっている受付嬢を見るに、受付嬢よりも立場は上のようだ。


「今回の試験で必要なのは、運と、冒険者としての資質です!! ダンジョンでは何が起こるのか分かりません!! 狡猾なモンスターは罠を仕掛け、闇の中に集団で身を潜めて袋叩きにしてくる者もいます!! いかなる過酷な状況下であっても柔軟な思考と冷静な判断を行う者だけが生き残ることができるのです!!」


 ん?

 何だろう。

 今、何か変なことをギルド長が口走った気がする。


 嫌、今じゃない。

 最初から、何か変じゃないのか。

 でも、それが何なのかが分からない。


「皆様、まずはじゃんけんです!! まずはじゃんけんを行ってください!! そしてお互いに納得する勝敗を付けた場合、お近くの受付嬢に声をかけてください。勝ったと認められた方はその時点で合格とします! 合格者はこちら側に集まり、不合格者は門の方へ行って下さい。不合格者は速やかに退場してもらいます」


 受付嬢を見ると、恭しく頭を一斉に下げる。


「そして、先に忠告しますが、負けを認めた後にごねたり、不正を行った場合はその時点で失格です。三十人以上の受付嬢が眼を光らせています。もしも受付嬢に試験中止の声をかけられた場合は、申し訳ありませんがその時点で今回の試験は失格です」


 じゃんけんの不正ができないってことか。

 後出しだったり、そもそもグー、チョキ、パー以外の手を作ったらその時点で負けが確定するとか、そういうルールなのかな。


「それは皆さん、じゃんけんを行って下さい」


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