第28話 冒険者としての資質を問われる試験
ギルド長はこれで試験の説明を終えたと言わんばかりに、スッと後ろに退く。そんなことで説明責任を取ったと思わないで欲しい。
まだ全然聞き足りない。
そう思っていたのに、
「よし、じゃんけんするぞ!!」
「おう!! 勝っても負けても恨みっこなしだな!!」
「掛け声はどうする? 出す時に後出ししないように、決めておこう。地域で掛け声が違う時があるからな」
みんな、意気揚々とじゃんけんを始めている。
既に勝った、負けた人がいるらしく、人の流れが起きている。
「おいおい……」
一致団結してギルド長を責めると思ったが、喋っている時の迫力が凄かったから怖気づいたのか。
だとしても、何でいきなり何も考えずにじゃんけんしているんだ。
本当に、じゃんけんで合否を決めていいのか?
でも、ギルド長の言う事はもっともらしい事が多かった。
もしも今回の試験が筆記試験だったならば、俺は確実に不合格だったろう。
冒険者に関する試験が出て、このダンジョンに生息するモンスターは? この道具の使い方は? このモンスターの弱点は? みたいな知識を問われるような試験だったならば、お手上げだ。
冒険者どころか、この世界のことすらロクに知りもしないのだ。
不合格は必至。
むしろ、二分の一で合格できるとなったら、運がいいのかも知れない。
そしてそれは、俺だけじゃなく、ここにいる人達にも適応されている。
「や、やったー!! 勝ったあああ!! 半年ずっと受けて、ようやく受かったー!!」
大声で喜ぶ声が聴こえる。
どうやらあの人はじゃんけんで勝ったようだ。
負けた人は地面に突っ伏して泣いている。
その負けた人の肩を持って、受付嬢が立たせている。
早く外に出るように促しているようだ。
ああいう風に、今まで実力が足りなかった人は、すぐにじゃんけんをしているようだ。
むしろ試験会場にいる半数以上の人は、何も考えずに即座にじゃんけんをしているようだ。
流石に冒険者を目指す人達だけあって、決断力がある。
でも、俺は向こう見ずにはなれない。
生活がかかっている以上、二分の一の合格に全てを委ねることなんてできない。
もっと確率を上げる方法はないのか。
「じゃんけん、か……」
じゃんけんには必勝法がない。
ただ、出しやすい手は、グー。
出しづらい手はチョキだ。
子どもでも分かる。
何も考えずに手を出した場合、一番手の形を作りやすいのはグーであり、作りづらい手はチョキ。
つまり、パーが最もじゃんけんで勝ちやすい手になる。
平常時、じゃんけんで勝ちたいと思ったら、俺はいつもパー、気分を変えてグーを出すようにしている。
だが、大きな勝負事となると、人間は無意識化で工夫しようとするだろう。
勝つために努力しようとするなら、単純な手であるグーではなく、チョキか、パーが多くなる傾向にあるはず。
つまり、チョキを出せば負けることはない。
いや、こんな考え方はあくまで俺の考えだ。
旧知の仲だったら、統計学を駆使して出す手を予想することぐらいはできるが、ここにいるのは初対面の人間だ。
じゃんけんの必勝法なんてある訳がない。
こんな試験を出したギルド長を恨むぞ。
「待てよ」
本当にこの試験はじゃんけんが合格条件なのか?
ギルド長の様子がおかしかったことが、何かのヒントになるかも知れない。
違和感は、話している時に声が上擦っていたこと、チラチラと誰かの様子を伺っていたことか。
まるであの人に指示されたことを間違えずに話すように言っていたように見える。
あの伺いを立てる様子から察するに、恐らく急に言い渡された指示だったように見える。
もしも突発的なことじゃなかったら、入念な打ち合わせをしていたはず。
急に命令されたことを聴くということは、相当身分の高い人物ということになる。
ギルドで一番偉い人が指示に従うのだ。
それこそ、城の中の人間である可能性が高い。
そうした理由は、もしかして――――勇者である逢坂の為、か?
実技試験や筆記試験だと、まだ知識や経験のない逢坂を冒険者として合格させることができない。
だから、確実に合格できるような試験にしたんじゃないのか?
だとしたらこの試験、合格の為の必勝法があるんじゃないのか?
――今回の試験で必要なのは、運と、冒険者としての資質です!!――
ギルド長のあの言葉がまずおかしい。
じゃんけんに必要なのは運だけだ。
冒険者としての資質なんて、じゃんけんに関係ないはずだ。
――いかなる過酷な状況下であっても柔軟な思考と冷静な判断を行う者だけが生き残ることができるのです!!――
ギルド長はこうも語っていた。
柔軟な思考と冷静な判断が冒険者としての資質だと。
つまり、この試験は一筋縄じゃない。
もっと何か隠された要素があるってことだ。
それをお前達で考えて導き出せってことなんだ。
――あなた方に最初にやってもらうのは――
そうだ。
確かに、最初に、と言っていた。
じゃんけんは最初に?
でも、実際にじゃんけんを行って合格、不合格している者は存在している。
つまり、じゃんけんが合格の基準の一つとなっているのは確かなんだ。
でも、その以外にももっと重要なことを言っていた気がする。
――「 」――
その言葉を思い出した時、息に詰まった。
ああ、そういうことか。
ようやくギルド長の、いや、あのフードを眼深に被った謎の人間の言いたかったことが分かった。
「この試験内容はじゃんけんであって、じゃんけんじゃないんだ」
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