第14話 爆弾を投げる包帯男(ミサ視点)

 こうして無遠慮に呼び出される時は、大概嫌な要件を聴く時だけだ。

 旦那の死を聴かされた時だって、あの時兵士に声を掛けられた時だった。

 私が冒険者ギルドや城に出向く前に、こうしてここまでやって来たってことはそれだけ大事ってことだ。


「何か用かい?」

「単刀直入に言おう。これから我々についてきてもらいたい」

「はあ?」


 国のエムブレムが肩に入っているだけで、王国兵ってことは誰だって気が付く。

 つまり、城まで来いってことだろうが、話が急すぎる。

 逆らったら店を潰すぐらいするかも知れないが、流石に承認できない。


「どういうことだい? 私は店も経営しないといけないし、娘もいるんだけど」

「ならば娘も連れてくるといい。貴様の力を再度借りたいと第三王子からの命令だ。従ってもらう」

「チッ――」


 少しでも養育費を稼ごうと思って、冒険者ギルドへ行ったのが間違いだった。

 私のスキルを活かせる仕事が募集されていて、短時間で高収入の仕事があったので受けたのだ。

 それが城での仕事だったせいで、どうやら眼を付けられたらしい。

 どうやら金と引き換えに、面倒な人間に気に入れられてしまったのか。


「期間はどのぐらいだい?」

「さあ。我々はそこまでは聴かされていないな。一日か、それか半年か。あの御方が飽きるまでだろう」


 仕事内容はまだ聞いていないが、どうやらまともな仕事ではないらしい。


 娘も連れて行くと言ったが、人質として利用されるのがオチだ。

 私が仕事をしている間、育児をしてくれるような親切心なんてある訳がない。


「悪いけど、私はどこにも行かないよ。この宿屋をやり続けるって決めてるんだ。この店に泊まっている客だってまだいる。宿屋を求めている客が居続ける限り、私はここから離れないよ。私は客の夢を守るんだ」

「そんなちっぽけな夢よりも、世界を救うための大義の方が大事に決まっているだろ」

「世界を救う? あんたら一体……」

「口が滑ったようだ。いいからすぐに来い」


 男の一人が強引に腕を掴んでくる。


「やめ――」

「抵抗すればどうなるかな? ここの宿屋をぶっ壊してやろうか?」


 抵抗しようとすると、他の男が杖を掲げる。

 魔法が使える奴らしい。


 このまま抵抗したら、今家にいる客や娘、無関係の人間の血が流れる。私が少しばかり嫌な想いさえすれば、みんなの無事が保証されるなら――と、抵抗する気力が消えた所で、


 ドォオオオンッ!! と近くで爆発が起きた。


 地面が黒焦げている。

 男の一人が放った魔法ではない。


 視界の端に微かに映ったのは、石のようなものだった。

 それが真横から投擲された。

 私は視線を横にズラす。


「うわっ、思ったよりも大きな爆発が起きたな」


 そこには包帯をグルグル巻きにしている男がいた。

 名前を聴くのも憚れた、ウチの従業員(仮)だ。

 手には沢山の魔石を持っていて、これ見よがしに見せてきた。

 あれを投げたのか。

 確かに魔石は魔力の塊であり、爆発事故も稀に起きる。


 冒険者でもない人間は非力だが、まさか魔石を投擲武器として使うなんて、誰も発想していなかったことだ。


「何だ、貴様は?」

「ああ、悪い。手がすっぽ抜けちゃって。本当は当てるつもりだったんだけど」


 兵士達は虚を突かれたようだったが、すぐに陣形を取り直す。

 投擲された魔石は脅威だが、身構えていれば避けられないものでもない。


「……何者かは知らないが、ここの宿屋の客か? 事情も知らないのに、首を突っ込むのは感心しないな」

「今度は当ててやるよ」


 不敵に笑う包帯男だったが、自分が何をしたのかまるで分かっちゃいない。

 相手は訓練された兵隊だ。

 しかも国の兵隊であり、弱い訳がない。

 そこらの冒険者よりもよっぽどの手練れのはずだ。


「やめな!! 手を出したら、アンタだってどうなるか分からないよ!!」


 仮に勝てたとしても、いや、勝ったら余計にマズい。

 もっと強力な兵達が送られてきて、そしてそれは何百人、何千人だって送られてくる。

 その相手を一個人ができる訳がない。


 ――と、ざわざわと周りが騒がしくなってくる。


 どうやら、魔石の爆発音に釣られて他の住民達が群がってきたようだ。



「人が……」

「ふ……。貴様ら、命拾いしたな。また来る。それまでに荷の準備でもしておけ」


 男達は目立ったら困るのか、すぐに退散していった。

 それを見て、他の住民達も背を向けていく。

 どうやら奇跡的に助かったらしい。


「大丈夫ですか?」


 そんな奇跡なんて全く分かってないような声色で、包帯男が手を差し出してきた。

 遠慮なく手を掴む。

 いつの間にやら腰が抜けて立てなくなっていたからありがたい。


「ああ、大丈夫だよ。でも、もう二度とあんなことをしないでくれ」

「それは……」


 しないと答えられない正直な男らしい。

 どうやら、この包帯男は自分が思っていたよりも、よっぽど不器用な生き方しかしなかったらしい。


「なにせ、お金がかかるからね」

「えっ?」

「アンタが魔石いくらすると思ってるんだい? 半日はただ働きだね」

「……ぅえ」


 包帯男の困った様子が面白くて、私は愉快に笑ってしまった。



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