第23話 冒険者ギルドへ


「……うわー」


 冒険者ギルドまでやって来た。

 昼時に来てしまったせいか、冒険者らしき人達でごった返している。


 大勢の人達はみんな姿かたちが変わっている。

 城の中だと普通の人だった気がするけど、ここには耳や尻尾が生えている人までいる。

 首輪をしていて鎖で引かれている人もいるけど、もしかして奴隷ってやつなのかな?


 他にも鱗で顔が覆われている人や、通常の人間の倍の身長はある人がいたりして、どうしてもガン見してしまう。

 色々な種族の人がここに集まっているようだ。


 眼がギラギラしていたり、服の上からも筋肉隆々とした体つきが分かる人ばかりで、正直近寄りがたい。

 モンスターと戦う仕事が主な冒険者層なのだろう。

 明らかに馬車に乗車していた人達とは雰囲気が違う。


 時間をズラした方がいい気もするが、ピーク時がどれだけの人数なのかも分からない。

 早速、手持ちの『赤い逆鱗』を売買しよう。


「あのー」

「はい?」


 一番近くにいた眼鏡の受付嬢の人の元へ行く。


 羽ペンや紙が自動で動いているように見える。

 魔法ってやつなのかな?


「すいません。売りたいものがあるんですけど……」


 スムーズに出せるように、既に『赤い逆鱗』はポケットの中に入れている。

 取り出そうとすると、受付嬢の人はあからさまに機嫌が悪そうになる。


「出さなくて結構です。まず、売買の担当はここじゃないです。あちらです」

「あっ、すいません」

「あの! まずはそこの受付で番号札を受け取って下さい。番号でお呼びしますので!」

「受付……」


 なんでこの人こんなにキレてんだろうっていうぐらいにキレられた。

 接客業に就いて、自分のカスタマーサービスの向上をして欲しい。

 日本じゃなきゃ、こういう対応も普通か。


 始めて来た所だから勝手が分からないのぐらい当然だと思うんだけどなあ。


 指を刺された受付の人の所まで来た。

 こちらの人はさっきの人より柔和そうな雰囲気だった。


「今日はどういった要件でしょう?」

「売りたいものがあるのと、冒険者登録っていうやつがしたいんですけど」

「承知しました。売買品はあちらで受付します。冒険者登録には試験が必要ですので、ここに記載お願いします。文字は書けますか?」

「ここの文字は書けないですね」


 異世界の文字は読めないし、書けない。

 ラーメンの器に書かれている模様みたいなものにしか見えない。

 こちらの言語が通じているのは、召喚された時からだ。

 異世界人には自動翻訳機能がついているのか、それとも以前召喚された勇者である日本人が日本語を伝来したのかは知らないけど、文字もしっかりと言葉と同じように伝わるようにして欲しかった。


 そのせいで、宿での受付が大変だったんだよな。


「それでは、そこの羽ペンを持ってください」

「? はい?」


 手元にあった客用らしき羽ペンを手に取る。

 日本語で書いてしまっていいんだろうか。


「口頭で質問します。お名前と年齢を仰って下さい」

「え? えっ、と。崎守天守。30歳です」


 何で口頭? と首を捻ると、


「――わっ!」


 手が勝手に動き出す。

 羽ペンを動かしていないのに動いていて、文字を書いていく。


 魔法をかけられているかのように、羽ペンは鈍く発光している。

 これって……?


「冒険者になりたい理由はなんでしょうか?」

「きょ、許可がないと入れない場所に、冒険者になれば入れると聴いたので」


 そう言うと、またサラサラと羽ペンは動いていく。

 さっきまでは静止していたのに、俺が口を発した瞬間、動き出した。

 やっぱり、俺の答えと連動して書いていて、書き終わったらその動きも止まる。

 どんな仕組みかは知らないけど、俺の答えを反映しているようだ。


「誰かからの推薦を受けていますか」

「――いいえ」


 また羽ペンが動き出す。


 凄いな、これ。

 どうにもここは国際色豊かで、喋っている言語もみんな違うようだ。

 日本という列島ですら、方言という言葉の違いがあって、言葉が伝わらない時がある。


 大きい大陸の中で沢山の国が隣接しているケージ帝国には、多くの人種がいて、多くの言語が飛び交っている。

 だからこそ、この羽ペンの翻訳技術があるとかなり便利だな。


「ご確認致します」


 受付嬢の人は、俺が自動で紙に書いた文章を無表情で読んでいく。


 慣れている様子だ。

 無駄に驚いたのが今更ながら恥ずかしくなってくる。

 田舎者丸出しだったかな、さっきの俺の反応は。


「お間違いないですか?」

「はい。間違ってないです」

「試験を行いますが、その前に2000ギルドをお支払い下さい」

「はい」


 試験か。

 やっぱり、冒険者になるのは事前に聴いていた通りあるんだな。

 不安だな。

 一体どんな試験をするんだろう。


「――え!?」


 さっきまで事務作業を淡々としていた受付嬢の人の目が剥く。


 どうしたんだろう?

 ステータス画面を起動して、虚空からお金を引き出しただけなんだけど。

 これ、第三者から見えてないんだよな?

 ステータス画面に色々と改造を施しているから、見えていたら変だったかな?

 適当に星柄とかステータス画面の端っこに、一日限定でデコってみたんだけど、それが似合わなかったとかかな?


「? どうしました?」

「い、今、どこから取り出して――い、いいえ。何でもありません。確かに承りました」



 この反応。

 ステータス画面からアイテムを出したことに対する反応だよな。

 やっぱり、異世界人特有の特殊技能だったりするのかな。


 ミサさんだって冒険だったのに、知らなかった感じだしな。

 あんまり人前で多用することじゃないかもな。


 かつての勇者が犯した虐殺事件っていうのが、どれだけの影響力があるか分からないけど、あまり俺が異世界人であると周りにアピールしてもいいことにはならなそうだ。


「それでは冒険者登用試験ですが、明日行われます。朝の10時開始です。遅刻は厳禁。少しでも遅れた場合は、また来月受けてもらいます」

「来月って、もしかして試験って一ヵ月に一回しかないんですか?」

「そうです。もしも落ちた場合は、また来月に試験を受けてもらうことになります」


 事務的に言われているけど、これって結構なことだよな。


 一ヵ月間、無職でいろってことだよな?

 これは不味いな。

 明日冒険者の資格を取れなかったら、すぐに次の就職先を見つけないといけない。

 一ヵ月間、金なし職なしで呆然としている訳にもいかない。


 そもそも冒険者になったところで、仕事が山ほどあるのかと言われればその確証もまだないのだ。

 そう考えると凄い不安になって来た。

 冒険者になれば漠然と大丈夫だと思っていたけど、不安しかない。

 なるべく情報収集してから、ここから出よう。

 こんなに人がいるんだから、色々と知れることは多いはずだ。


「他に質問がなければこれで以上となります」

「ない――です」


 質問がないというか、分からない事があり過ぎて、分からない事が分からないから質問できないって感じだ。


「それでは、そこの椅子におかけになってお待ちください。売買取引のご案内をしますので、番号札が光ったら、5番窓口までお願いします」

「はい」


 番号札が光ったら? ってどういうこと?

 と思っていたら、実際に光っているのを目撃する。


 他の人が持っている札が、光って文字が浮かび上がっていた。

 呼び出された時に、ああやって光るのか。


 テーブルと椅子があって、みんな座っている。

 こんな時間からお酒らしきものを呷っている人もいた。


 ここで待っていればいいのかな。

 なんか、ハローワークにかなり近い施設って感じだ。

 違いがあるとすれば、飲食もあるってことか。


 受付とは反対方向に、バーみたいなものがあって、簡単な料理と飲み物を提供しているようだ。

 有料だろうし、お腹は減っていないので頼みはしないが、空いている椅子に座る。

 何も頼まなくても座っていいんだよな?


 そういえば、これだけ人がいるのに窓口に行列ができていないのは、番号札を持たされているからか。

 待っている間暇だから、飲み物を注文する人もいるから、儲ける為にバーが同じ施設内にあるのか。

 よく考えられているな。


 とりあえず、札が光るまで待っておこう。

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