第22話 求職活動の為に新天地へ


「――ぅわ」


 馬車が大きく揺れたせいで、目が覚める。

 石ころに車輪が引っかかったのだろうか。

 数時間乗っているが、まだ首都には着かないようだ。


「黒髪……」

「あの人じゃない? 噂の?」


 コソコソ話をしている人達の方向に首を回すと、サッと目線を逸らされる。

 俺のことを言っていた気がするけど、やっぱり黒髪は目立つみたいだ。

 この世界の人はどうやら黒髪がいないらしく、黒髪というだけで俺が異世界人であることがすぐにバレてしまうらしい。


 馬車に乗る前から目立って仕方なかった。

 やっぱり恥ずかしいけど、頭に包帯を巻いて少しでもバレないようにしよう。


 鞄の中から包帯を取り出して、頭に巻き始める。

 帽子を買うか、それか、髪を染めるか、坊主にするか。

 異世界人であることを隠すやり方はいくらでもあるけど、今できるのは包帯で隠す方法だけだ。

 目的地についてから、別の方法で隠せるかは試してみよう。


 俺は今、他の乗客と一緒に馬車に乗っている。

 首都に行き、そこにあるという冒険者ギルドに行って、手持ちの『赤い逆鱗』を売る為に行くのだ。


 そして、ひとまず俺は冒険者になろうと思う。

 何故かレベルを維持できる俺は、どうやら他の人間よりも強いらしい。

 モンスターと戦う可能性がある冒険者であっても、他の人よりは楽に攻略できそうだ。

 無理なら無理で、別の方法を探すしかない。

 地べたを這いずり回ってでも職を探さないと飢え死にする。


 失業保険とか、生活保護みたいな救済措置がない以上、働くしかない。

 三十代ならまだ力仕事もできる。

 将来の展望は見えないが、明日の飯ぐらいは確保しなければならない。

 長所を生かした仕事で、再就職活動をしよう。


 幸い、活動資金はある。

 宿屋での労働賃金はなるべく節約しようと思い、本当だったら徒歩で首都まで行こうとしていた。

 整備されていない道を歩くのは疲れるし、道が分からなかった。

 こんなことなら地図を貰っておけばよかった。


「ふぅー」


 大きめの嘆息をつく。

 

 ――先輩って頭がいいから自営業をした方がいいと思いますけど


 かつての職場の後輩にそう言われて嬉しかった。

 真に受ける阿呆にはなりたくないが、正直、それが一番可能性高いんだよな。


 宿屋で弁当がウケたみたいに、この世界にない発想を飛ばして新しい商売ができればいいよな。


 ミサさんみたいに優しい人なんて稀有だ。

 優しいというか、女神様だな、あれは。


 こき使われるよりかは、自営業ができればいいけど、うまい商売が思いつかない。

 この世界の問題点や足りない点が見つかれば、俺だけのオリジナルな職を見つけられそうだ。

 その為にはまず市場調査だよな。


「おおっ!!」


 乗客が声を上げる。

 その人達に倣って車窓から顔を出すと、遠いが建物が見えて来た。

 明らかに宿屋周辺の町より栄えていた。


「ようやく着きそうだな」


 到着までまだ時間はある。

 腹が減っていたので、自作のサンドイッチを頬張った。


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