第24話 戦利品の売買交渉
赤い逆鱗を売る為に、五番窓口とやらに着いた。
番号札が最初点滅していたと思ったら、どんどんこれ光が強くなるんだな。
もしもこれ無視を続けていた、どんな光量になるのか試してみたいところだ。
「番号札を……」
「ああ、はい」
番号札を渡すと、どういう仕組みか分からないが光が消えた。
先程から魔法が多用されているようだけど、俺も魔法使ってみたいな。
俺の固有スキルが魔法みたいなものだけど、もっと火を起こしたり、風を吹かせたりとか、ファンタジー要素がある魔法を使ってみたいんだけど、未だに使えていない。
魔法の本とかあったら、それで使えるようになるんだろうか。
魔法の適性があればいいな。
「冒険者証明書はお持ちですか?」
「いいえ。持っていません」
「かしこまりました」
窓口の受付嬢の人は一瞬、眉を顰める。
やっぱり、証明書なしで売りに来る人って少ないんだろうな。
「今日はどういったご用件でしょうか?」
「売りたいものがあるんですけど……」
赤い逆鱗をテーブルの上に置く。
ようやく手放すことができるな。
これで取引できなかったら最悪だけど、多分、お金にはなるだよな。
以前、赤い逆鱗の価値を確認したことがある。
俺のスキルが正しく機能していれば、かなりの金額になるはずだ。
「少々お待ちください」
受付嬢が虫眼鏡みたいなものを持ち出して、赤い逆鱗の上に掲げる。
すると、虫眼鏡みたいなものから、難解な文字や数字が浮かび上がった。
三行以上あって、城の水晶玉にステータスが表示されていた時みたいだ。
「へー」
思わず関心してしまった。
名称とか、品質とか、重さとかが表示されているのかな?
このアイテムがあれば、ステータス画面を表示できない人間にでも、商品価値が分かるってことか。
俺も欲しいかも。
でも、文字が読めないと意味ないか。
「赤い逆鱗ですね……。状態もいいみたいなので、4万ギルドになりますね」
「え? 4万!?」
「はい」
受付嬢の人は迷いなく答える。
俺は、瞬きしながら品質を確かめる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【赤い逆鱗】……推奨売買価格5万ギルド。
レッドドラゴンから採取できる鱗。このままだと価値はないが、合成材料には重宝される。
防御力、耐魔力上昇に役立つ素材。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
やっぱり、そうだよな。
何回読み直しても、価格が一万も低い。
古本にいらない漫画を売りに行ったら、店員さんにこちら0円になりますが、お引き取りしましょうかと言われ、重い本を持って帰るのが面倒なので引き取ってもらったら、翌週その古本屋さんでまあまあの値段で売り物として出されていたことを思い出した。
あの時、商売の汚さを思い知ったんだよな。
「どうされましたか?」
「これって、5万ギルドぐらいじゃないんですか?」
「……確かにそれぐらいしてもいいのですが、最近大量に入荷しまして値崩れを起こしています」
「値崩れ……」
タイミング悪いな。
確かに、スーパーでキャベツの値段だって倍以上の値段変動するよな。
天候による収穫数の違いだったり、需要に応じて値段は変わるから、ここであれこれ文句を言っても仕方ない、か。
相手はプロみたいだし、俺みたいな素人が出しゃばってもいいことはなさそうだ。
もしも文句があるなら、ギルドのような仲介業者に頼むんじゃなくて、直接的に業者や個人に方に卸した方が高値で取引できるだろう。
人件費や運搬費用がその分カットできるだろうから。
ただその販売販路を確保できていないから、冒険者ギルドで売買した方が利益率は高くなりそうなんだよな。
こんな体たらくでいつか俺は本当の意味で【店主】のジョブを俺は得ることができるんだろうか。
「大量に入荷って何かあったんですか?」
「フロアボスのレッドドラゴンが誰かに討伐されたみたいなんですよ」
「ああ、俺が倒したやつか……」
「え?」
今日一番の声が出た受付嬢さんは、口元を抑える。
隣にいた人達も驚いてこちらに視線をやる。
「あなたが倒したんですか?」
「えっ、と……もしかして倒したらマズいモンスターだったんですか?」
「い、いいえ。レッドドラゴンを倒せる人間がまず少ないのと、売ればかなりの額になるはずなのに、手つかずの状態で放置されていたので、一体どんな人物が倒したのかギルド内で噂になっていたものですから」
あれ?
もしかして、一獲千金のチャンス逃してたのか? 俺は。
無償でお金をばら撒いた人みたいになってる。
確かに、鱗1枚で数万の価値があるなら、あのドラゴンそのものを売りに出していたら数百万とかの価値にはなっていたのかな?
そう考えると、何故あの時、俺はレッドドラゴンを丸ごと持ち帰らなかったのか。
意識朦朧としていて死にかけていたからな。
そんなことできるような状態じゃなかったとはいえ、悔やまれる。
「今、レッドドラゴンを倒したとか言っていたか?」
いつの間にか背後に立っていた大男に、俺は気圧される。
俺の身長の倍はある。
見た目は人間のようだが、他の種族の血が混じっているんじゃないだろうか。
「お前、何クラスの冒険者だ?」
「クラス?」
「まさか、クラスも知らないのか? お前、冒険者じゃないのか?」
「まあ、はい」
ポカンとした表情を一瞬すると、大きく口を開けて嗤った。
「ハハハハハッ!! こいつは傑作だ。冒険者じゃないのに、レッドドラゴンを倒しただと!?」
「シュタインさん!! 他の冒険者の方に迷惑です!! 今すぐどこかへ行ってください」
シュタインさんと受付嬢に呼ばれた大男は、躊躇なく拳を振り下ろしてくる。
「俺はお前みたいな大ぼら吹きの冒険者モドキが大嫌いなんだよっ!!」
拳が速いので避け切れない。
そう判断した俺は、振り下ろされた拳を受け流す。
ガードするのではなく、相手の腕の側面に力を入れて拳のベクトル方向を変えてやったのだが、その変え方が悪かった。
丁度、テーブルに置いてあった花瓶に拳が当たってしまった。
「いぎゃああああああっ!!」
「あ、ごめんなさい」
拳には無数のガラスが棘みたいに刺さっている。
わざとじゃないんだけど、大怪我してしまった。
テーブルが割れて、その木片まで刺さってるようにも見えるし、滅茶苦茶痛そうに見える。
自業自得とはいえ、流石に同情してしまいそうな怪我を負ってしまっていた。
「てめぇ!! よくもやってくれたなあ!!」
「止めてください!! これ以上暴れたら、冒険者の活動停止処分にしますよ!!」
その警告を聴くと、シュタインと呼ばれた大男は拳を引っ込める。
「うるせぇな。てめぇの言う事を聞いたわけじゃねぇから勘違いするな。興ざめしただけだ」
そう言うと、ズンズン音を当ててどこかへ行った。
足音だけでも地響きしそうなぐらいの重量感だ。
肥満という訳じゃなくて、全身筋肉のような人だった。
あのまま対峙していたら、吹っ飛ばされていたかも知れない。
「ありがとうございました」
「いいえ」
受付嬢の人のお陰で命拾いした。
腕や顔、あちこちに傷があったけど、あれは戦闘で受けた傷だったんだろうか。
かなりの修羅場をくぐって来た人のように見えた。
俺とはまるで違う世界の住人のようだった。
「あの人は?」
「シュタインさんです。あなたと同じ冒険者未満の人です」
「え? そうなんですか?」
なんだろう。
あれこれ考察していた自分が恥ずかしい。
冒険者未満ってことは、実力的には俺と同じぐらいなのかな?
と思っていたら、受付嬢の人の顔は険しくなる。
「あの人は元はBランク冒険者だったんです。それなのに度重なる暴力事件を起こしたせいで、冒険者免許をはく奪された人です。明日の冒険者の試験にも参加しますが、彼と眼を合わせない方がいいですよ。冒険者を殺したこともありますから」
殺したことがある。
その言葉を聞いて、俺の総身は震えあがった。
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