第20話 圧倒的レベルの差
ミサさんを追いかけて店の外に出たら、暗い路地の方へ歩いていくのを見かけた。
そして、そこに馬車が通りかかると、ミサさんが消えた。
ミサさんの悲鳴が聴こえたと思って、馬車を走って追いかけてみたら案の定だった。
口や手足に自由が利かない状態のミサさんがそこにはいた。
誘拐したのは、この前と同じ奴等だ。
格好は変えているが、まさかまだ暗くならない内からこんな大胆な行動に出るなんて。
相当焦っているようだ。
それだけ誘拐を指示した奴が急かしているのだろうか。
「走って来た!? ふざけた嘘をつくな!!」
兵士の一人が激高している。
さて、どうしたものか。
まさかまたミサさんが攫われたとは思っていなかった俺は、今回は魔石を持っていない。
あの時は多少の武器と、ハッタリでどうにか切り抜けることができた。
仮に魔石が手元にあったとしても、これだけの強硬策で馬車まで用意した連中だ。今期は魔石を使った威嚇攻撃であっても怯むとは思えない。
さっきのドロップキックだって不意打ちだったから当たったのだ。
戦闘訓練を受けているであろう兵士相手に、この前までただのコンビニ店員だった男が大立ち回りを演じるなどできる筈もない。
だから、前方の敵に集中し過ぎて、背後から襲いかかって来る敵に気づくことすらできなかった。
「悪いが、目撃者は消さなくちゃいけないんだ。危ないと分かっていながらも、首を突っ込んだ己の愚かしさをあの世で憂うことだ」
振り向こうとする前に、首元には刃が肉薄していた。
兵士は既に抜刀していて振り抜いている。
威嚇射撃すらなく、何の躊躇もなく抜かれたその研ぎ澄まされた刃は――――俺の首に当たった瞬間、ボキッ!! と折れた。
「え?」
「え?」
素っ頓狂な声が俺と、武器を使用した兵から漏れる。
ガスッと叢に突き刺さった刀剣は、確かに折れている。
俺は何もしていない。
避けることもできずに、ただ刃をその身に受けたはずだった。
首に鋼鉄のマフラーでも着込んでいたたなら話が違ってくるが、確かに素肌に刀が触れたはずだった。
だが、少し痛いぐらいで、血は出ていない。
よく分からないけど、戦わなくちゃいけない。
本気で。
相手は殺しにきている。
だったら、こっちもそれ相応の覚悟で挑まなければならない。
「錆びていたのか? クソッ――」
先手必勝とばかりに、折れた剣を持っている男に向かって思いきり拳を入れる。
男は咄嗟に腕でガードすると、
「ぎぃやああああああああああああああっ!!」
少し大げさなぐらいのオーバーリアクションを上げながら、地面を這った。
「ええ? 大丈夫ですか?」
よくよく見ると、俺が殴った男の腕はあらぬ方向を向いている。
どうやらさっきの一撃で折れてしまったみたいだ。
あれ?
もしかして、俺戦えている?
「貴様、何をしたあ!!」
「う、うああああああっ!!」
武器を持って襲いかかってきた兵士にビビりながらも、俺は顎を狙ってアッパーカットをかます。
「うぱああああああああああああっ!!」
すると、男は回転しながら上空を舞った。
一回転、二回転。
綺麗に回転すると、首から地面に落ちた。
「……おいおい、死んだわあいつ」
自分がやったことなのに、まるで他人事のように感じてしまった。
圧倒的なまでの強さだ。
相手がフザけている訳じゃない。
本当に俺が強いのだ。
もしかして、レベル差か?
それを意識した途端、
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【名前】サウロ
【レベル】1
【帝国兵の剣+2】……装備すると攻撃力が上がる。二刀流スキルには使用できない。
【帝国兵の鎧+3】……装備すると防御力と耐魔力が上がる代わりに、素早さが下がる。
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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【名前】?
【レベル】1
【帝国兵の杖+4】……装備すると魔力が上がる。【詠唱短縮効果:残り3】
【帝国兵の鎧+3】……装備すると防御力が上がる代わりに、耐魔力が下がる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【名前】?
【レベル】?
【帝国兵の剣+2】……装備すると攻撃力が4だけ上がる。
【帝国兵の鎧+3】……装備すると防御力が上がる。(これ以上、レベルを上げることはできない)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ブゥン、と眼前の男達三人の前にステータス画面が浮かび上がる。
同じような文面だが、微妙に違っている気がする。
その違いは、武器そのものの効力なのか、それとも対象者本人の力によるものなのか分からない。
ただ、思案しながら眺めらていられるほど、お相手は優しくないようだ。
「臆するなッ!! ここで何もせずに逃げたら、それこそ私達は勇者様に何をされるか分からないぞ!!」
「勇者? 逢坂のことか?」
男達が剣を持って襲いかかって来る。
生身で受けても問題はないかも知れないが、ついつい避けてしまう。というか、避けられている。
反射神経、運動神経で他人より秀でたことがない人生を送ってきたつもりだったが、悠々と兵達を超えている。
「ぐぉおおおおお!!」
腹に拳を入れると、鎧を突き破って腹に入る。
兵の一人がくの字に折れて悶絶していると、
「『咎人たる骸骨よ・創世の光明で朽ち・膨張して紅蓮に咆えよ』」
「なんだ? ……呪文?」
後方控えていた兵は杖を手に持っている。
その杖が煌々と光り出す。
「危ないッ!! 攻撃魔法だよッ!!」
「こうげ――き――!?」
ミサさんが猿轡を解いて必死の形相で注意喚起してくれるが間に合わない。
呪文の詠唱は既に完了していた。
「――『|鳳尖火(バルサム)』ッ!!」
身体の周りに突如として炎が上がり爆発する。
近くにいた兵一人も爆発に巻き込まれて焼かれてしまっているし、爆発の中心地にいた俺の服の一部や包帯は丸焦げになってしまった。
ボロボロになった包帯は独りでに地面へと落ち、久々に肌は風を感じた。
「ようやく氷解した」
巻き込まれただけの兵が動けなくなっているぐらい重症を負っているのに、俺の身体は無傷だった。
「黒髪に黒目。まさか、貴様、勇者様と同じ異世界人かっ!!」
残った最後の兵士に慄かれて確信する。
どうして、ミサさんが頭ごと毎日包帯で巻けとあれだけ厳しく言い含められていたのか。
怪我の治療をしてくれたのはミサさんだった。
だから、包帯がない状態の自分の姿をその目で見ているはずなのだ。
命を助けてくれたけど、自分の元旦那を殺した異世界人を憎む気持ちを抑えることができなくて、俺を異世界人と意識したくなかったのだろう。
それと同じ理由で、俺の名前を意地でも言わせなかったのは、俺の名前が異世界人の名前だったからだ。
そして、便宜上つけたヴェスルという名前はきっと旦那さんの名前なのだろう。
最初に名付けてから、一度もその名前で呼ばれなかった気がする。
「――フッ!!」
「わっ――」
一足飛びに接近し、杖を破壊する。
杖ありきであの火力だ。
武器さえ破壊すれば戦意喪失してくれるだろう。
「帰ったら親玉に伝えておけ。この人に手を出したら、全霊を持ってお前らを潰すってな」
「ひ、ひぃっ!!」
杖を折られた兵は他の仲間と共に逃げていく。
一件落着といいたいところだが、まだ問題は解決していない。
というより、ここからが本番といった感じだ。
「……ミサさん」
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