第11話 固有スキルの影響で、俺だけレベルが下がらない
皿洗いをしながら、さっきの野菜の御婆さんとの会話を思い出していた。
――勇者に殺されたってどういうことですか?
――だから私も詳しいことは知らないのよ。ただね。勇者は絶対的な力を持つから、その力に溺れる人も少なくないのは確かだねぇ。
特別な力と待遇を得たら、俺だって今まで通り普通に接するとは限らない。
クラスで誰とも話さなくて縮こまっていた人間が久しぶりに会ったら、会社内で地位を築いていて自信を持ち、横柄な態度を取るなんて例なんていくらでもある。
時間と環境で、人はガラッと変わる。
高校デビューという言葉があるけど、自分のことを誰も知らない世界の異世界デビューはやりやすいだろう。
他人を支配したいと豪語している逢坂だったら、猶更だ。
何かとんでもないことを仕出かしそうで怖い。
「ちょっと! アンタ!」
「え?」
「え、じゃないでしょうが。何ボォーとしているの!! 皿割っているじゃないのさ!!」
「す、すいません」
皿が割れていたことに、気が付いていなかった。
蛇口を閉めて、欠片を拾おうとすると、
「怪我はない? 大丈夫? 私が片付けるから」
「大丈夫です、すいません……」
「給料から引いておくからね」
「ああ、はい……」
お金がどんどん無くなっていく。
気合い入れて仕事しないと、自分の好きな物も買えやしない。
「ミサさん仕事大変じゃないですか?」
「まあ、アンタが割った皿の片付けは大変だねぇ」
「そういうことじゃなくて! 宿屋の経営って大変じゃないですか?」
「大変さね。でも、大変じゃない仕事なんてないだろ? アンタだって、今まで大変な仕事をしてきたんじゃないのかい?」
「そう、ですね……」
コンビニでの仕事なんて底辺だし、楽だと思われていそうだけど、大変だったしな。
店員側が働いてくれない問題もあったけど、お客さん側も面倒だった。
小銭投げつけてくれる人とか、トイレに落書きする人とか、立ち読みした本を売り物にならないぐらいグチャグチャにする人とか、常にいたからな。
あれだけストレス溜まる仕事も珍しいじゃないんだろうか。
「この仕事は楽しいよ。ここに泊まる連中は旅人が多くてね。そいつらは希望に溢れていてダンジョンで一獲千金を狙っている話を語るのさ。そいつらの英気を養う場所を提供できたらいいなって思ってる」
ミサさんの横顔が眩しかった。
そんな普通に自分の仕事に誇りを持っていたことはなかったな。
そんなことを考える余裕もなかった。
でも、そういう姿勢でいられるのは尊敬できるし、自分もそうでありたい。
「ダンジョンって、フロアボスっていうのがいるんですか?」
「ああ、いるよ。ただ相手はしない方がいいさね。フロアボスっていうのは別次元の強さを持つモンスターだからね。Cランクダンジョンのフロアボスには、Bランクのモンスターがいるもんさ。だから冒険者は自分と同ランクのダンジョンでレベリングして、フロアボスを倒すのは、自分よりも一つ下のランクのダンジョンに挑むのが普通さね」
「そうなんですね……」
まず、ダンジョンとか冒険者にランクがあるのは初耳な気がする。
そもそもレベルか。
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【名前】崎守 天守 (サキモリ テンシュ)
【レベル】25
【攻撃力】18
【防御力】36
【魔力】16
【耐魔力】30
【素早さ】25
【ジョブ】店主
【スキル】ステータス表示(レベル25)・鑑定(レベル20)・暗視(レベル5)・分析(レベル1)・防御力上昇(レベル15)・耐魔力上昇(レベル15)・攻撃力上昇(レベル20)・魔力上昇(レベル5)・素早さ上昇(レベル8)・耐火上昇(レベル25)・商品詳細編集(レベル25)
【固有スキル】経営圏(レベル10)・アイテムボックス(レベル25)
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自分のステータス画面を表示してみる。
何回見ても、レベル下がってないんだな。
多分、固有スキルの効果なんだよな。
普段は可視化できないけど、フンッと力を入れると『経営圏』の領域範囲が光る。そして、その領域を広げることができた。
レベル1の時よりも格段に広げることができたし、常時発動することができる。
これでダンジョンの外にいるのに、ダンジョン内にいるような判定がされているのかな?
「ミサさん。経営圏って知ってますか?」
「え? なんだい、それ? 経営する権利のことかい?」
「いいえ、何でもないです」
やっぱり知らないか。
王様達の反応を見ると、異世界人の固有スキルて珍しいものが多そうだよな。
俺もどんな仕様か、まだまだ分からない所がある。
「……でもレベル上げても意味ないんですよね? ダンジョンから出たら普通はレベル下がるんですよね?」
「レベルが下がっても、習得したスキルは忘れないからねぇ。ほとんどのスキルの習得条件はレベルが関係してくる。だから決してレベル上げが無駄って訳じゃない。新しいスキルを覚える為に、ダンジョンでレベル上げするんだ。まあ、武器との共鳴率を上げる為でもあるんだけどね」
「詳しいですね」
この世界に生きている人間の常識なのかも知れないけど、いくらなんでも詳細に知り過ぎている。
コンビニだって、日本にいる人間だったら誰でも知っている。
ただ、働いてみたら全然知らないことばかりだったことを思い知った。
レジ打ちしかしていないようなイメージだったしな。
それを考えると、ミサさんはこの世界の住人であっても、ダンジョンについての造詣が深い。
「まあ、私も冒険者だった時があるからね」
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