第6話 フロアボスのレッドドラゴン
出現した表示はすぐに自動的に消失し、新たなステータス画面が表示される。
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【名前】崎守 天守 (サキモリ テンシュ)
【レベル】1
【攻撃力】6
【防御力】10
【魔力】5
【耐魔力】10
【素早さ】8
【ジョブ】店主
【スキル】ステータス表示(レベル1)・鑑定(レベル1)
【固有スキル】経営圏(レベル1)
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さっき見た俺のステータス画面が変わっている。
さっきポップアップした画面の通り、ジョブと、スキル、固有スキルが追加されている。
どうやら見間違いじゃなかったようだ。
ジョブの店主が意味不明だが、タップしても何の反応もないので、固有スキルをタップしてみると画面が切り替わる。
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【固有スキル】経営圏(レベル1)……店を経営する範囲を任意の大きさに展開する。
範囲内にある商品価値を自動で鑑定し、装備、または領域外から出るまで破壊不能にする。
また、店主の許可がなければ、他人が勝手に商品を装備することや食すことはできない。
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ズラズラと小難しい言葉が出てくるが、全文を読んでいる余裕はない。
ドラゴンが炎を吐き続けている今じゃなきゃ、読み込む余裕はないのだ。
速読して、大事な部分だけを抜き取る。
「? 商品? 破壊不能?」
今現在進行形で炎熱を防いでくれているのは、槍のお陰か?
どんな槍なのか知りたい。
そう思った直後、
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【レプリカの槍+1】……推奨売買価格50ギルド。殺傷能力は低目で、飾るための槍。
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槍の説明が別のウィンドウが出現して教えてくれた。
「うわっ!!」
突然現れた画面に驚くが、俺の知りたい情報を教えてくれた。
説明文を読む限り、どうやら槍自体にはそこまでの価値はない。
ドラゴンの吐いた炎を防ぐほどの力など持っていないように思える。
つまり、特別なのは槍ではなく、固有スキルの方だったということが判明した。
「まず――い――」
炎を吐き終わったドラゴン、無傷でいる俺に対して訝し気な表情をしながら腕を伸ばしてくる。
槍がなければ、俺はさっきのように嬲られて死ぬだけだ。
俺はダッシュで前進し、槍をドラゴンの腕めがけて投げる。
「うわっ!!」
大きな音と共に槍が、ドラゴンの腕を弾く。
やっぱり、槍があるお陰で、ドラゴンの攻撃を全て防げるようだ。
しかも槍は破壊不可能だと、さっきの表示に書いてあった。
つまり、俺は無敵だ。
「だけど」
よくよく目を凝らすと、地面に長方形で半透明の光が広がっている。
直径5メートルぐらいだろうか。
さっきまで出現していなかった。
新たなスキルとジョブが覚醒してからずっと見えている。
俺を中心にしてずっと長方形の光が動いている。
恐らくこれが、説明にあった固有スキル『経営圏』の有効範囲のことだ。
もしも、この範囲外から攻撃が飛んできたり、何かしらの理由で『経営圏』が消失してしまったりしたら、恐らく、普通に攻撃が俺に効いてしまう。
試す度胸はないが、ドラゴンとは付かず離れずの距離を保っていた方が無難かも知れない。
ドラゴンが逆側の腕を横から振るってくるが、
「どんな攻撃も効かないんだよ、俺には!!」
最早、ドラゴンがどれだけ強かろうが無力だ。
商品を破壊されないだけのスキルであり、こんなの商人のスキルだ。
勇者にはなれない、一般人無職の俺らしいしょぼいスキル。
だが、使い方次第じゃこんなにも戦闘にも役立つ。
無敵のスキルなのだ。
そのはずなのに、
「――ッガッ、んで!?」
俺は脇腹に衝撃を受けていた。
確認すると、瓦礫が突き刺さっていた。
爪で抉った岩肌の瓦礫が、俺に当たったのだ。
槍でドラゴンの腕による攻撃自体は完全に防いだはずだった。
だが、振り上げた爪によって破壊された天井の瓦礫は、槍の効果範囲を搔い潜って地面に落ち、跳弾のように地面を跳ね返った瓦礫が俺の脇腹に突き刺さったのか?
そんな流れ弾に当たるような不幸、あってたまるか。
商品が破壊不能であっても、俺自身は貧弱な肉体をしているのだ。
ちょっとした事故でも、大怪我になる。
ドラゴンが破壊活動を繰り返していたら、また同じような事故が起きてもおかしくはない。
せめて、槍にかかっている俺のスキルの効果範囲がもっと広ければ、ダメージは喰らわないはずだ。
「槍にかかっている効果範囲広がれっ!! もっと、バフかかれ!! もっと熱くなれよぉ!! お前ならできる!! やれるやれるよ!! お前は聖剣エクスカリバーだっ!! いや、魔槍グングニルだっ!! 誇りを持て!! お前はやればできる子だっ!!」
何を言っても効果範囲が広がった感じがしない。
というか、広がったとどうやって認識すればいいんだ。
そんな俺の葛藤を余所に、ドラゴンが炎の咆哮を繰り出す。
変身前のヒーローを攻撃するような残忍な不意打ちだが、その攻撃は既に完封している。
事故が起きないことを祈って、槍を放る。
さっきまでと同じならダメージを喰らわないはずなのに、
「――あ、熱いっ!!」
蒸し焼きになりそうだ。
鼻血が出てくる感触が伝わって来る。
さっきと違うといえば、槍を投げるタイミングが遅れたことぐらいだ。
そのせいで、熱を感じる影響下に入ってしまったのか?
「も、もしかして……攻撃そのものは防げても、炎の熱は防げないのか?」
考えてみれば、当然の話なのか?
重力や引力を遮断できていたら、槍が一定の場所に留まるれないだろうし、光の反射が遮断されていたら存在を知覚することすらできなくなっているんじゃないだろうか。
何もかも全てを受け付けないような物体になったら、それは商品じゃない、ダークマターだ。
「もっとご都合主義的なスキルであれ!! チートでいいんだよ、チートで!!」
自分の秘めたる能力が開花したのはいいが、ルールが分からない。
説明書を用意してくれ。
今の時代、ネットで攻略法を知ってからゲームするのが基本だろうが。
ドラゴンが口を大きく広げる。
また炎を吐くのを連想するが、今度は頭突きをしてきた。
不意を突かれたが、槍を投げることには成功した。
「――うっ!!」
だが、接敵を許したせいで、衝撃の余波で捲れて削れた小石が目蓋に直撃する。
このまま削られていって消耗戦になったら、確実に死ぬ。
こちらからも手を出さなくてはいけない。
未だに無傷で油断しきっている今が千載一遇のチャンスだ。
「――『経営圏』解除ッ!!」
そう叫ぶと、グラリ、と支えを失ったかのようにドラゴンがフラつく。
成功したんだ。
なんでさっきと違って成功したのかを考察するよりもまず、とにかく畳みかけろ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
俺は落下した槍を空中でキャッチすると、そのまま前のめりになったドラゴンの瞳に向かって突き刺す。
どれだけ頑強な鱗を持とうとも、瞳だけは鍛えることなどできない。
ゼリーを潰すような嫌な感覚と共に、ドラゴンの血液と体液が全身にぶっかけられる。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
眼球に槍が突き刺さると、痛みを訴えるように首を振る。
「あああああああああああああっ!!」
もしもこの腕を放してしまったら、俺は武器を失う。
そうなれば、確実に俺は殺される。
首と同じように振り回されていたが、ガクン、と身体がズレる。
「うああああああああああああっ!!」
遠心力によって飛ばされた俺は、ゴム毬のように地面をバウンドする。
ど、どうして、いきなり。
槍から手を放さなかったのに。
と思っていると、自分が手に持っている棒きれを見て唖然とする。
「や、槍がっ……」
折れていた。
槍の先端は、まだドラゴンの眼球に突き刺さったままだ。
最後の希望が絶たれた。
「グギィヤアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
激高したドラゴンが迫って来る足音だけで地鳴りがする。
俺は半分に折れた槍を手放して、
「『経営圏』発動してくれっ!!」
ドラゴンの頭突きを咄嗟に防ぐことに成功するが、短くなった槍では先程よりも効果範囲が狭い。
それに威力が弱まっているようで、ジリジリと中空に浮いたままの槍がこちらに向かって近づいて来る。
このままじゃ、圧し潰される。
「『経営圏』解除ッ!!」
もう片方の瞳に棒きれとなった槍を刺すしかない。
それで倒せるとは思えないが、視力を失えばドラゴンは俺を見失うはずだ。
暴れるだろうが、その隙に逃げるしかない。
「うああああああああっ!!」
一縷の望みをかけた最後の一撃だった。
それなのに――棒きれは空振りした。
「――あっ」
突進すると見せかけて、ドラゴンは頭を引いた。
また眼球が狙われると分かっていて、こちらの動きを誘ったんだ。
俺は中途半端な体勢のまま、攻撃を受けるしかなくなった。
再び肉薄してくるが、頭から向かってくるのではなく、顎を差し出すような動きで突撃
してくる。
巨大なハンマーのように迫って来るドラゴンを近くで観察すると、ビッシリと揃っている鱗の中で、一つだけ逆立っているものがあった。
そこだけ表皮の隙間がある。
「あああああああああああああああああっ!!」
向かってきたドラゴンに対して力は要らない。
あっちが突っ込んできた分、カウンターで入る。
倒れ込みながら棒きれを逆立った鱗の隙間に入るように支えてやるだけで、勝手に自滅してくれる。
「グギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」アアッ!!」
棒きれが鱗の隙間に突き刺さると、のたうち回って苦しむ。
武器を失った俺は、尻尾に吹き飛ばされる。
「ごほっ……」
埃と血塗れになった俺は、上半身だけ起き上がる。
全身傷だらけだ。
まだ生きているのが不思議なぐらいだ。
槍はもうない。
全部ローソクみたいにドラゴンに突き刺したままだ。
断末魔のような声を上げたドラゴンが、後ろ向きに倒れる。
「た、倒したのか……?」
まともに攻撃を与えたのは二回だけだ。
だが、ピクピクと動いているだけで、ドラゴンは起き上がってこない。
すると、
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【レベルが上がりました】【レベルが上がりました】【新たなスキルを入手しました】【レベルが上がりました】【新たなスキルを入手しました】【レベルが上がりました】【レベルが上がりました】……………………
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頭の中に急に五月蠅い音が鳴り響いたかと思うと、似たような字面がズラりと並ぶ。
ドラゴンを倒して経験値が入って、レベルが上がったのか?
王様に色々と説明を受けたけど、まだまだ説明が足りなかった。
そもそもこうやってステータスが確認できることも知らなかった。
わざわざあんな水晶玉使ったんだから、できないと思ったんだけど、急にできるようになったし、分からないことばかりだ。
まだ鳴り響く音が五月蠅かったので、空中にいきなり浮かんだステータス画面を連続タップしたら音が止んだ。
スキップもできるのか。
すると、次の画面に切り替わる。
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【名前】崎守 天守 (サキモリ テンシュ)
【レベル】25
【攻撃力】18
【防御力】36
【魔力】16
【耐魔力】30
【素早さ】25
【ジョブ】店主
【スキル】ステータス表示(レベル25)・鑑定(レベル20)・暗視(レベル5)・分析(レベル1)・防御力上昇(レベル15)・耐魔力上昇(レベル15)・攻撃力上昇(レベル20)・魔力上昇(レベル5)・素早さ上昇(レベル8)・耐火上昇(レベル25)・商品詳細編集(レベル25)
【固有スキル】経営圏(レベル10)・アイテムボックス(レベル25)
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どうやらレベルが上がった以外にも、スキルを覚えたようだが、
「び、微妙……」
勇者である逢坂のステータスを見る前だったらハシャいでいたのだが、あれを見た後だとあんまり強そうには思えない。
あのドラゴンはどのぐらいの強さだったんだろうと思いながら視界に入れると、新しくウィンドウが出た。
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【レッドドラゴン】……赤いドラゴン。
レベル50。
主な生息地は火山帯やダンジョン深部。
鋭い爪や炎を吐く。
開けた場所だと、翼を使った風魔法を使ってくるのが特徴。
攻撃も魔法も効きづらく、特に風属性の魔法は威力が半減以下になる。
反対に、氷系の魔法は威力2倍。
逆鱗が最大の弱点だが、一撃で殺さないと全てのステータスが上昇して倒しづらくなる。
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「レ、レベル50なら、俺がレベル51以上の経験値貰ってもいいんじゃないかな」
レベル50の敵って、最初の敵で出てくるようなレベルじゃない。
やっぱり殺すつもりでフラスコ王子はここに俺を送り込んだんだな。
それにしても、レベルが一気に51まで上がってくれて良かったのに。
そしたらスキルも一杯覚えられたはずだ。
レベル50の敵を倒してのに、その半分以下のレベルしか上がらないのは納得いかない。
この感じだとレベルが上がれば上がるほど、レベルが上がりづらい仕様になっていそうだ。
ダンジョンから出たらレベル1になるらしいから、この世界で強くなるっていうのは厳しいのかもな。
ダンジョンに潜る理由は、レベル1に戻るけど新たなスキルやジョブに目覚められるからか?
それとも個人のスキルはリセットされても、スキルのレベルは受け継がれるんだろうか。
駄目だ。
無知な俺が一人で考えていても答えは出ない。
「これ、どうするんだろ?」
ドラゴンが暴れて天井が崩壊しているせいで、道が塞がれていた。
力を込めてドラゴンの死体を押して動かすが、奇跡的なバランスで積み上がった瓦礫が崩れてしまいそうだ。
「ん?」
血塗られた鱗に焦点を合わせると、新しく画面が表示される。
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【赤い逆鱗】……推奨売買価格5万ギルド。
レッドドラゴンから採取できる鱗。このままだと価値はないが、合成材料には重宝される。
防御力、耐魔力上昇に役立つ素材。
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「持ってた方がいいのかな?」
どういう訳か、俺は【無職】から【店主】へとジョブチェンジしたようだ。
取引価格も表示されているし、持っていたらお金になるのかも。
ガクン、と転んでいないのに、足に力が入らなくなる。
「…………あ?」
逆鱗を手に触れてしゃがみ込んだら、気分が一気に悪くなった。
今日一日で何回死にかけたのか分からない。
火事場の馬鹿力で今までは動けていたけど、一難去ったので緊張の糸が切れたのか?
駄目だ。
ここで倒れ込んだら、死んでしまう。
ドラゴン以外にもモンスターが闊歩しているのかも知れないのに。
ポーン、と新たにウィンドウが出現する。
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【フロアボスのレッドドラゴンを倒しました】
【あなたには、ワープによりダンジョンの外へ出る権利が与えられます】
【ダンジョンから帰還しますか?】
→はい
いいえ
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「…………なんだ、これ?」
出られるということなのか?
もう歩く気力もない俺からすれば、この可能性に縋るしかない。
迷う時間はほとんどなく、俺は『はい』の選択肢をタップする。
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【本当によろしいですか?】
はい
→いいえ
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念押しするウィンドウに苛立ちながらそのまま押そうとしたら、カーソルが『いいえ』に合っていた。
「あぶなっ――」
これ、そのまま何も考えずに『いいえ』を押していたら、ダンジョンから自力で出ないといけない所だったんじゃないだろうか。
こういうトラップ、普通のゲームでもあるよな。
しっかりと『はい』に合わせると、ウィンドウが消えて、目の前に光の渦が現れる。
光の中に吸い込まれていくと、俺はダンジョンから消失した。
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