第59話 【店主】のジョブで俺と仲間だけがレベル維持できるから、追放されても勇者より強い


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 カッコウ・ベネディクトをパーティメンバーに入れますか?


 →はい

 いいえ


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 頭の中で念じると、何度か見たステータス画面が表示される。

 意を決して『はい』を選択する。

 すると、


「ああ、やっぱり見えるようになっていますね」


 カッコウがステータス画面を表示して、効果音が鳴りだした。


 信頼する人がいない新天地である異世界において、情報の開示はあまりにも危険だった。

 だが、世界を旅し、そして日本出身の勇者と寝食を共にしたカッコウが味方になってくれると言ってくれた。

 なら、自分の知っていること、自分のスキルについて色々と話した。

 すると、むしろ、俺の知らないことの方が多くて、教えられることが多かった。

 だから今日は色々と試してみることにしたのだ。


 その内の一つが、これ。

 パーティメンバー制度。

 かつての勇者も実際にできたことらしいが、パーティメンバーを作ることによって様々な恩恵を得られるらしい。

 勿論、デメリットもあるが、メリットの方が大きいということで実際にやってみたが、まず説明に聴いていた通り、カッコウもステータス画面が表示されるようになった。

 そして、


「じゃあ、打合せ通りやってみるけどいいですか?」

「お願いします」

「『葬送転移』」


 スキルを使ってダンジョンの外に出ると、


「……やっぱり、私もレベルが維持されていますね。ほら」

「本当だ……」


 カッコウが立てた仮説通り、レベルがそのまま維持されている。


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【名前】カッコウ・ベネディクト


【レベル】5


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 これは大きな発見だ。

 パーティを組むと、その仲間もバフを受けられる時もあると言われたので、どうなるか期待していたが、自分じゃなくてパーティメンバーもレベルを維持することができるなら今後の冒険が楽そうだ。


「うわっ!!」

「あっ、すいません」


 いきなりどこからか現れた俺達に、冒険者らしき男の人が驚いていた。

 カッコウが謝罪すると、い、いいえ、と顔を赤らめながら退散していく。


 やっぱり、カッコウって有名人みたいな扱いなんだな。

 カッコウは勇者を倒した英雄という認識になっている。

 本当はフラスコ王子の策略によって先代勇者は悪党扱いになっているが、それを払拭するとなるとフラスコ王子を殺したことも世間に報告しないといけない。

 だが王族殺しは大義があったとしても、犯罪者扱いになる。

 なので、勇者の汚名の払拭、それからあの時何があったのかの事実公表は先送りにしているということだった。

 それまでは英雄の名誉は上手く有効活用するらしい。


「『葬送転移』は便利ですけど、たまに人を驚かしてしまうことがありますね」

「どっちかっていうと、カッコウさんに会えて感激していたからじゃないですか?」

「包帯をお互いに巻き過ぎているせいもあるかも知れないですけどね」


 いつも通り顔に包帯を巻いている俺だったが、カッコウも全身を巻いていた。

 フラスコ王子と逢坂との戦闘後、俺達は死にかけた。

 その傷は教会にいる人に治療のスキルをかけてもらって、一命を取り留めたのだったが、まだ傷は残っていて痛い。

 本当だったらまだ宿屋にいたいぐらいだった。


「別に教会の人にスキルで全回復してもらって良かったと思うんですけど?」

「一気に身体を全回復すると負担が大きすぎてボロボロになります。ヘブンアッパーだって元々は回復薬から派生したものですから」

「……ここに召喚された時には、ミサさんにすぐに身体を治療してもらったんですけど」

「あの時は勇者達を使い捨てにするつもりでしたからね」


 勇者に無理な回復をさせて身体がボロボロになってもいいという判断だったのか。

 やっぱり、あの時から使い捨てにするつもり満々だったっていうことだ。


「ただ、彼女の治し方が一流だったので、後遺症はなかったようですね」

「…………!」


 ミサさんが褒められているようで嬉しい。

 彼女は今どうしているだろうか。

 弁当屋と宿屋が繁盛しているといいけど。


 ミサさんの娘さんであるサキちゃんにお別れの挨拶ができなかったのだけが心残りだ。

 また泣いてないといいけど。


「さてと、もう一度転移しますよ」


 そうカッコウが言うと、『葬送転移』で空間を切断してダンジョンへと繋げる。

 この人のスキルは強いというよりも、便利という印象がある。

 馬車とかの交通手段も必要ないし、ダンジョン探索の労力も最低限に抑えられる。

 強い敵が現れてもすぐに逃げられるし、同レベル帯の敵だったら戦闘不能状態に一太刀でできる。


 先代勇者がどれだけの強さを誇っていたのかは分からないけど、実質この人いるだけで旅はかなり楽だっただろうな。


「宿で休憩を取っても良かったんじゃないですか?」

「その必要はありません。宿代わりの部屋がありますから」


 再び刀を振るって空間を切断すると、別の空間から小さな建物が飛び出てきた。


「こ、これは?」

「小屋を転移してきました」

「小屋を!?」


 小さいと言っても普通に人間が入れるぐらいの大きさの小屋で、ちょっとした別荘みたいだった。


「これ、入っていいですか?」

「いいですよ」


 扉を開けると、家具やら生活用品が揃っているように見える。

 会社経営するぐらいだから金持ちだとは思っていたが、こんなものをポンと用意できるなんて流石だ。


「お風呂と冷蔵庫もあります」

「す、凄すぎ……」


 案内されると本当に冷蔵庫と風呂があった。

 わざわざ宿に泊まらなくても、ここで休めばいいのか。

 ダンジョンの中でゆっくりと休めるとなると、かなり楽だな。

 いや、そもそもダンジョンの外にこの小屋を転移させて、そこにたまに帰ってくれば、ダンジョンに小屋を建てる意味もないのか。

 なんて便利なスキルなんだ。


「ただ、ダンジョンで小屋を建てる時は、大型モンスターに襲われる心配があるので誰か外で見張りはしないといけないですけどね」

「……いや、その心配はいらないかも知れません。『経営圏』の領域内にあるものは物理攻撃を無効にすることができますから」


 魔力を集中させて、スキルの有効範囲を広げることができる。

 その領域を実体化させてカッコウにも見せる。


「誰の所有物でもない岩とか、他人の所有物だとできないんですけど、多分、カッコウさんが認めてくれれば、『経営圏』を使えると思うんですよね」

「それじゃ、そこの椅子をサキモリさんにあげます。――ってこういう宣言をすればいいんでしょうか?」


 カッコウが剣を軽く振るうと、椅子は倒れるが斬れていない。

 二人して顔を合わせる。


「――できましたね」


 つまり、この小屋の所有権を譲るとカッコウが言えば、この小屋を安全地帯にできるってことだ。

 ドラゴンみたいに火を噴くようなモンスターがいる場所だと危なそうだが、これでダンジョンの中でも安眠できる。

 それにこれでずっと考えていた机上の空論が現実になるかもしれない。


「あの、実はお店を開きたいんですけど、貸してもらうことってできますか?」

「お店って?」

「ダンジョンでお店を開きたいんです。需要はあると思うんですけど、お店を一から作る資金が足りないんですよ」

「……いいですよ」

「本当ですか!?」

「サキモリさんに投資するだけの価値があることは分かっていますから」


 これで商売ができるだけの場所は整った。

 あれからダンジョンに数回潜ってある程度の商品は揃った。

 そして、今回のダンジョン探索でもっと戦利品を手に入れられる予定だ。


「――ただし、ある程度の口出しはするかも知れません。一応経営者としては先輩ですからね」

「お手柔らかにお願いします。というか製薬会社の方の経営もあるのに、俺と一緒にいてもいいんですか?」

「フラスコさんに命令されているのはサキモリさんの監視ですからね。それは王の耳に届いているはずです。ここで離れたら命令違反ですから、フラスコさんを殺したことがバレてしまうかも知れない。だから、ずっと一緒にいるつもりです」


 フラスコ王子と勇者である逢坂を倒したことは隠蔽した。

 今は行方不明ということになっているらしいが、城下は静かなものだ。

 民衆が混乱しないように、情報統制を行っているらしい。

 事実確認をした後に、王様は彼らの行方不明を発表するらしい。


 フラスコ王子と逢坂が居なくなった理由については全くの不明だと王様は周囲に漏らしているらしい。

 俺の死亡確認する為に私兵を動かしたことは秘密裏に行っていたので、疑いが俺にかかることはないが、あれだけの大物がいなくなったのだ。

 ただ事では済まないだろう。

 フラスコ王子の部下達も口を塞いだらしいが、どんな風にカッコウが口を塞いだかは聞かなかった。多分、愉快な気持ちにはならないだろうから。


「ここに来た理由は一つ。彼らの口を塞ぐためです」

「――はい」


 彼らというのは、フラスコ王子と逢坂のことだ。

 二人の安否を確認するために俺達はダンジョン探索をすることになった。

 王様達より先に彼らを見つけなければならない。


 今までは比べものにならない高難易度のダンジョンに挑戦しようとしている。

 だが、レベル1の状態の俺が放り込まれたダンジョンなので、ある程度は安心している。

 あの時と違いレベルも上がっているし、何よりカッコウもいる。

 何かイレギュラーでも起きない限り大丈夫だろう。


「まずは、彼らの生存確認です。あの時は私達の力じゃ彼らに敵わなかった。だから転移させましたが、確実な勝利とは言えませんでした」

「でも、レッドドラゴンがいる所に転移させたんですよね? だったら確実に死んだんじゃないですか?」

「ええ、確実な処刑方法でした。――あなたが生還するまでは」


 生還か。

 ほとんど偶然が重なった生還だったんだけどな。


 本来ならば、俺が挑戦できるダンジョンではない。

 そもそもあのEランク昇格試験も、冒険者ギルドを巻き込んだ嘘だったらしく、俺はまだFランクのままだ。

 だがそれでもSランク冒険者の付き添いという形ならば、Sランク帯のダンジョンであっても挑戦できることになっているので、こうしてダンジョンに挑戦できている。


「刀が残っているといいですね」

「……ええ。彼の遺品ですから」


 そもそもカッコウは二人の安否確認の為ということだけじゃなく、勇者の残した刀の回収がしたいんじゃなかって勝手に思っている。

 あの状況下だと刀も丸ごと転移しなければ、俺達は負けていたかも知れない。

 きっとそれも取り戻したいんだと思う。


 カッコウとフラスコ王子と、勇者との因縁の過去はざっくりとだが聞いた。

 上手く返答はできなかったけど、お互いに協力することを約束した。

 だからパーティになったのだ。


 お互いに信頼できる仲間になって、俺達はダンジョンへと挑む。

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【店主】のジョブで俺と仲間だけがレベル維持できるから、追放されても勇者より強い 魔桜 @maou

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