第17話 冒険者の特権

 寝てしまったサキちゃんを抱っこしながら、部屋に連れて行く。

 扉の前には、いつからそこにいたのか、ミサさんが立っていた。


「……ミサさん」


 サキちゃんが来てから一時間は経っているはずだ。

 もしかして、俺の部屋の前まで来て、サキちゃんがいることを確認して、ここで一時間ぐらい待っていたのか?


 この宿屋、結構壁が薄いからドアが閉まっていても、扉の近くにいたら話し声が聞こえてもおかしくはない。


「ちょっと待ってな」


 慣れた手つきでサキちゃんを受け取ると、自室に入っていく。

 しばらくすると、ミサさんが部屋から出てきて顎をしゃくる。

 どうやら着いてこいと言っているらしい。


 俺は素直に従ってついていくと、厨房まで連れて来られた。

 自室に置いてきたサキちゃんに声を聴かれないためだろうか。


「ありがとうね。寝かしつけてくれたんだろ?」

「ま、まあ……」


 寝かしつけたというか、勝手に寝てたって感じですけど。


「泣いてたんだろ? ウチの子」

「……ええ。やっぱり、お父さんがいなくなって悲しいみたいですね」

「そうだろうね。あの子には辛い思いをさせてるんだ……」


 ミサさんもサキちゃんも、どっちも優しくて思いやりがあるからこそ苦しそうだ。

 こんな時、少しでも負担を軽くしてあげたい。


「俺も父親いなくてずっと片親でしたけど、母親がいたんでそこまで辛くなかったですよ」


 辛かったけど嘘を吐いた。


「嘘……」

「え?」


 だから、ミサさんがそう呟いた時はドキリとした。


「あの子には、ずっと嘘をついているんだよ。父親が死んでいるなんてあの子に言えるわけがない。だからまだ生きているって。私が適当に『父親は包帯を全身に巻いて帰って来るよ』って言っていたせいで、アンタを父親だと誤認してしまった。すまないねぇ」

「それは、いいですけど……。でも、いつかは言わないといけないですよ」

「分かっているさね。いつかはあの子に本当のことを言わないといけない。だけど、あの子はまだ幼い。だから、本当に申し訳ないけど、まだ嘘をついていてもらえないかい?」

「それは……」


 どうなんだろうか。

 どっちがサキちゃんの為になるんだろうか。

 いつかは父親が死んだということを知らないといけない。

 俺が嘘を吐くことで、父親が死んだと知ったら更に傷つくことにならないだろうか。

 でも、サキちゃんはあまりにもまだ幼過ぎる。


「……それがダメなら西に行けばいい」

「西に?」

「首都がある。そこに冒険者ギルドがあるから、そこならアンタが持っていた素材を売りに出すこともできるだろうね。そこでなら冒険者になることもできる」

「そんなこと言っていいんですか?」

「この数日でアンタがどういう人間かは分かったつもりだ。借金残して逃げるような人間じゃないんだろ?」

「ん――勿論ですっ!!」


 どうやら誘拐事件を解決してから随分と信頼されるようになったみたいだ。

 ただ、冒険者か。

 結局どんなもんなのかハッキリ分かっていない。


「冒険者になるつもりはないんですけど、冒険者になるメリットはあるんですか?」

「ん? そうさね。冒険者を本業にしなくていいんだよ。冒険者は許可証みたいなもんでね。国境を超える時に見せたり、ダンジョンや危険な場所に立ち入る時に必要になるんだ。だから、冒険者にならずとも、冒険者の資格はあった方がいいんさね。まっ、年々入るのが難しくなっているっていうから、アンタはなれないかもね。売る為だけに冒険者ギルドに行けばいいさ」

「なるほど……」


 冒険者に登録するには資格が必要。

 そして、冒険者になったら、車の免許証とかパスポートとか、通行証みたいな証明になると。

 かなり特典が付随されるみたいだ。

 ただ、それだけ冒険者になるにはハードルが高そうだけど。


 車の免許取るのだって、合宿で二週間以上かからなかったか?


「色々と教えてくれてありがとうございます」

「いいんだよ。私の娘を寝かしつけてくれた礼さね」


 そうして、俺は自室に戻って寝た。

 サキちゃんや、ミサさんのこと、それから自分の将来について考えていたせいで、すぐには寝付くことはできなかった。

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