第30話 じゃんけんで勝利する為に必要なのは運と心理戦(逢坂陣視点)
じゃんけんの必勝法の一つ。
両手を組んだまま回転させ、手の中の隙間から次の手が見えてくる――なんておまじないが俺の住んでいた地域にあったが、やはり見えない。
そもそもこのおまじない。
誰が考えたんだろうか。
「あんた、俺とじゃんけんしようか?」
傍から見たら阿呆にしか見えないことしている俺に、受験者が声をかけて来た。
俺はその男を品定めするように見定める。
肌の血色は悪く、服は破けているところがあり、歯が黒いし、髪もボサボサで、臭い臭いがこちらにまで匂ってきて、恐らく昨日風呂に入っていない。
全体的に小汚い印象だ。
年齢は四十代後半っていったところだろう。
肉体労働が多いである冒険者を今から目指そうとしているってことは、転職希望ってところか?
「いいッスよ」
良かった。
思いついた策を使うのに、もってこいの人物だ。
相手が相手ならば、全く通用しない策だったが、これなら通用しそうだ。
「それじゃあ、掛け声はどうする? ロック・ペーパー・シザーズにするか?」
「そんなのいらないッスよ」
俺は握り拳を作って、男の前に突き出す。
今から殴り合いをするという訳じゃない、ただのじゃんけんの準備だ。
「……その手はなんだ?」
「え? 予告じゃんけんッスかね?」
じゃんけんで勝利する要素とは、運と心理戦。
初対面の人間の心を読むなんて芸当は、メンタリストでもなければまず不可能だ。
俺だって素人で、心理学について精通している訳じゃない。
そして心を読む固有スキルだって持っていない。
そういった状況で心理戦を仕掛ける上で最もポピュラーな手段は予告じゃんけんだ。
グーを出すと先に言えば、相手の次の出す手を絞ることができる。
結論を先送りするタイプならば、引き分けのグー。
勝つ気しかない単純タイプならば、パー。
ひねくれ者の熟考タイプならば、チョキ。
こいつの見た目から察するに、熟考タイプではまずない。
一番可能性が高いのはグーだろう。
努力を積み重ねることなく生活を送っている奴は、大体こういう時は引き分けを選ぶ傾向にある。
「なるほどな。それで揺さぶっているつもりか? グーと見せかけて、チョキを出すとか、そういう心理戦を挑んでいる訳だ。だが、俺は――」
「違うッスよ。俺は必ずグーを出す。絶対に」
言葉で心をただ単に揺さぶっても限界はある。
特に浮浪者のような恰好をしているこいつには、今自分が人生の瀬戸際にいることも理解していないはずだ。
現実感がなくフワフワしているこいつには、こいつが食いつくであろう極上の餌が必要だ。
「? 口だけなら何とでも――」
「俺は次、グーを出す。もしもチョキか、パーを出したら10万ギルドを出す。これでどうッスか?」
「なっ――」
金だ。
人生は金、女、酒だ。
特に、金のなさそうなこいつは、金が最も美味しい餌であるはずだ。
「じゅ、10万ギルドなんてFランク冒険者が一ヵ月ダンジョンに潜り続けても稼げるかどうかの金だ!! そんなの賭けるなんて、いや、そもそも賭けられるはずがないっ!!」
「? なんでッスか?」
「金を賭けられるなんてルールになかったはずだ!! お前が口から出まかせを言っていることだってありえる!?」
「金を賭けちゃいけないルールだってないはずッスよ。ね? そうッスよね? 受付嬢さん」
後ろに控えていた受付嬢に声をかける。
自分の考えが正しければ、受付嬢はこの場をジャッジする権利を多く得ているはずだ。
曖昧な言い方が多かったギルド長のあのスピーチだったのだ。
不測の事態がいくらでも起こり得る。
なのに、今まで一度も受付嬢達がその場を離れて、ギルド長にルールのお伺いをした場面は観ていない。
つまり、それだけの権限を受付嬢一人一人に与えらているってことだ。
「はい。お金を賭けることは何も問題ありません。ルールは勝負をする互いの同意が得られれば、いくらでも作っていいルールになります」
「そ、そんな訳あるか!! あのギルド長だって、不正を働いたらって不合格だって言っていただろ!!」
「ですから、その不正は、自分達が作ったルールを破った場合のことです。ですから、今は何の問題もありません」
「くっ――」
普通に考えれば、10万ギルドもの大金を払って別の手を出すなんてあり得ない。
ただ、俺は国の支援を得ているので金を持っている。
だから別の手を使うこともあり得るから焦っている。
「わ、分かった……。拾えるものは貰って置こうか」
「待って欲しいッスね」
この台詞、どうやらグーを出すか出さないか疑っているようだ。
それじゃだめだ。
もっと勝率を上げなきゃダメだ。
俺が目指すのは勝率100%のじゃんけんだ。
「な、なんだよ!! その条件で勝負するって言ってんだろ!!」
「――ルールを追加するッスよ」
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