第46話 獣人奴隷による最高の見世物

 二人で突入すると、姉の絹を裂くような悲鳴が飛び出す。

 布で身体を隠すが、オドの方は裸であることを隠そうとしていない。

 そもそもフリーダが足を踏み入れた瞬間、二人の身体はまだ重なっていたのだ。

 いくら素早く動いたとしても流石に言い逃れはできない。

 それを悟ってか、姉の手は震えていた。


「え? なんで? フリーダ?」

「なんだ、お前ら? 今は取り込み中だ。消えろ」


 ムッとするような臭いが立ち込めていて、さっきまで外で盗み観ていた時とはまた違ったリアル感が増す。

 この二人がここでやっていた行為は本当だったのだ。


「うっ」


 フリーダは思わず両手で口を覆う。

 吐き気を抑えながら、全速力でオドに向かっていく。


 オドという男がどれくらいの強さかどうか見たい。

 そう思ったら、目の前にウィンドウが出てくる。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【名前】オド


【レベル】1


【装備品】なし


【スキル】腕力上昇(レベル1)


【固有スキル】なし


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 どうやら、固有スキルも持っていない人間らしい。

 冒険者であるフリーダと、相手はただの一般人だ。

 恐らく相手にすらならないだろう。

 そのまま殴られるはずだった。


「うあああああああああっ!!」

「やめて!! フリーダ!!」


 フリーダの姉が止めに入るなどしなければ。


「お、お姉ちゃん!?」

「だ、だめでしょ? オド様にそんなことしちゃ。逆らったら私達生きていけなくなるんよ?」

「……リーベルタ姉さん……」


 リーベルタの焦点が合っていない。

 自分が今何をやっているのかさえ分かっていないんじゃないだろうか。


「ハハハハッ!! 生きていけなくなるのは、お前だろ? リーベルタ」

「あっんぅ!!」


 オドは彼女の胸を強引に掴みながら揉みしだくが、リーベルタはされるがままだった。


「もう、ヘブンアッパーと俺の身体なしじゃお前は生きていけない。ほら、これが欲しければ、どうすればいい?」

「あっ、あっ、そ、それは……」

「まだ今日は十分に可愛がっていないなあ。いいのか? 今終わらせても……」

「ぅうううう」

「ほら、どうするんだ!!」


 オドに押され、フラフラになったリーベルタはフリーダの前に立つ。


「お、お姉ちゃん?」

「フリーダ、よく聴いて」

「え?」


 フリーダの両肩に手を置きながら、にへらと笑みを作る。


「今すぐここから出て行ってくれない?」

「な、なんで……?」

「私ね。今から大切な仕事があるんよ。安心して、そんな酷い目に合わされている訳じゃないんやから」

「お、おかしいヨ……。何、言っているの……?」


 頭を振って現実から逃れようとするが、それをオドが許さなかった。


「お前らの稼ぎ程度で二人が生きていけると思ったか? 織物なんか作ってないんだよ。お前の姉は毎晩俺の相手をしていたんだ!! それを知らずにいた方が幸せだったろうに、お前がそれを壊したんだ!!」

「う、嘘だヨ……リーベルタ姉さんは私なんかとは違って綺麗なはずで……。いやだ、いやだああああああああああっ!!」


 喉の奥からの叫びに、俺の胸まで張り裂けそうになる。

 たった一人の肉親から裏切られた気持ちの全ては、きっと彼女にしか分からない。


「……はぁ。バレたなら仕方ない。俺も子ども相手じゃ乗り気じゃなかったが、そうだな。今度はお前も働いてもらおうか。冒険者になって稼ぐよりかはよっぽど稼ぐことだってできる」

「え?」

「俺も他の奴等と一緒にやるんだったら、お前相手でも興奮できるかもな。まっ、味見ぐらいは今やっておくか。――おい」

「あああっ」


 オドはリーベルタの髪を力ずくで掴むと、裏切られたはずのフリーダは激高する。


「や、やめろ!!」

「こいつを今から調教してやる。お前からも説得しろ。できない、なんてことはないよな?」

「…………っ!」


 リーベルタはフリーダに向かって手を伸ばす。


「フリーダ。早く服を脱いで」

「え?」

「いいから、早く!! 私はあんたの為にずっと身体張って頑張ってきたんよ!! たまには私にも楽させてよ!!」

「……う、嘘だよネ?」

「早くしなさいよ!! いつだって私の方が辛い思いをしているんだから!! この愚図ッ!!」


 フリーダは固まってしまった。

 姉にあんな事を言われたのは人生で初めてといった様子だった。


「ハハハハハッ!! 獣人奴隷達らしい、最高の見世物だっ!!」


 高笑いしているオドに、俺は一瞬で肉薄する。


「――お前、いい加減五月蠅いよ」

「ぃぎゃああああああ!!」


 オドをブン殴ると、身体が壁に釘みたいに突き刺さる。

 壁をぶち壊すぐらいの勢いで吹き飛ばしてしまったから、今の一撃で死んだかも知れない。

 だが今はあんな最低の男の生死などどうでもいい。


「おい!! あんた達を縛っている鎖はもうない!! だから本音で語り合ってくれ!!」


 頼むから仲直りして欲しい。

 俺なんて、もう仲直りも喧嘩もできない。

 血の繋がった家族なんていないんだ。

 だから、頼むから二人には和解して欲しい。


 リーベルタは自分の妹に酷いことばかり言った。

 でも、それは本心じゃないはずだ。

 ヘブンアッパーや、あのオドがそう言わせただけだ。


「……本音も何も、さっき言ったことが本音よ」

「ねえ、もういいんダヨ。あいつはもう気絶しているから、だからもうフリーダ姉さんは――」

「五月蠅いって言っているでしょ!! 私はあなたのことがずっと昔から嫌いなんよ!! いつも泣いて、私を頼って!! 私だって、私だって本当はずっと辛くて、泣き言もいっぱい言いたかったのに、アナタのせいで――!!」


 ガラリ、と壁が崩れる音がする。

 死にぞこないのオドが起き上がって来たようだ。


「き、貴様ら……!!」


 オドは手に黒光りするものを持っていた。

 もしかしてオドが隣の部屋に保管していたものだったのか。


「――じゅ、銃!?」


 しかも猟銃だ。

 この世界にもそんなものがあるのかと混乱している間に、銃声が響いた。



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