第110話 再会
2階には魔法に関する書物や魔道具、その他にも商人が使う巨大な秤、つい先日漁港で見たばかりの氷造機らしき物など、専門的な商品の売り場が広がっていた。
その間を奥へと進んでいき、スタッフオンリーのバックヤードに入る。
いくつかの部屋の前を通り過ぎ、一番奥の扉をノルーシャさんはノックした。
「お嬢様方が来られました」
滑らかな動きで扉を開け、中に入るように案内される。
「ああ、リリーっ! やっと来たかい!!」
全員が入り終わるより先に、2週間ぶりに聞くジャックさんの声が聞こえてくる。
よっぽど我が娘に会いたかったみたいだ。
ジャックさんはソファーから立ち上がると、こっちに駆け寄ってきて先頭にいたリリーに抱きついた。
「何も変わりはないね!? 体調も大丈夫なんだねっ?」
「くるしい……」
「もう、貴方……?」
「はっ。す、すまない!」
抱きしめる腕に力が入りすぎていたらしい。
リリーがぼそっと言うと、ジャックさんは続いて近づいてきたメアリさんに呆れ気味に釘を刺されている。
リリーが解放されると、メアリさんは娘の頭を優しくそっと撫でた。
「元気だった?」
「うん」
「……そう、なら良かったわ。あなたのこと、ちょっと心配しすぎだったかもしれないわね」
安心しながらも嬉しそうに笑って、メアリさんはリリーを見つめている。
娘の成長を感じたのか。
その目には感動のようなものが浮かんでいるように感じた。
「カトラちゃんとトウヤ君も久しぶりだね。変わらず元気だったかい?」
「ええ」
「はい」
僕たちもジャックさんに訊かれ、頷く。
部屋のつくりはフィンダー商会を訪れたとき、入ったジャックさんの部屋と同じ感じだ。
向かい合うように置かれた高級感漂うソファーに、自然な流れでジャックさんとメアリさん、その向かいに僕とリリー、カトラさんが座ることになる。
ノルーシャさんは気を利かせてくれたようで「では」と一つお辞儀をすると部屋から出て行ってしまった。
「リリーが、迷惑かけなかったかしら?」
「迷惑だなんて、全然よねトウヤ君?」
心配そうなメアリさんに、カトラさんはそんなのないに決まってる、と当たり前の雰囲気で首を振っている。
「そうですね。僕も、全然。むしろ一緒に来てくれて楽しいくらいですよ。レイのことも可愛がってくれていますし」
「まあ……といった感じでトウヤ君もかなりですけど、リリーちゃんも大人っぽいですから。ふとした瞬間に、10歳の子たちだって忘れちゃうくらいで」
「ふふっ、そう。ありがとうね、2人とも」
「さすがはリリーだ!」
頭を下げるメアリさんの横で、ジャックさんは誇らしげにしている。
メアリさんだけでなくリリーにも呆れられてるけど、それはいいんだろうか……?
変わらず娘のこととなると、いつものクレバーさはどこへやら。
この親バカっぷりだ。
まあでも最初は困惑していたけど、すっかり慣れた今となっては、微笑ましい定番の光景でもある。
「そういえば、みんな少し日焼けしたんじゃないかい?」
「そう、ですか……?」
あんまり変わった気はしないけど。
ジャックさんに言われて、リリーとカトラさんの顔を見てみる。
2人も自分以外の顔を見ているが……。
「「「たしかに」」」
今になって気づき、声が揃う。
ずっと一緒にいたからなかなか気付かなかったんだろうか。
冷静になってフストにいた頃と比べると、たしかにジャックさんが言うとおり結構焼けてる気がする。
でも、この前までここまで焼けてた気はしないんだけど。
……あっ。
「もしかして、一昨日で一気に焼けたんですかね?」
「あー、そうかもしれないわね」
ここ数日で急激に黒くなったとしたら、それくらいしか理由は見当たらない。
カトラさんも同感のようで、僕の言葉に頷いたところでメアリさんが首を傾げた。
「一昨日……?」
「漁に、参加したから。ネメシリアで知り合った漁師さんの船で」
「漁にっ? みんなで?」
あんまり表に出てないけど、2週間ぶりの両親との再会にリリーも喜んでいるのかな。
僕たちに代わってそう答えてくれる。
彼女が驚きつつ改めて確認してくるメアリさんに頷き返すと、ジャックさんたちは2人で顔を見合わせた。
「この街の漁師と、こんな短期間で船に乗せてもらえるくらいになるなんて一体何をしたんだい?」
心の底から驚いた様子で、ジャックさんが質問してくる。
僕たちがロッキーズ大橋でダンドに出会ったことから、ニグ婆のこと、そして父親であるアルヴァンさんに紹介してもらったことなどを説明する。
一連の出来事を話し終えると、ジャックさんは感心したように目を丸くした。
「凄い巡り合わせだね、それは。漁師たちの組合長ってのは、この街ではここを治める領主にも劣らないくらいの影響力を持つ人物だからね。偶然繋がるだなんて、いくら望んでも叶わないようなことだよ」
領主にも劣らないって……。
仕方なく組合長をさせられてるって雰囲気だったけど、アルヴァンさんの立場ってそこまで凄かったんだ。
「やっぱりトウヤ君って運が良いのかしら。そもそもジャックさんも凄い方なのよ? なのに、ネメシリアでもアルヴァンさんみたいな方と知り合えたんだから」
カトラさんに言われて、考えてみる。
「そうだったら嬉しい話ですね。おふたりとも優しいですし、おかげで色々と経験させてもらえたりたくさん助けられてますから」
自分でも人との巡り合わせは良いとは思う。
思い当たる節があるとすれば、やっぱり僕がレンティア様の使徒だからかな。
もしそうだったら、いい人たちに出会わせてもらって感謝だ。
「こうも面と向かって言われると照れるな」
ジャックさんは珍しく頬を掻きながら、恥ずかしそうにしている。
そんな彼を見て、メアリさんもリリーもにっこりと微笑んでいるのが、印象に残った。
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