第26話 水路

 水がなくなったので階段を下りて地下室に入る。


 うわっ。


 なんか地面がヌメヌメしてるなぁ……。


 転ばないように注意して、まずは穴の前にある山の一部をアイテムボックスに収納してしまおう。


 大きな棚や生ゴミが混ざった山だ。


 これのせいで水が流れなくなってたんだな。


 ひとまず自分が通れる幅さえあればいいから……棚を収納する。


 大きく足を上げて壁の穴へ。


 少し屈むだけで通れるくらいサイズ感だ。


 地下室と1mほど間があって水路に入る。


 真っ暗な空間が左右に伸びていた。


 この様子だと、豪雨の時はこの空間が埋まるくらい大量の水が流れたのかな?


 それで何かの歪みで、壁に穴が空いて孤児院の地下室と繋がってしまって……。


 まあ、今は小川くらいの水量だけど。


 よし、じゃあ始めるか。


 下流に向かって放水を開始する。


 少しずつにしないと危険だけど、調整なんてしたことがないので出来ることといえばミスをしないようになるべく気を張るくらいだ。


 ジャバジャバジャバジャバ……。


 ん?


 しばらく放水を続けていると、視界の端で何かが動いたような気がした。


 水を止め、顔を向ける。


 ジーッと目を凝らし……うーん。


 ……。


 やっぱりだ。


 暗闇の中で何かが動いてる。


 ランタンの灯りを僅かに反射して、ぷるぷると。


 何だ、あれ?


 ランタンを掲げ腕を伸ばす。


 灯りが近づくと、その物体が半透明だということが見て取れた。


 ゼリーみたいだなぁ。


 ……あっ、もしかして。


 魔物がいる世界ってことは、あの定番の?


 1つの考えに至り鑑定を使ってみる。


 視界に現れるウィンドウ。


 そこには、予想通りの名前が表示されていた。



【 スライム 】

 水辺に生息する魔物。危険性は低く、汚れやゴミを食べる。



 基本情報と同時にステータスも確認。


 一言で言うと、かなり弱い。


 この感じだと僕が知っているあのスライムのままだな。


 危険性はないみたいだし、まあ放っておいてもいいか。


 むしろ後で、地下室にあるゴミを食べてもらうのもアリかもしれない。


 さて、じゃあ放水再開だ。


 視線を戻そうとすると、突然もう1つウィンドウが開いた。



【 スライム 】



「……あれ」


 内容は全く同じ。


 スライムのものだった。


 よく見てみると、さっきのスライムの近くにゼリー状の物体がもう1つある。


 なんだ、他にもいたのか。


 と言っても2匹いたところで変わりは――



【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】【 スライム 】



 え。


 視界いっぱいに次々と現れてくるウィンドウ。


 全て、スライムについてのものだ。


 う、嘘……。


 本当にこの数のスライムが、ここに?


 壁や天井にも張り付いているみたいだけど、暗くて目視することはできない。


 いくらステータス上は弱いとはいえ、見えないのにこんなにいると思うと怖くなってくる。


 よくあること……ではないだろう。きっと。


 しかし万が一のこともあるので、このことは帰りにギルドに寄ってカトラさんに相談だ。


 それにグランさんとは魔物と戦わないって約束したばかりだし。


 と、とりあえず今はっ。


 気持ち勢いを強め、放水をパパッと終わらせる。


 すぐに地下室に戻り、行きに収納した棚で穴を塞いだ。


 よし、隙間はないな。


 ふぅ。


 作業しながら様子を見て、問題がありそうだったらまた別の対策を考えるとしよう。


 だから今は……。


 生ゴミなどをアイテムボックスに入れて、元からここに置かれていた荷物を外に運び出そう。


 一気にやるとドブさらいの時の二の舞になるし、そもそも臭いが付いた物を大量に外に置いておくわけにもいかない。


 ご近所トラブルにでもなったら大変だ。


 だからある程度ここで綺麗にしてから、地上で最後の洗い流しと乾燥をすることにして……。


 まずはこの大きな木箱からだな。

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