第11話 宿

 カトラさんは懇切丁寧にギルドについての説明をしてくれた。


 その説明を簡単にまとめると、



・冒険者のランクはE~Sの6段階ある。

 E→D→C→B→A→Sの順で昇格していく。

・受注できる依頼は基本的に自分と同じランクまでだが、パーティの場合は1つ上のランクまで可能になる。

・常設以外の依頼に失敗すると違約金が発生する。

・ランクによって決められた期限内に1つも依頼をこなしていなければ登録が抹消される。

 Eランクの期限は1ヶ月以内である。

・犯罪行為を行ったと発覚したら除名処分。



 とのことだった。


 そしてもう1つ、僕にとって重要なのが……。


「ギルドには10歳から登録できるけど、自己責任で自由に活動できるようになるのは13歳からよ。間違ってもギルドの審査なしで依頼を受注する、なんてことがないように気をつけてちょうだいね?」


「わかりました。薬草採取などの常設依頼に関しても、ですよね?」


「うん、よろしい! じゃあ説明は以上。規則を守ってこれから冒険者として頑張って」


 どうやら13歳になるまでの冒険者は見習いのような扱いで、ギルドの職員によって実力に見合った依頼しか受けさせてはもらえないらしい。


 子供が無謀な挑戦をしないためのルールなのだろう。


 だけど、意外だったな。


 このあたりの配慮が行き届いているとは。


 まあ、もし職員に実力を認めてもらえたとしても、これから支部を転々とすることになるであろう僕にとっては困った話だけど。


「じゃあ行こうか」


 ジャックさんに促され、僕たちはギルドを出た。


 次に向かうのは宿屋。


 ギルドからも徒歩で行ける距離にあり、ジャックさんの顔なじみが営んでいる場所だそうだ。


 馬車の停留所の横を通る途中、ここでお別れとなるユードリッドに手を振る。


 それから5分ほど。


 到着したのは閑静な住宅街にある宿屋だった。


 看板には『高空たかぞら亭』と書かれている。


「もちろんトウヤ君が気に入らなければ別の宿を紹介するけど、ここが一番料理が美味しくて部屋もいいと思うよ。ずば抜けて便利な立地ではない代わりに夜も静かだしね。私のオススメさ」


「あの、料金の方は……?」


「良心的だよ。たしか夜と朝の食事付きで大銅貨3~5枚程度だったはずだ」


 おお。


 本当だ、悪くない。


 比較的楽に稼げる日給くらいだろう。


 あとは中の雰囲気を見て決めるかな。


「ちょっと覗いてから決めてもいいですか?」


「うん、そうするといい。宿選びは重要だからね」


 木の扉を開けて中に入る。


 高空亭は日が差し明るく、よく手入れされている印象を受けた。


 入ってすぐの場所にフロント。


 1階部分は食堂になっていた。


 その奥に2階に続く階段が見える。


「いらっしゃい。宿泊か――って、ジャックじゃねえか」


 フロントの前で待っていると、厨房から大柄な男性が出てきた。


 刈り上げた茶髪で筋骨隆々。


 190cmくらいはあると思う。


 この人が……主人なのかな?


 迫力満点の顔に思わず後ずさりそうになる。


「つうことは食事か?」


「ああいや、今日は違うんだ。宿を探しているこの子に紹介でね」


「なんだ。見ねえ顔だがどこで知り合ったんだ」


 ジャックさんが事の経緯を軽く説明する。


 話を聞くと、男性は愉快そうに笑った。


「ジャック。お前、死にそうになったのか。こりゃあこの坊主に感謝しねえとな。で、どうだ。宿はうちに決めたか?」


 知人が死にかけたというのに、この反応……。


 異世界、スゴイ。


 宿屋の主人に問われ考える。


 この人も一見怖いが悪い人ではなさそうだ。


 それに何より宿自体の雰囲気がいい。


 よし。


「まずは1泊、よろしくお願いします」


「おう! んじゃあ大銅貨3枚……なんだが、ジャックの恩人っつうことでお前さんは2枚でいいぜ。もちろん、今後があったらそん時もな」


「え! い、いいんですか!?」


「気にすんな気にすんな。つうか、こんな坊主から金儲けしねえといけないほど困ってねえよ。いいから、ほい。とにかくここに記帳してくれ」


 大銅貨2枚を払い、記帳に名前を書く。


 僕は部屋に案内してもらうことになり、ジャックさんとはここで別れることになった。


「今日のところはここまでですまないね。また後日、時間を作って私の方から必ず出向くよ。本当に、今日はありがとう。では、また」


 落ち着きを払っていたが本当は時間に余裕がなかったのだろう。


 ジャックさんが宿を出ると、足早に駆けていく音が微かに聞こえた。


 新しい世界に新しい街。


 一気に心優しい人たちに出会えた気がするなあ。

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