第10話 冒険者
街に入るための手続きはすぐに終わった。
大銅貨1枚を支払い、詰所で犯罪者ではないか確認するために水晶玉に触れるだけだったからだ。
ちなみ犯罪者の場合、水晶玉は赤く光るらしい。
僕が触ると青く光った。
これで問題ないと判断され、証書を発行。
ついでに門兵さんから、街を出入りするなら早いうちに国を跨いだギルドに入り、身分証になるものを入手するといいとアドバイスを貰った。
そうすれば街に入る際のお金もいらなくなるそうだ。
魔法を感じる水晶玉に感動しながら詰所を出ると、ジャックさんが話しかけてきた。
「トウヤ君はいずれ旅をするつもりなんだろ? その魔法の腕もあるし冒険者に向いていると思うんだけど、よければこのまま登録しに行くかい」
「え、お急ぎなんじゃ……?」
「まだ時間もあるし構わないよ。それに私が通行料を払うのも断られてしまったことだ。身分証と宿の手助けぐらいはさせてほしい」
義理堅いなぁ。
商人だからなのかな?
ジャックさんだってあんなことがあった後だ。
精神的に相当疲れているだろうに。
しかし、それでも構わないと言ってくれ、僕は冒険者ギルドに案内してもらうことになった。
本でこの世界に冒険者がいると知った時から、元々なりたいとは思っていた。
世界を旅するという目的にも適している。
それに何しろ、わくわくする。
ファンタジーの王道だ。
商人ギルドに登録して行商人になる、という手もあったがこれは厳しいだろう。
今の僕は10歳児だからなあ……。
フストの街はやはり、かなり大きかった。
街並みは中世ヨーロッパ風。
ザ・テンプレだ。
石畳がいい雰囲気を出していて、高い建物がないので空が広い。
だが、日本にいた僕からすると人口密度はそこまで高く感じなかった。
獣人らしき人もいたのは興奮したけど。
道中、目を輝かしていたらジャックさんが泣きそうな顔で微笑んできたので、どんな印象を持たれているのか不安だ。
冒険者ギルド最寄りの停留所に馬車を停める。
ユードリッドと別れ、少し歩くと『剣と盾』の看板が見えてきた。
あそこが冒険者ギルドか。
「大きいですね」
「冒険者ギルドは、商人ギルドなんかに比べても人の出入りが多いからね。魔物の素材買取所も併設しているし、大概の支部には酒場もあるから」
ジャックさんは慣れた足取りで中に入っていく。
僕は少し緊張したが、時間帯もあるのかギルド内の人影はまばらだった。
それに思ったよりも清潔感がある。
広々とした造りで、左手に酒場が続いている。
全体的に床も柱も焦げ茶色の木が印象的だ。
すれ違った人にちらっと見られただけで、絡まれることもなく明るいエントランスを抜ける。
受付窓口は3つのうち2つが空席だった。
ちょっと早い昼休憩かな?
真ん中の席でただ1人、手元に視線を落とし何か事務作業をしていた女性は、僕たちが近づくと顔を上げた。
「あれ! ジャックさん、どうしたの。冒険者ギルドに来るなんて珍しいわね」
「やあ。ちょっと、この子の登録を頼みたくてね」
ジャックさんの知り合いの方だったらしい。
ウェーブがかった茶髪に端正な顔立ち。
見た感じ結構若く見える。
20歳くらいかな。
女性は僕を見下ろすと目を丸くした。
「まあ、可愛らしい新人さんね。私はカトラよ」
「トウヤです。よろしくお願いします」
「ふふっ。これからよろしくね、トウヤ君」
なんだ、この大人の余裕は。
僕なんかよりも断然肝が据わっている気がする。
話を聞くと、カトラさんはジャックさんの古い知人の娘さんだそうだ。
「じゃあここ、登録用紙に記入をお願いできるかしら。文字が書けない場合は代筆もオーケーよ」
レンティア様のおかげで文字は問題なく書けるので、ペンを受け取って羊皮紙に名前などを書いていく。
武器については未定。
魔法を少々っと。
ジャックさん達は代筆になると思っていたのか、かなり驚いているみたいだった。
識字率はそこまで高くないのかな?
登録料は銀貨3枚。
ここはどうしてもとジャックさんが言ってくれたので、断ろうとしたが「宿のお金も必要だろう?」と押し切られてしまい、支払ってもらうことになった。
その後、木を嵌めたドッグタグのような物を貰う。
これがギルド証なのだとか。
ランクは一番下のEからスタート。
指先に針を刺し、ギルド証に血を垂らすと登録は完了した。
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