第61話 先輩
ひとまず街に戻ってきた。
道中、時間をもらって僕はあれこれ考えたが……。
うーん、そうだなぁ。
特に返事も出来ずギルドに寄って、レイが獲ってきてくれたホーンラビットなどを売ってきた。
カトラさんと並んで、高空亭への帰り道を歩く。
途中で甘い物が置いてある屋台を発見した。
あ、そうだ。
レンティア様への貢物に買っていこう。
それに……カトラさんに話を聞けるタイミングというか、時間がほしいし。
「あれ食べてみたいので、少しだけ待っていてもらえますか?」
「ん? ああ、あれ美味しいわよ。せっかくだし、私も買っていこうかしら」
ということで僕は2つ、カトラさんは1つ購入して広場のベンチに座って食べることになった。
短めのチュロスをシロップに浸したような食べ物だ。
串に刺されていて、噛むとジュワッと甘さが広がる。
美味しいな。
レンティア様へ送るのは後にして……。
もう1つはアイテムボックスに入れておく。
レイも食べたそうにしているけれど、犬じゃなくてフェンリルなら濃い味付けの物をあげても大丈夫なんだろうか?
今度、魔物の食事について図鑑でも当たってみよう。
食べ終わった頃、カトラさんが旅への同行を申し出たことに対して何となく考えがまとまってきた。
屋台の筒に串を捨ててから、話を切り出す。
「カトラさん。あの、さっきのことなんですが……」
「ええ」
「本当にいいんですか? 僕についてくるって」
再び並んで歩き出す。
カトラさんは目を丸くして僕を見た。
「いいって……トウヤ君は構わないの? もし嫌だったりしたら私は素直に身を引くわよ? あまりに突然言い出しちゃったけれど」
「いや、僕は嫌じゃないですよ。別に1人にこだわっているわけでもありませんし、旅の仲間がいた方が安心できることもあると思いますから」
使徒であることを伝えるか、伝えないか。
その他にも考えないといけないことは多々あるが、カトラさんなら一緒に来てくれると嬉しいくらいだ。
人柄的にも、強さ的にも安心できる。
ただ……。
「カトラさんはでも、本当に僕に付いてきても問題はないんですか?」
「問題?」
「冒険者に戻るだけだったらあれですけど、街を出るとなったらグランさんだって寂しいはずですし」
「ああ……うん、そうね。お父さんはきっと、寂しがってくれるはずだわ」
真っ直ぐと前を見るカトラさんは微笑みを浮かべている。
「それと同じくらい、喜んでくれもするはずよ。だって拠点を定めずに各地で冒険者をするだなんて、お父さんの後を追うようだもの」
「……え? ぐ、グランさんって冒険者だったんですかっ?」
「あれ、聞いてない? 実の両親が亡くなった私を引き取るまでは冒険者だったのよ? それから趣味の料理を活かすために高空亭を開いて」
「へぇー。そ、そうだったんですか……」
たしかにあのガタイだったら、冒険者の中でも大きいくらいだもんなぁ。
「年頃だったから、昔は私のせいで引退させちゃったんだって負い目を感じちゃって。何せSランクの全盛期に引退したものだから」
「Sランクっ!?」
「ふふっ、スゴいでしょ?」
いや、スゴいの一言で済ませられないレベルなんじゃ……。
カトラさんが前、勉強中にフストにいる冒険者で最高がBランクだと言っていたくらいだ。
なんだか最近、色々と驚かされてばかりだな。
「とまあこれから話してみるけど、お父さんのことは問題ないはずよ。話は追々詰めるとして、本当にトウヤ君が構わないのだったら……私も同行させてもらってもいいかしら?」
カトラさん本人がいいのなら、僕に断るつもりはない。
「わかりました……では改めて。よろしくお願いします、カトラさん」
「うん、よろしくね」
とんとん拍子で話が進む。
実感が湧かないけど……そうだ。
後でギルド職員を辞めるのにかかる時間とかも確認しておかないとな。
あ、それと……。
「冒険者に戻るのだったら、カトラさんもEランクからの再登録になるんですか?」
「うーん……冒険者を続けるのが困難だとギルド側に判断された訳でもないし、私はギルド証を手元に置いてるから再登録しなくても大丈夫なはずよ。私のランクだと依頼を受けなくてもまだぎりぎり失効していないはずだから」
「え? 1年経っているんですよね、受付嬢になられてから」
「あと少しで1年ね。だから急いで薬草採取だけでもしたら、顔も知られていることだし失効は免れられるはずだわ」
えーっと。
たしか僕のEランクだったら、1ヶ月が期限だったはずだ。
それ以上の間、依頼を受けなかったら登録が抹消される。
1年間依頼を受けなくても大丈夫だって、まさか。
「か、カトラさんは何ランクだったんですか……?」
「Bランクよ」
「…………」
窺うように尋ねると、あっさりと答えられた。
B……B……。
その年齢でBランクになっていたって、どれだけスゴい人だったんだろう。
まあ、Sランク冒険者の娘さんだったら不思議ではないのかもしれないけれど。
驚きを超えて呆然としてしまう。
頼れる受付嬢さんは今後、頼れる先輩冒険者さんになってくれそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます