第18話 娘さん

 翌日。


 朝食は昨日と同じホットドッグ。


 熱々のブラックコーヒーを啜る。


 食事を終え、僕が洗い物をするグランさんと話をしていると、高空亭の扉が開かれた。


「やあ、トウヤ君」


「ジャックさん、おはようございます。昨日はすみませんでした。わざわざ足を運んでいただいたのに」


「いや、気にしないでくれ。訪問が突然すぎた私の落ち度さ」


 ジャックさんはこちらに来ながら眉を上げる。


 その顔は、初めて出会った一昨日よりも元気そうに見えた。


 落ち着きもあって、疲れを感じさせない。


 逞しいな。


 僕が死に瀕したら、到底2日でこうはなれないだろう。


 ジャックさんとグランさんが軽い挨拶を済ませる。


「それでご用件は……ん?」


 タイミングを見計らい話を聞こうとしたところで、ジャックさんの後ろに人がいることに気付いた。


 僕と同じくらいの身長の女の子だ。


 銀髪ショートで、青い目をしている。


 ちょうど隠れるような場所に立っていたから、今の今までまったく気付かなかったな。


 覗き込むように僕が見ると、ジャックさんが自分の後ろに隠れるその少女の肩に手を置き、前に出した。


「娘のリリーだ。トウヤ君の話をすると、どうしても会いたいって言ってね」


 娘さん……。


 前に話していた10歳の子か。


 なんかジーッと表情ひとつ変えずに、こっちを見てるけど。


「はじめまして、トウヤ。よろしく」


「あっ。よ、よろしく」


 すんって感じの子だな。


 子供にしてはあまり高くない声。


 こうも真顔で見つめられると対応に困る。


 別に不機嫌なわけではなさそうなので、これが素なんだろうけど、どうしたらいいんだろう?


 助けを求めてジャックさんを見上げる。


 …………ああダメだ。


 この人、親バカだったみたい。


 挨拶できて偉いとばかりに、デレデレな顔で娘さんのことを見ている。


 もう、こうなったら……。


「んんっ。それでジャックさん、今日はどのようなご用件で?」


 咳払いをして、強引に話を進めるしかない。


 ジャックさんはハッと夢から覚めたように、いつもの引き締まった表情に戻った。


「トウヤ君が必要な物を一緒に見に行こうと思ってね。そうしたらリリーが……」


「トウヤに街を案内しようと思って、わたしも来たの」


「なるほど……」


 しまったなぁ。


 昨日、服も買っちゃったし。


 今必要な物は他に思いつかない。


 冒険者ギルドで試しに1つ仕事をしてみたことに合わせ、そのことを伝えてみる。


 するとジャックさんは感心してくれたみたいだ。


「凄い行動力だね。昨日の朝に会えてれば良かったんだけど……何もできないで申し訳ない」


「いえいえ、そんな」


 所持金で買える物のなかで欲しい物はないが、街を案内してもらうのは普通に良いかもしれないな。


 毎日ギルドで仕事をする。


 そんな予定を昨日に立てたばかりだけど、まあ今日はいいか。


「街へはご一緒させていただいてもいいですか?」


「もちろん。じゃあ今日は街案内、観光を主に回ってみようか。リリーもそれでいいかい?」


「うん」


 真顔で頷いたリリーは、小さな声で「良かった」と呟いた。


 えっと……。


 これは一応、喜んでくれてるのかな?


 だったらいいんだけど。


 そうだ。


 ついでにレンティア様への貢物に適した物も探してみよう。

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