【書籍化】神の使いでのんびり異世界旅行〜最強の体でスローライフ。魔法を楽しんで自由に生きていく!〜

和宮 玄/和玄

第1話 転生

 気付いたら真っ白な空間に立っていた。


 女神様曰く、どうやら僕は死んだらしい。


 まさか38歳独身で生を終えることになるなんて。


「……はあ。異世界に転生、ですか」


「あれ? 思ったよりも冷静だな」


「い、いえ。もちろん驚いてはいるんですが……その、自分がなんで死んだのか思い出せなくて。まだ気持ちが追いつかないというか、なんというか」


 記憶がぼんやりしている。


 女神様はどこからともなく現れた椅子に座って、脚を組んだ。


 年は20代前半くらいだろうか。


 若く見える。


 燃えるように赤い長髪に健康的な褐色肌。


 スタイルが良く肢体はすらりと伸びている。


「どこまで覚えてるんだい?」


「たしか、終電間際に残業を切り上げて……」


 いつもと同じ帰り道だったはず。


 ただ、いつもとは違い大雨が降っていた。


「電車に乗り遅れないように慌てて駅に向かって……あっ」


 そうだ。

 その時だった。


 一瞬、ピカッと光った気がした曇天。


 それはきっと落雷の印だったのだろう。


 夜遅くにやっと仕事を終え、気怠さを感じながら家に帰ろうとしていた僕は運悪く雷に打たれて……。


 なるほど、そういうことか。


 少し気恥ずかしくなって頭を掻く。


「思い出しました。いや~まさか自分がこんな珍しい死に方をするなんて、驚きました。……っと、挨拶が遅れました。私、街見まちみ透也とうやと申します」


「珍しい死に方? 濡れた地面に滑って頭がポールに直撃、は事故死に分類されるんじゃないか? だったら言ってはなんだが、ありふれた死因の1つだろ」


「……え」


 あれ、雷は?


 女神様は目をパチパチさせた。


「アンタは思いのほか近くに落ちた雷に驚いて足を滑らせたんだよ。偶然近くに居合わせた人が救急車を呼んでくれたが、間に合わずにお陀仏さ」


「…………」


 嘘だろ。


 劇的な最期だと思ってたんだけど。


「まあ死んだことを理解してくれたらあとは早い。ちなみにアタシは生命と愛を司る女神レンティアだ。あんまり時間もないし先に進もう」


「あ。えっ、は、はい」


「さっきも言ったんだけどね、アンタにはアワロッドという地球とは異なるアタシたちの世界に来てほしいんだよ。別に断ってもいいが、その場合は記憶を失い地球で赤ん坊からの再スタートになる」


 僕の衝撃を余所に、レンティア様は話を進める。


 これが夢だったら時間が経てば目が覚めるだろうし、今はもう大人しく話を聞くとしよう。


「アンタにも悪い話じゃないだろう? 異世界に行けば人生が続くんだ」


「そう……ですね。有り難いお誘いです」


「詳しく説明すると魂の転移、肉体の転生だ。あっちではアタシが作った肉体に入ってもらう形になる。身元不明でも警戒されないとか諸々を考慮して、10歳くらいの子供になる感じだね」


「わかりました。使命などはあるのでしょうか?」


「ああ。それがアンタを選んだことにも繋がるんだけど、アタシの使徒として世界を旅してほしいんだ」


「使徒として旅を?」


「生前から休みがあれば旅行に出たいと強く思っていただろう? 素直に人生を楽しんでもらっていい。のんびりと自由気ままに、自分のペースで異世界を旅してくれると助かる」


 休日は仕事の疲れを癒やすために家の中で過ごすことが多かった。


 しかし、そうなのだ。


 ここ最近増えた旅などのアウトドアを題材にした漫画やアニメ。


 それらに影響され、旅行欲は高まりに高まっていた。


 結局ダラダラして一度もしてないけど。


 せっかく異世界に行けるのなら、僕も色々な場所を見て回りたい。


「わかりました」


「お、本当か! 実は天界での仕事に追われて、下界を観察する時間がなくてな。特別に100年に1人だけ自分の使徒を送る権利を貰って、こうやっているんだよ。大まかに世界を見るよりも、1人の人間がいる場所を観察する方が楽だからな」


 女神様も仕事に追われたりするんだ……。


「アタシたちの世界は魔物が存在する剣と魔法の世界だ。高い身体能力と魔法の才能をあげるから頑張ってくれ。成長できないと見てるこっちも退屈だから、初めから最強とはいかないが」


「ありがとうございます」


「けど……本当にいいのか? こんなにすんなりと」


「はい。趣味で元々こういう話は好きなので。それに近しい親族もいませんし、現実味はありませんが次の人生があるというなら楽しみな気持ちが上回ります」


「そうか。じゃあ新たな人生を楽しんでくれ」


「他にしなければならないことはありますか?」


「うーん……そうだな。各地で貢物を送ってくれると嬉しい。こちらから語りかけることはできるから、実際にその時になったら方法を説明しよう」


「わかりました」


 頷くと同時に、体が淡い光に包まれた。


「そろそろ時間のようだな。人間の魂はここに長居できないんだ」


「……なるほど。異世界に導いてくださりありがとうございます」


「ああ。最初に着くのは人のいない神域と呼ばれる森の中だ。近くにある祠の中に生活できる環境、魔法や世界での常識に関する書物を用意している。小さくなった体に慣れるまではそこで暮らすといい」


「そこまで……。本当に感謝してもしきれません」


 次第に光が強くなっていく。


「じゃあ、新たな世界で良き人生を!」


 レンティア様の言葉を最後に、僕の視界は眩い光に覆われた。


 そして、意識がぷつんと途切れたのだった。







 目を開けると木々に囲まれた草原にいた。


 深い森の中。


 円形にぽっかりと開けた場所のようだ。


 心地よい暖かな日差し。


 美しい蝶が飛び交っている。


 歩こうとして、強い違和感。


 ……そうか。


 足下を見下ろす。


 身長が30cm以上も小さくなっていそうだ。


 手も足も子供のもの。


 何度か手を握ったり開いたりする。


 次に屈伸。


「早く慣れないと……」


 しばらくは苦労しそうだ。


 レンティア様がこの体に適応するまでの期間のために、生活環境を整えてくれていて本当に助かった。


 今一度深く感謝して、辺りを見回す。


 草原の中央、小高くなった場所にある1本の大木。


 その下に祠のようなものが見えた。


 あれか。


 にしても……祠って、なんかめちゃくちゃ小さいんだけど、あの中で暮らせるものなのかな?


 僕は大木を目指し、ゆっくりと歩き出した。



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※書籍版も発売しています。たくさんの加筆やイラストなど、魅力たっぷりに仕上がっていますので、ご興味がありましたらぜひ手に取っていただけると嬉しいです!

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