第72話 星空に槍
リリーのハイスペックぶりに驚かせられる。
しばらく話は続いたが、平行線のままで決着はつかなかった。
リリーの主張によると、僕たちが行く場所は強い魔物が少なく、治安が悪い街もないらしい。
だから淡々と、危険はほとんどないと説明していた。
だが……。
それでも親として、ジャックさんたちが心配するのは当然のことだろう。
いくら本人が強く、さらにBランクのカトラさんもいるとはいえ、10歳の娘を旅に出すなんて普通はしない。
僕は改めて、ジャックさんに行く先を尋ねられた。
なので今のところは、
港町のネメシリア → 迷宮都市 → 神都 → フスト
の順で1度戻ってこようかと考えていると伝える。
ジャックさんは顎に手を当てた。
思考を巡らしているようだ。
「うん、ありがとうトウヤ君。みんなもすまないね。リリー、このことは家に帰ってからでいいかい? しっかり話し合うためには、パパとママにも考える時間が必要だ」
「……わかった」
結局リリーが頷いたことで、この話題は終了となった。
曖昧なまま終わってしまったけれど、リリー自身は落ち込んだりしてはいない。
むしろ僕が一番、話の結末が気になってしまっていそうなくらいだ。
気を取り直してパーティーが再開される。
眠気に襲われても、今日だけは寝たりしないようにしないとな。
この世界は朝が早いこともあり、アーズやリリーだけでなくグランさんたちも欠伸をしている。
ジャックさんとエヴァンスさんは、商会が祭りに出店しているため、朝方まで参加できるよう日中に仮眠を取っていたんだとか。
2人は今も楽しそうにお酒を呑んでいる。
朝から動きっぱなしだったので、僕は意思の力で何とか目が開いているような状態だ。
祭りを見逃せないという一心で耐える。
……。
旅に出る前に、みんなとこんなにゆっくり話せる時間はもうないだろう。
眠気対策の意味もあり、話しているとすっかり時間を忘れて盛り上がってしまった。
いつの間にか0時が迫っていたらしい。
普段は夜間に鳴らない鐘の音が聞こえてくる。
カトラさんが席を立って伸びをした。
「んーっと。ようやく年越しね」
続いて僕たちも腰を上げ、ぞろぞろと外に出る。
ビスさんが起こした息子さんたちも、まどろんだ表情で来ている。
外は少し肌寒かった。
聞くところによると、鐘の後にしばらくしたら何かがあるみたいだ。
道には所々ランタンが掛けられており、いつもより明るい。
ほぼ全ての家から人が出てきていた。
街の中心地の方に目を向けると空が明るいように見えたが、それも何故か段々と暗くなってきている。
「グランさん、何があるんですか?」
「おっ。なんだ、聞いてなかったのか?」
「はい。カトラさんに何かがあるとは聞いているんですけど、詳しくは教えてくれなくて」
ちょうど隣にいたので尋ねてみると、グランさんは腕を組んで空を見上げた。
「だったら後でのお楽しみだな。すぐ始まるぞ」
すぐ始まる……?
にやりと笑うグランさんの視線の先に目をやる。
すると月明かりに照らされた市壁の上に、人影が見えた。
1人じゃない。
横に広がって複数人いる。
目を凝らす……が、何をしているのかは分からないな。
ただ、周囲にいる誰もが口を閉ざして、一様に空を見上げている。
その時。
ゴォーンゴォーン……。
先ほどと同じ鐘が、より雄大に鳴り響いた。
辺りが静かだったからではない。
いつもに比べて、明らかに音量が大きい。
大気を震わせ、地面を揺らすほどだ。
不思議な高揚感を覚える。
見ると、市壁の上にいる人たちが空に向けて腕を伸ばしていることがわかった。
そして……。
ピッタリと揃ったタイミングで、一斉に火球が放たれた。
フストの上空に広がる星空を、明るく大きい火の玉が飛んでいく。
まるで同時に投げられた槍のように、綺麗に並んで。
火球は僕たちの上を通過し、街の中心、そして最後は西の方へ消えていった。
絶景だ。
目を奪われ、夢現な気分になる。
至る所で拍手や雄叫びが上がっていた。
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