第22話 指名依頼

 今は依頼を受けに来ている冒険者が多い。


 だから受付でではなく、前回アイテムボックスについて助言を貰ったスペースでカトラさんから説明を受けることになった。


 席を外すカトラさんの代わりに他の職員の方が受付に入る。


 何人かの冒険者から興味ありげな視線を注がれたが、僕が子供だからか突っかかってくるようなことはなかった。


 これがもう少し年齢が上だったら絡まれたりしたのかな?


『俺たちのカトラさんに……! あんま調子乗ってんじゃねえぞ!?』とテンプレみたいに。


 ブースの席につき、改めて依頼内容を確認する。


「孤児院の地下室。その清掃、ですか」


「ええ。長いこと物置だったらしいのだけど、前の豪雨で地下室と水路の間が崩壊したらしくて。一気に泥水が流れ込んできたそうなのよ」


「っ!? それは何と言うか……困りましたね。前回の依頼主さんも被害に遭っていましたが、その豪雨ってそんなに酷かったんですか?」


「それはもう酷いなんてものじゃなかったわ。街中水浸しで大変よ。お年寄り達は50年くらい前にも同じような雨があったって言ってたけど、私が生きている内はもう勘弁してほしいわね」


 そこまで厳しい雨だったのか……。


 災害級ってやつだな。


 僕が来てからフストは天気がいいイメージがあったから、なかなか想像できない。


「でトウヤ君。この依頼、受けてくれるかしら? 実はこの依頼ね、さっき話に出た前回の依頼主の方からの紹介なのよ」


「あのおばあさんのですか?」


「うん。あの方、孤児院でのボランティアに参加しているから。元々孤児院は自分たちで地下室を何とかするつもりだったらしいわ。でも、やっぱりかなり難しかったそうで。何しろボランティアもご高齢の方ばかりだから。そこで、君にお願いしたらどうかってご提案してくださったそうよ」


 なるほど。


 ようやく合点がいった。


 それで孤児院の地下室を清掃するという指名依頼が飛び込んできたのか。


「孤児院にお金の余裕はないから複数人が対象の依頼は出せない。その上、報酬は1人で全ての作業するにしては少ないわ。それでもトウヤ君のスキルがあれば悪くはないはずよ。もちろん少しは慈善活動としての要素も加味してだけど」


「そう……ですね。報酬はえっと、銀貨3枚ですか。最悪1日で終えられなくても単独だったら充分な収入にはなりますね」


 アイテムボックスを活用すれば作業ペースは格段に上がるだろう。


 3人の冒険者が3日かけてやるには銀貨3枚では足りない。


 けれど僕なら1人でできる。


 それも多分1~2日で。


「わかりました。この依頼、受けさせていただきます」


「そう! 良かったわ。じゃあ先方にその旨を伝えて、実際の依頼は明日からになると思うわ。午前中に1度ギルドに顔を出してから、孤児院に向かうのよ?」


「はい。了解です」


 指名依頼、頑張らないとな。


 しっかり達成すれば懐が温まる。


 ……と、その前に。


 今日は今日の分を稼がないといけない。


 せっかく短剣も買ったことだし、常設依頼の薬草採取をしてみよう。


 カトラさんに相談すると僕が1人で行っても安全な採取場所を教えてもらえたので、早速そこを目指すことにする。


 近くの停留所から乗り合いの馬車に乗り、フストの南門へ。


 門番の人にギルド証を見せると予想以上にすんなり外に出ることができた。


 大きな森が西の方に見える。


 あそこの奥に行けば、昨日ジャックさんたちが言ってた森オークがたくさんいるんだよな。


 しかし僕の今日の目的地は、その少し手前。


 森近辺の草原だ。


 幅の広い道をのんびりと歩き、目的地に到着するや否や鑑定を連発する。


 鑑定、鑑定、鑑定、鑑定、鑑定……。


「おっ」


 あったあった。


 ナツルメ草。


 見た目はヨモギみたいだな。


 腰から短剣を抜き、根元から丁寧に切り取る。


 これでまずは1つっと……。


 アイテムボックスに収納し、また鑑定。


 雑草が多いな。


 でも案外ナツルメ草もいっぱいある。


 時々森の方から、布で覆った巨大な何かを街に持って帰る冒険者の姿があるが、なるべく視界に入れないようにして採取を続ける。


 森オーク焼きを食べられなくならないようにするための対策だ。


 最終的にナツルメ草を30本摘み、僕はギルドに帰ることにした。


 他の薬草もあったけど、まあ今日はいいだろう。


 依頼関連の知識をもっと頭に入れてからにしよう。



 いやーにしてもアイテムボックスも凄いが、鑑定も鑑定で便利だな。


 おかげで採取が捗った。

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