第67話 祭りまで
カトラさんが言っていた通りだった。
あの日から宿は満室で、食堂もいつにもまして賑わっている。
グランさんとアーズは忙しそうだ。
祭りが近づくにつれて、夕食時に満席状態が続く時間も長くなっていっている。
グランさん1人では調理に精一杯で、提供に手が回らないらしい。
この期間だけはアーズも少し遅くまで残り、配膳を手伝っていた。
そんな中、僕の外套のために手を煩わせるわけにもいかず、グランさんに皮をなめしてもらえるか言い出しづらかったが……。
そこは娘のカトラさんがお願いしてくれた。
僕たちの出立を前に贈り物だとグランさんは快諾してくれ、皮なめしに時間を割いてくれている。
感謝しても仕切れない。
代わりと言ってはなんだが、僕もこの繁忙期に少しでも手伝いをと、アーズのサポートをすることにした。
グランさんは「お前さんも客なんだから」と言ってくれたが、常連として楽しくやっている。
アーズにはアンナさんに外套を作る協力をしてもらえないか確認してもらい、翌日、返ってきた答えはOKとのことだった。
あとはグランさんの作業がいつ終わるかだったが……思いのほか早く完成したようだ。
祭りの2日前、昼頃にカトラさんとの勉強を終えギルドから帰ると、食堂でグランさんに呼ばれた。
「頼まれてた物、出来たぞ」
「えっ……も、もうですか!?」
「ああ。この街に住む者として、森オークの皮の扱いは昔に近所の婆さんたちから教え込まれてな」
森オークの皮をなめすために、古くからフストで用いられている特別な薬品があるらしい。
それを使うことで、この短期間で完成したんだそうだ。
深みのある焦げ茶色の革を差し出される。
「まあ完成度はまずまずってとこだが、革細工でもないんだ。充分だろ?」
「もちろんです! 本当~に有り難うございますっ」
「おう、大事にしろよ。丁寧に扱えば長持ちするはずだ」
「はい!」
絶対に大切にしよう。
あとはアンナさんの日程さえ合えば、外套を作り始められる。
アーズから「ポンチョと同じ要領だから、比較的すぐに出来る」と言っていたと聞いたし。
受け取った革を眺めていると、グランさんが照れくさそうに言葉を続けた。
「あー後だな、このことはジャックから提案されたんだが……」
ジャックさんから?
最近会ってなかったけど、なんだろうか。
「祭りの初日に日が沈んでから年を越すまでの間、ここでお前さんのためにパーティーを開きたいんだとよ」
「パーティーを、ですか?」
「ああ。元々毎年、俺たち知り合い数人でやってるもんなんだが、今年はトウヤの旅立ちを祝いたいらしくてな」
恒例行事で、催しを開いてくれるそうだ。
嬉しいけど……。
「い、いいんですか? わざわざ僕のために」
「当たり前だ。その様子だと、話を進めていいんだな?」
「はい。皆さんとお食事するのが嫌だとか、そんなことないですよ」
料理はグランさんが作ってくれるのかな。
もしそうだったら、それだけで最高の集まりになるだろう。
「あ、どなたが参加される予定なんですか?」
「毎年参加してるのは俺とカトラ、ジャックんとことエヴァンスんとこの一家だな。エヴァンスっつーのは……」
「フィンダー商会の副会長さんですよね。1度だけですが、ちらっとお会いしたことがあります」
「そうか、だったら問題はないな。あとは……アーズを誘うのはどうだ? お前さんだけじゃなくて、カトラも出て行くって聞いたら寂しがってたぞ」
カトラさんがいなくなるの、アーズにも伝わっていたのか。
僕の前じゃ寂しがるような素振りは見せなかったけど……。
「わかりました。では、僕の方で誘っておいてみますね」
「おう、頼んだ」
お世話になった方といえばアンナさんもいるが、彼女は子供たちもいるし来られないだろう。
その分、外套を作るときにしっかりと感謝を伝えておかないとな。
アーズはリリーとも知り合いだから、双方に確認を取って一緒に祭りを回るのも良いかもしれない。
そうしたら、そのままの流れでパーティーに参加できる。
アーズに話をすると、ぜひパーティーに行きたいと言ってくれた。
さらにリリーが了承する前提になってしまうが、祭りの当日にアーズも集合場所に来てくれることになった。
また、外套作りは祭りの後になるようだ。
アンナさんのスケジュール的に、そこがベストらしい。
そんなこんなで、ついにアヴルの年越し祭がやってきた。
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