第47話 一般魔法

「じゃあ、この辺りでやりましょうか」


 カトラさんが足を止めたのは、僕がいつも薬草を採っている場所よりもさらに街から離れた草原の中だった。


 街道から外れ、近くには木が3本あるだけ。


 レイは目の届く範囲を走り回っている。


「トウヤ君はセンスがいいから、説明するよりもまずは見てもらおうと思うわ。いいわよね?」


「はい、よろしくお願いします」


 どんな魔法が見られるんだろう。


 生活魔法とは違い、全体的に規模が大きいとされている一般魔法。


 アトラクションに乗る前のように興奮が高まっていく。


「一般魔法を使うのは1年ぶりだから、なんだか私まで緊張するわ」


 カトラさんはどこか照れくさそうにそう言った。


 至って落ち着いているように見えるけど……。


 彼女は僕から離れて、目を閉じる。


 そしてすぐに瞼を上げた。


 集中している。


 鋭さを感じさせるほどの、凛とした立ち姿だ。


「行くわよ? ちゃんと見ておいてね」


 その瞬間、ドッと魔力が押し寄せてきた。


 驚きのあまり、僕は息を詰まらせてしまう。


 すっ、凄いな……。


 魔力の質の善し悪しはまだよく分からないけど、量が膨大であることはダイレクトに伝わってくる。


 これ、かなり多いんじゃ?


 今の僕の総量では出せない迫力のように思う。


 カトラさんはその魔力を無駄にすることなく、しっかりと管理し、操作している。


 滑らかな詠唱。


 一息つき、最後の言葉はハッキリと聞こえてきた。


「『ウィンド・エンチャント』」


 魔力が可視化しているのだろう。


 カトラさんの体の周りに緑がかった風のような物が現れた。


 それが全身をコーティングする。


 そして、彼女が体を前に倒し、駆け出そうとした。


 ビュンッ。


 速いっ!


 初速から、およそ人の出せるスピードではなかった。


 気を抜いていたら見逃してしまうくらいの速さだ。


 遅れて目で追うと、カトラさんはすでに遠くまで行っている。


 風による身体強化みたいな魔法かな?


 大きく草原を走り回り、カトラさんは旋回して戻ってくる。


 僕も全力で走れば同じくらいだと思うけど……スタートダッシュは完全に負けるだろうな。


 近くに帰ってきたカトラさんは、そのままの勢いでジャンプする。


 さっきの緑色の風が現れ、ビューンと高く飛んだ。


 この魔法があるってことは、僕の身体能力もこの世界の理を外れるレベルではないのかもしれないな。


 さて、次は……。


 僕は早くも次を期待したが、この魔法の効果はこれだけではなかったらしい。


「えっ」


 その光景を見て驚愕した。


 ちょうど目の前に差しかかったカトラさんが、空中でほんの少しだけ浮いたと思ったら、さらにもう1度ジャンプしたのだ。


 まさに2段ジャンプ。


 高く高く空へ飛んでいく。


 身体強化系も魔法としては魅力的だ。


 だけど、今の自分の肉体が可能にするレベルだった。


 だから驚きは少なかったが……。


 自分にできない上、非現実的な光景に目を奪われる。


 落下してきたカトラさんは地面の近くでふわりと速度を緩めると、ほとんど音を立てず着地した。


 それからも、いくつもの魔法を披露してくれる。


「『ウィンド・スラッシュ』」


「『ウィンド・ブレード』」


「『ウォーター・ボール』」


 風魔法を中心に、水魔法なども。


 攻撃魔法として特大規模とは言えないが、初めて見た僕にも目を見張るほどの練度だと分かるくらい、その全てが洗練されていた。


 ……。


 戻ってきたカトラさんが、服を払う。


「ふぅ、どうだったかしら?」


「凄かったです! 全部の魔法が綺麗で、わくわくしました」


「うふふ、ありがとう。そう言ってもらえると頑張った甲斐があるわ」


「あのっ、本当に僕にもできるんですか?」


「もちろんよ。トウヤ君にならできるわ。私の目に狂いはないってこと、しっかりと証明しなきゃね」


 自信ありげに胸を張るカトラさん。


 頼もしい。


 攻撃魔法は迫力にちょっとビビってしまったけど、身を守るためにも有効だからぜひ習得しておきたい。


 それに使えると魔法って感じがして、普通にカッコいいし。

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