第46話 神聖さ

 朝。


 食事を済ませて部屋に戻ると、レイは床に敷いた布の上でまだ丸くなって寝ていた。


 起こしてエサをあげる。


 グランさんの計らいで、格安で分けてもらった森オークのステーキだ。


 味付けはしてない。


 昨日、いくつかの食材を差し出して確かめたところ、レイは肉と爽やかな甘みが特徴の果物を好むようだった。


 森オークはフストだと安く手に入れられるから、懐へのダメージは小さくて済みそうだ。


 良かった。


 レイを抱えて外に出る。


 今日はカトラさんから魔法を教えてもらう初日。


 ついにこの日が来た!


 新たな魔法……。


 可能性が広がるな。


 自分でもわかるくらい上機嫌に、裏庭へ向かう。


 そわそわしながら待っていると、カトラさんはすぐにやって来た。


 今日は私服姿でも、長袖長ズボンの街の外へ行く冒険者風の軽装だ。


「ごめんね、待ったかしら?」


「いえ、僕も今来たところです」


 これで武器でも持っていたら熟練の冒険者に見えそうなくらい、しっくりと馴染んでる格好だなぁ。


 と思っていると、彼女の視線が下がり眉が跳ね上がる。


「あらっ、その子が昨日言ってた……たしかグレートグレー……」


「れ、レイです」


「ああ、そうそう。レイちゃんだったわね」


 家でグランさんから名付けの話を聞いたのだろう。


 想像以上にグレートグレーサンダーを気に入っていたのか、グランさんがなんて話したのか正直気になるところだが。


「ふふっ、かわいいわね。男の子? 女の子?」


「男の子みたいです」


 などと会話をしながら、僕たちは南門を通ってフストの外まで出る。


 道を進み、門から離れた辺りでレイの無力化を解くことにした。


 手をかざして短めの詠唱。


 そして最後に呟く。


「『無力化・解除』」


 凜とした姿に戻ったレイが伸びをしている。


 それを見て、カトラさんの空気が変わった。


「と、トウヤ君。グレーウルフではないって聞いてたけど……この魔力、何か神聖な魔物に違いないわよっ」


「神聖な……?」


 鑑定で僕と同等か、それ以上の存在と出たことに繋がる話だろうか。


 カトラさんは自身の腰にそっと手を寄せる。


 そして何かを掴もうとした。


 しかし、遅れてそこに何もないことに気づき、ハッとしている。


「え、ええ。個体数が限られた、強力な魔物は特有の神聖さを持ってると言われてるの。人前には滅多に姿を現さないけれど、古くから世界中の伝承に登場するそうよ」


「レイが、そのうちの1体だと?」


「お、おそらくね。私も実物を見たことがあるわけじゃないから、確信は持てないわ。でも明らかに異常よ……この魔力は」


 普通の魔物とは魔力が違うそうだ。


 一応、感じ取ろうと頑張ってみる。


 うーん。


 僕にはこれがどう異常なのかよく分からないな。


 カトラさんに警戒されていても、当のレイもどこ吹く風で大人しく待機しているし。


「従魔化できるなら早めにしておいた方が安心かもしれないわね。去年、同じ神聖な魔力を持つエンシェントドラゴン1体が西方の国を滅ぼしたって聞くから」


「くっ、国を!? 1体で……」


 恐ろしすぎる。


 そんな魔物もいるのか。


 たしかにカトラさんが言っていることが正しいのだったら、安全のためにも従魔化はいち早く検討した方がいいかもなぁ。


 まあ、レイが危険には思えないけど。


 今も眠そうに欠伸してるくらいだし。


「わかりました。とりあえず……行きましょうか。今は暴れ出しそうな雰囲気もないので」


「そ、そうね」


 カトラさんもレイの姿を見て、少しは安堵してくれたらしい。


 後ろをついてくるレイを時々窺っているが、次第に警戒も解けていく。


 しかし、そんなに強い魔物なのだったら、なんで出会ったとき怪我をしていたんだろう?


 それにたとえレイがドラゴンと張り合うような存在だったとして、にしては体が小さいように思う。


 もしかして、まだ子供なのかな?


 気になることは山ほどあった。


 だけど今は魔法へのワクワクが抑えきれない。


 僕はすぐに頭を切り替えて、魔法の練習に集中することにした。

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