第63話 旅程

 夜。


 食後にアンナさんから貰ったクッキーを食べてみた。


 おぉ。


 素朴な味で美味しい。


 今度、お礼を言いに行こう。


 教会でのことを口外しないでいてくれてるみたいだし、その感謝も込めて。


 レイがホーンラビットを持ってきてくれるお陰で、最近は少しだけお金に余裕ができてきた。


 子供たちが喜びそうな物でも買っていこうかな。


 ……。


 あ、そうだそうだ。


 忘れないうちに貢物を……っと。


 アイテムボックスから屋台で買ったお菓子を取り出し、レンティア様に送る。


 忙しいのかな?


 反応はなかったけど、まあ時間があるときに食べてくれることだろう。



 次の日。


 午前中にお爺さんが住む家の庭にある木を伐る依頼をこなしてきた。


 今は予定通り、カトラさんと資料室にいる。


「ここがフストで、この辺りまでがドルーム伯爵領。グラゼン王国の領土はこんな感じね」


「な、なるほど……」


 机に広げた地図の上を、カトラさんが指でなぞり教えてくれる。


 そうだった。


 1度耳にしたけど完全に忘れてた国名。


 僕が今いるフストは、グラゼンという王国の東にあるドルーム伯爵領内に位置するみたいだ。


 えーっと。


 王国の領土は僕が来た神域の南西に接し、西へ山脈を越え広大な平野、そして巨大な湖まで伸びている。


 地球とは違う世界。


 大雑把な地図らしいけど、わくわくするなぁ。


 ちなみに今見ている地図も充分に大きいが、周辺国が6つ程度しか載っていない。


 それも、領土の一部だけで見切れている国もいくつかあるくらいだ。


 世界地図となると、カトラさんも見たことがないらしい。


「トウヤ君は、どこか次に行きたい場所とかあるかしら?」


「うーん、そうですね……。せっかくですしグラゼン王国の王都も見てみたいですけど、距離的にも……ここ、とかですかね?」


「ネメシリアね」


 フストから南下した場所ある都市を指すと、カトラさんが地図上の文字を口にしてくれた。


 国境を越えるようだが、王都よりは近い。


 それにフストとの間に険しい山もなく、大河が1つ流れているくらいだ。


「こっちも湖ですか?」


 僕が選んだ都市のすぐ側には湖か何かがある。


 地図では途中で途切れてしまっているので訊くと、カトラさんは「いや」と首を振った。


「これは湾ね。ネメシリアは公国でも有数の港町だから」


「港町……っ。いいですね!」


「道中も比較的安全だと思うし、悪くない選択だと思うわ。その後は東に足を伸ばせば迷宮都市、さらに東に流れて神王国方面に入ることもできるしね」


「あ、神王国って神都がある場所ですよね?」


「そうそう。主三神教の聖地ね」


 教会で聞いた場所だ。


 迷宮都市ってワードにも興味を引かれるな。


「では、その辺りを巡ってあまり東に行きすぎずに戻ってくるルートがベストかも知れないですね。1度、フストに寄ることもできるかもしれませんし」


 たまたま最初の街だっただけだ。


 でも、最初の街だったからこそ、僕もここをホームタウンのように感じている部分がある。


 だから初めのルートとしてはこれがいいかもしれない。


「そうね。通過地点として戻ってこれると、王国内を回るにも北の他の国へ行くにも良いわね。それじゃあ……」


 カトラさんも賛同してくれてるみたいだ。


 話に出てきた辺り一帯をぐるりと囲む。


「旅だから途中でどんな変更が起きるかは分からないけれど、とりあえずここらを回ってみましょうか。まずはネメシリアを目指して出発ね」


「はい!」


 ひとまず目指す場所が決まった。


 ようやく旅が始まると思うと変な感じだな。 


 もともと前世で死んだ僕が、この世界で使徒として生きる上で唯一与えられた使命なのに。


 そういえば……。


 カトラさんは今日、ギルド長に退職を申し出たそうだ。


 悲しまれたが冒険者に戻ると伝えると応援されたとか。


 アヴルの年越し祭が終わり、しばらくしたらギルドを退職するらしい。


 出発は予定通りできると思う。

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