第34話 学び
「そうよ。聞いてた量と全然違うじゃない。300匹とか、もしかして1000匹近くいたんじゃないわよね!? そこまでだったら街規模で対処するくらい危険なのに、私ったら君をそんなとこへ……」
あれ、なんか勘違いされてる?
カトラさんは血の気の引いた顔をしている。
そんな彼女の話を聞いて、今度はルーダンさんがカウンターから身を乗り出してきた。
「おいおいっ。まさかこれ、1回での成果なんて言わねえよな!?」
「そのまさかなのよっ。とにかくトウヤ君、君が無事に帰ってきてくれて良かったわ。本当に、ごめんなさい。私がもっと詳しく話を聞いて、正しい情報を伝えていればこんなことにはならなかったのに」
膝をついたカトラさんにぎゅっと抱きしめられる。
くっ、苦しいです。
でも、なんでスライムが1000匹もいたかもって思われてるんだろう。
うーん。
原因を考えられるとすれば、生活魔法を使って倒したから100%魔石をゲットできたことくらいかな?
さすがに曖昧にしておくのも気持ちが悪い。
心底驚かれ、謝罪された後だから言い出しにくいけど、ここは素直に話して何故そう思ったのか教えてもらおう。
「あの、カトラさん。3匹は魔石を割ってしまいましたが、それからはミスがなかったので……その、ぜ、全部で76匹でしたよ?」
「…………え?」
耳元で固い声がした。
しばらく無音が続き、ゆっくりと体を離される。
ポカンとした顔をしてるけど……。
ど、どうしたらいいんだろ?
答えを求めルーダンさんを見ると、こっちはこっちで愉快そうに笑っていた。
「トウヤ君。今、『ミスがなかった』って言った?」
お、カトラさんが再起動したみたいだ。
ぽつりぽつりと尋ねられる。
「い、言いましたけど……」
「そう……。じゃあ、一応訊いておくわね。どんな方法を使ったのかしら?」
やっぱり話はそこに繋がるよな。
アイテムボックスについては悪い輩に目を付けられないために、自分が使徒であることはいらぬ面倒を引き寄せないために黙っている。
だけど生活魔法のことを隠す理由は別にない。
大体、魔法が少し使えることはギルドに登録する時にすでに申請してるし。
まあ僕が使ってる生活魔法は、他の人のものよりはいくらか効果がスゴいようだけど。
「氷の生活魔法でスライムを完全に凍らして、倒してから炎の生活魔法で溶かすとミスなくできました」
だから素直にそう伝えると、カトラさんは額を押さえながら立ち上がった。
「……うん、そうね……わかったわ」
あれっ。
思ったよりもリアクションが薄い。
「ルーダンさん、とりあえず買取を進めてくれるかしら」
「お、おうっ。んじゃあトウヤ、スライムの魔石が73個で大銅貨7枚と銅貨3枚だ」
「あ、ありがとうございます」
買取価格は1つあたり銅貨1枚か。
回収しにくいとはいえ、大きさが大きさだから決して高くはないんだな。
と言っても、嬉しい収入には変わりないが。
受け取った硬貨を握ってアイテムボックスに収納していると、ルーダンさんが小声で話しかけてきた。
「大人しく世話になっとけよ? ……な?」
「え?」
僕の後ろにいるカトラさんの方を見てるようだけど……世話に?
何のことを言ってるんだろう。
「トウヤ君、受け取ったら行くわよ」
「えぇっ?」
気がつくと、カトラさんが背中を向けてギルドへ戻っていっている。
スライムの倒し方を聞くだけ聞いて、僕には説明なしなのか?
戸惑う。
「ほら、行け行け」
「あっ。は、はい!」
ルーダンさんに促され、とにかくカトラさんの後を追うことにする。
ギルドの中に戻ってきたが、受付には戻らないようだ。
僕がカトラさんに連れられたのは、ギルドの2階。
『資料室』と書かれた部屋だった。
棚には革張りの本や巻かれた紙が置かれている。
ここは昼頃の1階よりもさらに静かだな。
他に人の気配がしない。
カトラさんは手に取った本を窓際の机に置き、椅子に腰を下ろした。
「ここに座って」
声をかけられ僕も隣の席に座る。
一体、何の本なんだろう?
覗こうとするが、その前にカトラさんが本を開きながら言った。
「あのね、トウヤ君。君が魔法を少し使えるとは聞いてたけど、本来は生活魔法でスライムを凍らせることなんてできないのよ? 魔力的にも、技術的にも。……身体能力だけじゃなくて魔法もここまでだったなんて。それじゃあ今から一度『常識』ってものを教えるから、よーく聞いてちょうだい」
「じょ、常識ですか……」
どうやら、僕には学びが足りなかったらしい。
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