第49話 処理と現実

 レイは僕の前まで来ると、魔物を置いた。


 そしてジッと見てくる。


「えっと……これ、僕に?」


 尋ねるとワンッと返事があった。


「あ、ありがとう……」


 くれるのは嬉しいけど、いきなりD級の魔物を渡されてもなぁ。


 どっ、どうしたらいいんだろう。


 僕が悩んでいると、カトラさんが屈んでホーンラビットとやらに触れた。


「傷も少なくて、綺麗な倒し方をしてるわね。こんな状態の物を持ってきてくれるだなんて、レイちゃんはよほどトウヤ君のことを気に入ってるのね」


「どう、なんでしょう。単にエサをくれたお礼じゃないですか?」


「まだ従魔じゃないんだから、いくらお礼だと言っても普通はここまでしないわよ」


「そうですか……」


 じゃあ、やっぱり僕のことを気に入ってくれてるのかな?


「ありがとう、レイ」


 ガシガシと大きな体を撫でる。


 レイは気持ちよさそうに目を細めた。


 手を離すと、満足したのか草原に寝転がっている。


 よし、そしたらこの魔物は……。


 僕がアイテムボックスに収納しようとホーンラビットに手をかざしていると、カトラさんがパチンっと手を合わせた。


「そうだわ。ここで魔石回収と血抜きくらいはして帰りましょう。その方が、ギルドで高く買い取ってもらえるのよ?」


「ち、血抜き……」


「今後も食べられたりする魔物を倒したら必要になるんだから。ここは勉強よ、トウヤ君。私も手伝ってあげるから。ほらっ、嫌がってないで頑張りましょう」


 ……そっか。


 前回はスライムだったから話が違ったけど、肉も商品になる魔物を倒したらこういうこともあるんだなぁ。


 捌いたことのある動物なんて魚くらい。


 正直やりたくはない。


 けど、冒険者としてやっていくなら、きっといつかは慣れるはずだと信じて気乗りしない作業も今のうちからやっておかないと。


 それにさらに高く買い取ってもらえたら、かなり懐が潤うかもしれない。


 何しろD級の魔物だ。


 銀貨1枚くらいにはなるかな?


「……が、頑張ってみます」


 なので僕は短剣を使って、ホーンラビットの処理に挑戦してみることにした。


 うっぷ。


 さ、早速吐き気が……。


 ダメだ、集中集中。


 カトラさんにやり方を教えてもらいながら、なんとか処理を進める。


 僕の場合は生活魔法を使って楽をすることができた。


 少しして、無事完了。


 短剣の入れ方が荒く、決して上出来とは言えないホーンラビット(処理後)をアイテムボックスに収納して……深呼吸。


 ふぅ。


 危なかった。


 何度か、あやうくリバースするところだったな。


 最後に体内から取り出した魔石も収納する。


 スライムの時とは違い、脆く割れやすいなどということはなかった。


 大きさも3cmくらいある。


 これはいい予感がするな。


 よく頑張ったとカトラさんに褒められながら、僕たちはフストに入り、高空亭へ帰る前にギルドへ向かう。


 ちなみに無力化したレイはカトラさんに抱っこされている。


 カトラさんも、今朝の警戒心は完全になくなったらしい。


 ギルドは人の出入りが激しくなる時間に入ろうとしていた。


 多くの冒険者がカトラさんを見て、それから僕、そしてまたカトラさんと順に不思議そうな顔をして見ている。


 いっ、居心地の悪い。


 なるべく視線を合わせないようにして、素材買取所へ。


 列に並んで待っていると、順番が回ってきた。


 僕たちを見てルーダンさんが「おうっ」と手を挙げてくる。


「トウヤとカトラじゃねえか。今日はなんだ」


「魔物の買取をお願いします」


「魔石だけじゃねんだな……んじゃ、付いてきてくれ」


 壁で先が見えなかったカウンターの先へと案内される。


 そこはだだっ広い倉庫のような場所だった。


 エリアが分けられていてよく見えないが、奥では巨大な魔物を解体しているようだ。


 カトラさんが今日1日の流れを軽く触り、ルーダンさんにホーンラビットを手に入れた経緯を話している間、僕はこれまたガタイの良い他の男性従業員に肉と魔石を渡した。


 そして3人でカウンターの方へ戻る。


 ……。


 しばらく待ち、呼び出され渡されたのは大銅貨5枚だった。


 え?


 だ、大銅貨、5枚……。


 肉が4枚、魔石が1枚になったらしい。


 全部で予想していた銀貨1枚の半分だ。


 魔石だけで言うとスライム10匹分と同じ。


 D級でも、こんなものなのかぁ……。


 現実は甘くないな。


 世知辛さを改めて実感した気がする。

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