第55話 雨宿り
ギルドで諸々を売ってきた。
ちょうど今、カトラさん以外の受付嬢の方々がいないらしく、勉強はなしとなった。
カウンターに座るカトラさんと一言二言話したが……。
なんだか元気がないような気がした。
ここ最近、よく溜息を吐いてるし心配だ。
資料室でギルド長に呼び出されていた後に聞いたように、いろいろと悩んでいるのだろうか。
これだけお世話になっているんだし、僕にも何かできないかな?
今度魔法を見てもらう時に、もし良ければ話相手にくらいはなれるかもしれない。
外に出ると雨は弱まらず、変わらずザアザアと降っていた。
でも静かだ。
立ち話をしている人もおらず、耳に入るのは雨音だけ。
音は大きいけど、他に物音はしない。
レイを抱いて、このまま宿まで走ろうか?
ギルドの軒先で考える。
うーん……そうだな。
もう少しだけ待つとしよう。
今は雨が強すぎる。
重い雲だからすぐには止まないだろうけど、ちょっとくらい弱まるタイミングがあるはず。
そこを狙って帰ろう。
高空亭までの距離を考えれば、そうすればびしょ濡れにはならずに済む。
この天気だと短剣の素振りもできないと思うしなぁ。
急ぐ必要はない。
ぼうっと雨が降るフストの街を見る。
レイは腕の中で大人しくしていた。
地下水路があるくらいだし水はけのことは考えられているみたいだけど、早速大きめの水溜まりができてきている。
時々そこを突っ切るように、雨に濡れながら強行突破で移動している人の姿もあった。
また1人、そんな人物が視界に現れた。
と思ったら、その人は僕と同じようにギルドの軒下に入った。
2、3m離れているが、この人もここで雨宿りをするようだ。
ちらっと見ると女性だった。
持っていた布をかぶせた大きな木箱を下に置いて、あわあわとしている。
うわ、大変だな……。
水がポタポタと滴るくらい、髪も服もびちょびちょだ。
服に至っては体にピタッと張り付いてる。
「うぅ……ど、どうしましょう……っ」
そう言って自身の体を抱いて、すごく寒そうに震えている。
詠唱を聞こえないようにして、一般魔法と言って風の生活魔法で乾かしてあげよう――ってあれ?
今の、聞いたことがある声だったような……。
あまり見ないようにしていたが、思い切ってパッと顔を見る。
すると体のラインが分かるくらい張り付いた服は修道女っぽく、髪色は金だった。
「あ、アンナさん?」
「……? あれっ、トウヤさん!? え? ……ああ! そういえばここ、冒険者ギルドでしたねっ」
顔に引っ付いた髪を払いながら、アンナさんはギルドを見上げて納得したように手を合わせた。
レイを見て、パァっと顔が明るくなる。
「わぁ! 可愛いワンちゃんですね。この子がアーズが言っていたトウヤさんのペット……じゃなくて従魔ですか?」
「はい、まあそんなところです。それよりも……」
「……はい?」
「あの、寒そうですけど大丈夫ですか?」
「あっ。そ、そうでしたっ!」
おっと。
あまり慌てふためかれると正直目のやりどころに困る。
濡れたままだと心配だし、元からやるつもりだったけど……。
このまま会話を続ける上で、びしょ濡れ姿を目に入れるのは失礼に当たってしまう気がする。
まあ、本人は僕のことなんか気にした様子はないが。
「よろしければ魔法で乾かしましょうか?」
「え! そんなことが出来るんですか?」
「はい。簡単にできるので、お気になさらず。風邪を引くと良くないですし」
「で、では……お願いします」
アンナさんはコクリと頷いた。
というわけで少し離れて詠唱しているように見せ、風の生活魔法を発動する。
髪も服も綺麗に乾かし切ると、彼女は全身をくまなく触りながら目を輝かせた。
「トウヤさん、スゴいですね! さすが冒険者さんですっ」
「あはは、ありがとうございます」
本当に純真な人だな。
張り付いた服に、目のやりどころに困ったりしていた自分が恥ずかしいくらいだ。
それから話を聞き、どうして雨の中をここまで来たのか尋ねると、アンナさんは持っていた木箱の中を見せてくれた。
入っていたのは、あの赤いポンチョだった。
孤児院を出て、教会に向かう途中で雨が降ってきたんだそうだ。
「かなり距離があるのに、ここまで歩きで来たんですか?」
「はい……。お恥ずかしい話ですが、馬車の代金を節約しようと思いまして」
「な、なるほど」
「ずっと木箱を守りながら歩いていたんです。でも、雨が強まってきて『もうダメだ』と雨宿りできる場所を探していて。ちょうどここが目に入ったんです」
アンナさんが目指す教会はあと10分くらいの場所にあるらしい。
約束の時間に間に合うように、雨が弱まったら出発するんだとか。
アンナさんが心配なので、僕もついていってみることにした。
それに、アーズやリリーたちが作ったポンチョの行く末も気になる。
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