第2章 らしくない逆襲
第24歩 『対面』
「私とした事が、まんまと騙されたわ」
先に椅子に座っていた
「
「ああ」
紗代の言う通り、今日このファミレスに紗代を呼び出したのは俺では無く
「それで、話があるのは紅貴くんって事で良いの?」
「そういう事だ。美喜多さんはここには来ない」
俺は紗代に断りを入れ、飲み物を頼んで、それが届いてから話を始めると伝えた。
紗代もそれで良いと言い、届くまでの時間を自分の気持ちを落ち着ける時間に充てる。
もう、こうして紗代と2人で向かい合って話す事は無いと思っていた。
だから、今日を失敗すればもう、同じ手は使えないだろう。
失敗は、出来ない。
飲み物が届き、俺は話を始めた。
「さっきも言ったけど美喜多さんから話を聞いた。それで、どうして木下先輩の事、話してくれなかったんだ?」
「そんな事を本気で言ってるなら、紅貴くん、自分の事全く理解出来ていないのね」
「確かに俺には力は無いさ、でも考える事は出来る。雪だって、美喜多さんだって、冴島だって、吉田さんだって、きっとみんなが協力した」
「それで解決出来ると?」
「相手は確かに優秀かもな。でも、ただの学生だ。美喜多さんもそうだったけど、一体何をそんなに怯えてるんだ?」
見えない恐怖、吉田さんはそう表現したそれは、紗代にも根付いているようで、木下陣から救われるには相当な力が居ると思い込んでいる。
考えられるとすれば木下陣の両親が政治家だったり、会社の社長だったりだが、美野里さんがその可能性を否定した。
紗代がふっと笑った。
「冗談よ、冗談。そう、紅貴くんの妹さんはちゃんと秘密にしていてくれたのね。それとも、紅貴くんの性格を考えてのことかしら」
「なんの話だ?」
「こっちの話だから気にしないで。でもそうね、もう隠しても仕方が無いだろうし、紅貴くんには謝罪と、感謝をするのが筋でしょうね」
そう言うと紗代は、俺と付き合った理由が姉の復讐計画の一環である事と、その復讐の為に木下陣と付き合っている事を暴露した。
「その話、知ってるのは雪だけか?」
「ええ。偶然、告白現場を見られてね。あなたへの告白の時と同じね」
「美喜多さんに脅されてるって嘘吐いたのは?」
「千沙に話すと、陣にバレる可能性があると思ったから。それと、わざわざあんな事を千沙に話たのはあなたの為でもあるんだからね」
「俺の?」
「相手が陣なら、あなたが変な行動を起こそうとしても、千沙が大袈裟にあなたの事を止めるでしょ。私の事を諦められる良い材料になるしね」
なるほど、実際に美喜多さんは俺の事を止めたし、木下先輩とならお似合いだなんて俺が考える事を予想していた訳だ。
俺に未練を残さないように、か。
「じゃあ、俺の事をストーカーだと言い降らしたのも俺の為か?」
「そうね。私の事を嫌ってもらった方が、後々楽だしね」
「俺を危険に晒しても自分の計画を優先したって事か」
「それは心外ね。仮にも元カレ、しかも私の計画に協力してもらったんだから、そんなあなたの為に私は嫌われるよう努力したんだから。勘違いしないで欲しいわ」
「だけど、ストーカー呼ばわりされたら、それじゃあ────」
「結果的に無くなったでしょ、その話」
確かに、紗代の言う通りだ。
最初の日以降、俺に向けられる視線はいつも通りになり、誰からも冷たい目を向けられる事は無くなっていた。
「冴島くんと
吉田さんが動いてくれていたのは知っていた、ビデオ会議をした日にそう言ってくれていたから。
でも、冴島まで動いてくれていたとは……。
今回の件、本当に周りに助けられてばかりだ。
「だけどそれだと、紗代が悪って認知は避けられないだろ」
「私の目的は復讐───だから、他人にどう思われようが計画に支障が出なければ問題ないの。それに、元から女子には嫌われてたし、男子の下心丸見えな態度もうんざりしてたから丁度良かったのよ」
紗代は本気で復讐をやり遂げる、そのための犠牲を厭わない───彼女の覚悟が伝わってきた。
いや、もしかしたら犠牲という言葉は正しく無いのかもしれない。
「もしかして、男子から好かれていたのも紗代の計画通りか」
「まぁ、そうね。そうすればあいつから喰いついてくると思ったのだけれど......千沙の方に行ってしまったみたい。考えてみれば、そうよね......周りからちやほやされている私を玩具にしたら、自分の今までの悪行がバラされる覚悟がいるもの。それなら千沙のように地味だけど可愛い女の子に手を伸ばした方が賢明よ」
確かに、現に美喜多さんと木下先輩の関係を知ってるのは片手で足りるほどしかいない。
美喜多さんの友達が少ないのを利用したということか。
「だから、紅貴くんと付き合っているというブランドが欲しかったの」
「なんで、俺なんだ?」
「まぁ、あなたなら利用しやすそうだったから。それに、あなたが一番まともだったから」
冴島から聞いた話を思い出す。
紗代は自分に好意を抱かない相手にちょっかいを出して、相手が告白してきたら振る、という趣味の悪い遊びをしていた。
そして、俺もその対象になったのだが、例外的に俺は紗代に告白することはなかった。
いつしか紗代は俺に構わなくなったことから、紗代が諦めたのだろうと冴島は判断したらしい。
「私に好意を寄せすぎている相手を振るのは流石に罪悪感も湧くし、トラブルになりかねない。だから、紅貴くんを選んだの」
「まるで俺になら罪悪感湧かないし、俺が傷つかないみたいな言い方だな。こちとら、がん泣きしたぞ」
「あら、そうなの?あんなに綺麗に別れを告げてあげたのに?確かに多少傷つくかもしれないけど、完全に私に落ち度がある感じにしたし、がん泣きするレベルだったかしら?」
「あのな、俺みたいなボッチには短くも付き合っている彼女は特別なんだぞ。急に別れを告げられたら凹むし、あんなもん見せられたら余計に傷つく」
「あんなもの?」
紗代は小首を傾げる......可愛いなちくしょう......じゃなくて!知らないのか?あの日俺が紗代と木下先輩がラブホテルから出てくるのを見たことを。
てっきり、美喜多さんから聞いていると思っていたが......案外、彼女も紗代のことを信頼しきってなかったのかもな。
「ねぇ、あんなものってなに?」
「.....これだよ」
そう言って、紗代に例の動画を見せてやる。
「これって.....」
「随分楽しそうにとんでもないところから出てきてるな。知ってるか、高校生は高校生は入っちゃダメなんだぜ」
「なんでこんなもの」
「偶然な。図書委員の仕事終わって、本屋寄って、帰ろうとしたら見かけたんだよ」
「なるほどね。それは想定外にあなたを傷つけてしまったわね、ごめんなさい」
「そんなんで許されると思うなよ」
「え?」
「お前は気付いて無いかもしれないけど────いや、気付いていないふりをしているだけかもしれないけど、木下陣と同じことを、俺にしてるんだぞ」
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