第23歩 『妹の悩み』

○雪 視点


 お兄ちゃんのことは、大好き。嘘じゃない、本心でそう言える。

 でも、だからって、お兄ちゃんの全てが好き、というわけではない。他人に対して優しすぎるし、優柔不断だし、一人で抱え込むし、嫌なことからは逃げるし……嫌いな面もあるけれど、でも───それでも、お兄ちゃんのことが大好きなんだ。

 だから、小さい頃から、私はお兄ちゃんのことを守り続けてきた。

 小学生の頃、いつも通り公園でいじめられていたお兄ちゃんは、抵抗するでも助けを呼ぶでもなく、ただ泣いていた。

 

「はははっ!また泣いたよコイツ!」

「悔しかったらやり返してみーろ!!」

「「はははははっ!」」


 すぐにお兄ちゃんに駆け寄り、いじめている男子に向けて、防犯ブザーを見せつける。


「お兄ちゃんをいじめないで!はやくどっかに行って!じゃないと、これ鳴らすから!」


 彼らはめんどくさそうな顔で私のことを見た後に、「妹に守られるとか、マジでだせえ」と捨て台詞を残して、去って行った。


「お兄ちゃん大丈夫?ね、私も一緒に話すからさ、お母さんに相談しようよ」


 お兄ちゃんが首を横に振って、言った。


「いい。そんなことしても、意味がないから」


 お兄ちゃんは立ち上がって、「ありがと」と私に言うと、そのまま一人で歩いて行ってしまったので、私もその後を追った。 

 そしてその日の夜に、お兄ちゃんには内緒で、お母さんに今日の出来事を伝えた。お母さんは驚いていて、次の日に、学校に連絡をすると、いじめていた男子生徒は注意されたらしい。どうも、担任の先生が熱心に、お兄ちゃんと話をした結果、いじめていた男子生徒を話したらしく、そういう結果を導くことが出来たらしい。

……だけどそれは、良い結果、ではなかった。寧ろ、先生にバラしたこと、注意されたことに腹を立てた彼らからのいじめは、より陰湿に、そして内容もエスカレートしてしまった。そのことを、お兄ちゃんがお風呂に入っている時に驚かせるために突撃して、身体にある痣を見て、知った。

 その時、初めてお兄ちゃんの言った『意味がない』という言葉の意味が分かったのだ。

 いじめていた男子生徒は、先生に注意をされただけで、警察に掴まったり、転校をさせられるわけじゃない。だから、ずっと、お兄ちゃんの近くにいるのだ。

 私の勝手な行動の所為で、より、お兄ちゃんのことを傷つけることになってしまった。他にも、方法はあったかもしれないのに……それこそ、私がもっと強ければ。賢ければ────私がもっと、ちゃんと、お兄ちゃんを守れるようにならないと。そう思って今まで頑張ってきたけど、でもそれは、私の思い違いだった。



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