第22歩 『助かりたいの?』

「雪ちゃんのことを止めなかったのは...あの人を止めるなんて無理だと思ったから」

「出来るよ。美野里ちゃんは知らないかもしれないけど、こっちには有名な吉田先輩が味方にいてくれている」

「吉田先輩.....ってあの?!」

「そう、あの人にお願いして木下先輩の被害者を集めたら、それでどうとでもなる」


 確かに、その考えはなかった。

 吉田さんの人望なら被害者の女子生徒を集めることは容易いだろう。

 美野里さんの表情が少し曇った。


「でも、そうしないのはあなたがいるから。だから、最後の確認。あなたが助かりたいのであれば私たちは木下先輩を懲らしめるために動く。そうでないのなら、私たちは紗代さんにだけ復讐をする。どうする?」


 雪の出したその選択肢は美野里さんにとってはとても辛い選択肢なのだろう、美野里さんは静かに俯いてしまった。

 そして、


「助けてください、お願いします」


震えながら、そう口にした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

〜美野里 視点〜

 

 雪ちゃんの話は理解できた。

 そして、彼女が本当にお兄さんのことを好きなんだということも分かった。

 

 ....でも、私は違う。

 私は兄のことを好きだと思ったのは、小学生が最後だった。

 私が中学に上がる頃から兄は私に冷たくなった。

 だから、どこか距離を置き始めた。

 そして、兄との出来の良さがで始めたのもその頃で、家族の私と接する態度が明らかに兄のそれとは違っていた。


「お兄ちゃんに比べてあなたは中途半端」


 そんなことを言われ続けた。

 

 なんで、私はそんな家族を守るために必死に耐え続けていたんだろう。

 

 もう、いいか。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「うん、助ける」

「あ、ありがとう」


 美野里さんが思わず雪に抱きついていた。


 その微笑ましい2人の姿を見ながら俺は考えていた。


 今回の件...もし、雪が見せてきた映像を全て信じるなら、俺は紗代に振り回されている感じが否めない。

 それに、美喜多さんも紗代に利用されていたんだ。

 俺を助けるために自分が犠牲になっていた、そんなことを言った理由は何だろうか。

 考えられるとしたら、俺が木下先輩の弱みを握るなり他の人と協力するなりで彼を追い詰めたとした場合、自分はただの被害者で済むと思っていたのだろう。

 でも、その場合木下先輩にそのことを問えば正直に答えるだろう。

 木下先輩を懲らしめる手段がない俺を嘲笑いたかったんだろうか?

 なんで、そんな嘘をついたんだろうな。


 でも...もう、そんなこと関係ないか。

 難しいことを考えず、現状分かったことを端的にまとめる...つまり、俺は紗代に浮気されていた。

 あの日、2人がラブホテルから出てきたのを目撃した時のことを思い出す。

 俺は悲しくて寂しくて、むかついて泣いてしまった。

 みんなと話すうちに、そして色々な情報に惑わされているうちにその気持ちがどこかへ消えてしまっていた。

 だけど、紗代が自分勝手な想いで浮気をしていた事実に消えていたはずの感情が少しだが甦ってきた。

 

 別に泣かしたい訳じゃない、傷つけたい訳じゃない。

 ただ、ちゃんと話して、そして、きちんと別れたい。

 それだけのことを俺は今まで避けていた。

 彼女との繋がりをどこかで切りたくないと思っていたのだろう。

 だから、未だに紗代のメッセージに返信出来ないでいる。

 逃げていた『別れる』という事実に向き合うことをしなければいけない。

 それで、全部終わりだ.....紗代の方は。


「なぁ、雪」

「なに?」

「学生にとって月曜日は不快な日だが.....俺や美野里さんにとっては清々しい始まりの日になるかな?」

「......うん。なるよ、きっと。いいや、してみせよう、必ず」

 

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