第30歩 『再び空き教室にて』
「ごめん、待たせた」
「謝らなくていいわよ。同じクラスなんだし、昼休みの件で私は目立ってるから────時間が前後するのは仕方が無い事よ」
放課後、
「それで、私を呼び出してまでしたかった話はなに?」
俺は嫌がられる覚悟で椅子を動かし、紗代の対面に座る。
ファミレスの時とは違い、机が狭い為、その分紗代との距離が近い。
「───俺、さ……紗代の事、ずっと信じてたんだと思う。いや、信じてた」
「なに、急に」
「あの人と歩いてるの見てめちゃくちゃ落ち込んだし、紗代の事を恨んだ。でも、恨みは長く続かなくてさ、気が付いたら、紗代が浮気するなんて絶対に理由があるはずだ────そう思うようになったんだ」
紗代は邪魔をせず、静かに話を聞いてくれている。
「だから、美喜多さんから話を聞いて、安心したんだ────紗代が俺の事を好きな事、俺の事を守ろうとしてくれている事を」
「バカね」
「ああ、バカだよ。バカだから簡単に信じて、喜んで、助けたいって思って……。それくらい、ずっと不安だったんだよ、紗代からちゃんと好かれているかどうかが」
俺の話を聞いて罪悪感を感じたんだろうか、俺に向けていた視線を逸らした。
「雪から話を聞いた時もさ、お姉さんを助ける為に俺を利用したって聞いてもさ、それでも、紗代の為になるならって、憎めなかった」
「……お人好しね」
「そんなんじゃないさ────ただ、俺の心がまだ未熟なだけなんだよ。一度好きになった人の事を、簡単に嫌いになれない、割り切れないだけだ」
「なら、早く成長しないと痛い目みるわよ。私にあなたの気持ちに答える気がまったくないから」
「分かってるさ。……なあ、聞いて良いか?」
「なによ」
「これで紗代の計画は終わりか?」
少しだけ声を低くし聞くと、明らかに紗代の表情が変わり、ばつが悪そうな顔になる。
「結局、真実は冴島に話してた事だったんだよな。じゃなきゃ、姉の復讐と言うなら、そういう名目が有るなら、俺に相談すればこうして詰め寄られる事も無かったはずだ」
「……そうね」
「紗代に興味を抱いていない俺が許せなくて、自分に意識を向けさせて、告白を待ったけどしてこなくて、しびれを切らして自分から告白して────……仕返し目的であいつとも付き合った」
「たとえ見つかっても、紅貴くんが復讐なんて考えるような性格じゃ無い事は分かってたからね。別れ話を切り出す手間も省けたし」
「あいつも、お前に興味を抱いて無かった1人なんだよな?」
「ええ、そうよ。だから標的にしたの」
「あいつと別れる時にはどうするつもりだったんだよ」
「女遊びが酷い事は把握してたから、結局は今日と同じ────被害者として、訴えてたでしょうね」
「美喜多さんの件、あいつから聞いたんじゃ無かったんだな」
「ええ。私は下調べは欠かさないからね。2人で居るところに何度か見かけて、そして、彼女が木下陣に怯えている姿も見たから、詳細は分からなくてもあとは何とでもなるわ」
全てが嘘。
俺が見てきた、聞いて来た紗代の言動────その全てが嘘で覆われたものだったんだ。
だけど……その嘘が1つずつ剥がれ落ち、本物が見えてくる。
「雪に、美喜多さんとは違う嘘を吐いたのは?」
「同情を買う為よ。紅貴くんを守る為なんて言ったら、絶対にあの子余計な事するでしょ?だから、邪魔されない為に美喜多さんとは違う嘘を吐いたの」
「この前のファミレスの時も?」
「全部演技よ。将来女優にでもなろうかしら」
「ははっ、向いてると思うぞ」
容姿は良いし、嘘を隠す技術もあるし、何よりも経験がある。
高校生でここまでの経験をしていれば、役者になればそれなりに活かすことが出来るだろう。
「ただ、俺からすればアイドルの方が向いてそうだけどな。既に今、そんな感じだし」
「そうね。彼氏と登校してるところを目の当たりにしても私の話を簡単に信じて、私を信じて、ああして私の為に協力してくれるんだから。最早、宗教に近いわね」
「宗教か……なら、何があってもお前を信じ、守ってくれるな」
「炎上した芸能人のファンと同じようにね」
俺はポケットからスマホを取り出し、通話中になっている画面を見せてやると、瞬間的に状況を理解したであろう紗代は、誰の目から見ても焦り始めた。
「さあ、今の話を聞いて、どんだけのやつが、お前を推し続けようって思うかな」
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