第29歩 『祭りの後』

「みなさん、ご協力ありがとうございました!それと────兄がご迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした!」


 美野里ちゃんが被害者の人たちに頭を下げると、それに対して恨みや怒りの言葉を投げかける人はおらず、寧ろ暖かく優しい言葉が飛び交っていた。


「あ」


 そこに騒ぎを聞きつけた教師や、他の生徒も来たが、そこは吉田先輩と冴島先輩を主体に上手く対処をしてくれているみたいで、美野里ちゃんが問い詰められる事は無かった。


「一件落着かな」


 昼休みがもう少しで終わりを迎える時間になると、続々と生徒が体育館を去って行き、その流れに乗って私と美野里ちゃんも逃げる様に体育館を後にした。


「これで終わり────なんだよね?」

「そうだね、木下陣はもう何も出来ないし……残っている事としたら、傷跡とか、美野里ちゃんは家の事とかだね」


 美野里ちゃん以外の被害者を目立たせ、訴えさせる事で、家族に与える印象を────即ち、美野里ちゃんの所為であの人は捕まったと、そう思わせないようにはしていたが、どう考えるかは当人にしか分からない。 


「それにしても、先輩たち凄かったね。あんなに人集めちゃって」

「吉田先輩も冴島先輩も……あとおまけで紗代さんも、その点においてはカリスマみたいなところあるから」

「私も見習わないとな」

「あはは、今の美野里ちゃんならいけるかもね」


 なんて話していると、校内放送が流れた。

 

『1年C組 木下美野里さん、峰山雪さん、至急職員室に来てください。繰り返します────』


「あーあ、さすがに誤魔化せなかったか」

「説明する為でもあの映像、先生に見せたくないなあ」

「大丈夫、それに関しては絶対見させないし、どうしてもって言ったら音声だけ女の先生に聞かせよう」

「それも恥ずかしいぃ」


 私たちが職員室に向かうと吉田先輩と冴島先輩がいて、二人の話の事実確認をさせられた。

 その後、話の分かる先生だったのか先輩二人の力なのかすんなりと解散させてくれた。

 美野里ちゃんは家庭の事と心身ともに心配されたが、「大丈夫です」とはっきり言った事によって、先生も納得し、解放された。

 再び、教室に向けて歩き出す。


「吉田先輩、冴島先輩────本当に、ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」


 2人で、頭を下げると、吉田先輩は困り顔を浮かべ、冴島先輩は照れていた。


「気にしなくていいから。目の前で困っている人────特に、私の大切な友達である峰山くんと、その妹さんの頼みだからね。断る理由が無いよ」

「吉田先輩……」

「俺も紅貴とその友達の為ならなんだってするさ」

「冴島先輩────……やっぱりお兄ちゃんの事!」

「違うって!なんでこの感動的な空気流れてるなかでそれ言うかな!?」


 私たちのやり取りを、笑顔で見ている美野里ちゃんの姿が視界に映り、私もつられて笑顔になる。


「よかった」


 そう、自然と、無意識に、私の口からもれた言葉は、周囲の声と、窓から吹き込む風の音に消され、誰にも届かなかった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る