後日談
美喜多ルート
「ごめん。紗代とは付き合えない」
「......っ」
俺の返事を聞いた紗代は、何かを堪える表情を浮かべた後、それを隠すように俯いてしまった。
「......紗代のことが嫌いなわけじゃないんだ。あの件が原因で付き合いたくないってわけでもない────でも......」
「いいよ......大丈夫。こんなでも───こんな私でも、短い間だったけど、紅貴くんと付き合ってたんだから。分かるよ、キミの気持ち。......だけど、だけどね......」
次に紗代が顔を上げると、その頬には涙が伝っていた。
「......ごめん」
俺はそんな紗代に、謝ることしか出来なかった。
*
紗代が落ち着くまで一緒に待っていようとしたのだが「一人にして欲しい」と
言われてしまったので、あの状態の女の子を一人、置いていくことに抵抗はあったが仕方なしに教室に戻る。
教室に戻ると、昼休みの時間はまだあると言うのに、珍しく、弁当を食べ終えて本を読んでいる美喜多さんがいた。いつもなら、図書室にいるはずの時間帯だ。
「教室にいるなんて珍しい」
「峰山くんこそ」
「俺は……用事があったから」
「用事があること珍しいでしょ」
「地味に傷付くな……ちょっと雪と、美野里さんの様子を見に行っただけだよ。クラスで浮いてたりしないかなって」
我ながら、素晴らしい回避だと賞賛した。
「相変わらずのシスコンっぷり」
「……美喜多さんに雪の話したの、記憶にないくらい少ないはずなんだけど。最早、したこと無かった気がするレベルなんだけど」
「しすぎて思い出せないんじゃない?」
「いつも美喜多さんに毒舌を吐かれていることを覚えてるから、それはない」
「言うでしょ?いじめは、した方よりされた方が覚えてるって」
「なるほどな……って、いじめって自覚してんじゃねぇか!」
「おっと、これは失言を」
「それと、俺が美喜多さんに雪の話するの、いじめになってたってのか?!」
「してる方には自覚がないものらしいですよ」
「それ、数秒前に、美喜多さんがからの説得力失ってる言葉だから」
なんて、いつも通りの会話をしている間に時間は過ぎ、昼休みの残り時間も少なくなる。
すると、美喜多さんが唐突に俺の背後を指差す。
「あれは、峰山君と関係が?」
言われて振り向くと、目を赤くした────明らかに泣いていたことが分かる顔をした紗代が、教室に入って来て、友達に心配されていた。
「ない」
「あるんですね」
「ないって言ったはずだけど?」
「桐谷さんの様子を見て、驚きもせず、目を向けないようにしようとしてる峰山君の言葉なんて、誰も信じない」
「……めちゃくちゃ関係あります」
「最初からそう言えば良いのに」
美喜多さんから説明を求められたので、ため息を吐きながらスマホを取り出して、メッセージを送る。
『紗代に告白された』
彼女はそれをすぐに確認し、返信をくれた。
『どんな精神構造していたら、このタイミングで峰山くんに告白なんて出来るのやら』
『まぁ、あの件に関しては、俺は許しちゃってるわけだし、別にどうでもいいというか、なんというか』
『と、言うことは、OKしたの?それで嬉し泣き?』
『いいや、断ったよ』
『え』
チラッと、美喜多さんの方に視線を向けてみると、本当に意外そうな表情を浮かべてスマホの画面を見つめていた。
『あのことは許して、しかも、私の見る限りでは、峰山くんはまだ、桐谷さんに未練があるように見えたんだけど』
『あー、なんていうか、まぁ、俺にも事情があるんだよ』
『なにそれ』
『納得できないんだったら、許してるけど信用できない、そういうことにしといてくれ』
『……そういうことにしとく』
納得してないだろうなぁ。
信用できないとか言っときながら、二人で空き教室で会ってたんだから。
*
放課後。久しぶりに美喜多さんと二人で図書室の受付当番をしている。
少しだけ、美喜多さんとの距離感が近づいたと言えど、それでも図書室内には、グラウンドで頑張る運動部の声と、俺たちが本のページを捲る音だけが響いている。当然のように、来客者はいない。
なんというか、もし、告白をするには、絶好過ぎる機会が与えられていた。
「あ、あのさ……ちょっと、いい?」
「なに?」
「いや、えっと……」
気まずい、無言の時間が流れる。
「黙っていたら、分からないんだけど」
「ご、ごめん。その、どんな本読んでるの?」
「それだけ溜めて聞くことがそれ?!」
「ち、違う!そうじゃなくて、え、えっと……」
「なんなの……」
告白するのって、想像以上に緊張する!久しぶりに紗代のことを尊敬してるぞ、まじで。
「こ、こんなこと、突然言われても困るだろうし、俺なんかじゃ釣り合わないかもしれないけど────」
しっかりと美喜多さんと視線を合わせて、出来る限りの真剣な表情をつくる。
「────俺と付き合ってくれ!」
「……」
俺の告白を聞いた美喜多さんは、頬が赤くなり、それでもしっかりと俺の告白の返事をしてくれた。
「……は、はい、喜んで……!」
まさか受けてもらえると思ってなくて、どうしていいか分からなくて、そして少しだけ生まれた静寂────恥ずかしくて、俺と美喜多さんは俯いて黙ってしまった。
自分の頬が熱くなっているのを感じる。俺も美喜多さんと同じくらい頬を赤く染めてしまっているのだろう。
俺は俯きながら未来のことを考えてた。本当なら紗代と歩くはずだった未来。一緒の大学に行けたらいいな、行けなくても毎日連絡をしたい。大学を卒業して、仕事して、結婚して、そして────。
「さよなら、ぱぱ」
俺が将来への願望を思い浮かべていると、どこからか幼い少女の声がした気がした。美喜多さんに聞いても、聞こえなかったと言っていた。きっと、俺の未来への願望が聞かせた幻聴なのだろう。
でも、さよならって。
*
鍵を一つ手に入れました。
美喜多ルート 完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます