第6歩『知りたくなかった真実』

 同日、午後10時。

 10分程前から、オレは既に複数人での通話を可能にするアプリを立ち上げ、ゆきと共に参加者を待っていた。

 冴島さえじまと情報共有を目的とした話し合いを開催する事を伝えたら、雪と、そして美喜多さんも参加する事になった。

 雪はともかく、美喜多さんが参加したいと言ったのは意外で、驚いた。


『ビデオ通話にする必要、絶対にありませんよね』

 

 美喜多さんの画面は現在カメラオフになっている。


「ビデオ通話の目的は冴島の監視だから、美喜多さんはカメラオフにしてもらって大丈夫だから」

『俺怪しまれてんの!?』


 声を上げて驚いている冴島。その様子も当然、俺のスマホの画面に映し出されている。部屋着姿が新鮮だった。


「どうも初めまして、妹の雪です」


 初対面の雪と軽く挨拶を交わす2人は、口を揃えて『似てない』と言ってきた。冴島は素直な印象だろうけれど、美喜多さんの場合は裏に『お兄さんに似なくて良かったですね』という言葉が混じっていそうで怖い。


「じゃあまずはお兄ちゃんのお話からで良いですかね?」


 2人が了承して、俺は1度深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。

 今まで雪以外に誰にも話した事が無い事だから緊張してしまう。

 だけど、話さないと冴島から必要な情報を聞くことが出来ない。

 意を決して話始める。

 紗代に告白され付き合ったこと、そして、昨晩見たものを。


                  *


 話を聞き終えた冴島は驚いた様子だったが、対照的に美喜多さんは変わらず落ち着いて自分の中で話を整理していた。


『2人が付き合ってたなんて……俺でも初耳だよ』

「変な噂が流れないように───いや事実なんだけど、噂が流れないように、2人だけで会うのは控えてたんだ。とはいえ、遊んだ事がないわけじゃないんだけどな」

「私が知ってる分だと、3か月付き合って遊びに行ったのは2回だったね」


 月に1回という約束で、だけど今月は連絡すら取り合ってない。

 いつ会えるか、そんな事を聞いてみても無視されて、予定が立っていない。


「お兄ちゃん、その2回とも凄く嬉しそうで、楽しみっていうのが凄く伝わってきて……だから、許せないんです。こんな純粋に紗代さんの事を好きでいるお兄ちゃんを裏切るなんて、傷付けるなんて」


 美喜多さんは見た事のない優しい笑みを浮かべながら、雪に言った。


『峰山くんに似ず、立派で優しい妹さんに育ったみたいですね』

「雪を褒めながら俺を貶すなよ」

『峰山くんに似て、呼吸が上手ですね』

「それ当てはめたら美喜多さんも俺の兄妹になるからな!」

『失礼ですよ。それで言うなら姉弟です。気を付けてください』

「残念だったな。俺の方が誕生日早いんだから、兄妹であってんだよ!」

『誰にも伝えていない私の誕生日知ってるだなんて……まさか、本当に私の事』

「初日の自己紹介で誕生日言ってただろ!」

『記憶にございません』

「都合の良い記憶力だな!」


 なんだか、学校にいる時よりも毒舌力が増している気がするんだけど……もしかして、美喜多さん、この友達と通話をするというのに浮かれているのだろうか。

 なんだ、案外可愛いところあるんだな。

 そう思えば、俺に対する言葉も、柔らかく聞こえて来た。


『それで、話をまとめると。峰山くんは見る目が無く、簡単に悪女に騙されたと』

「事実そうだけどもっとオブラートに包んで言ってくれ、結構傷ついてるんだから」

『馬鹿だった、と』

「オブラートの包み方が特殊なようで!」


 そんな会話をして盛り上がっていると、冴島が挙手をして『ちょっといいか?』と聞いてきた。


「悪い、話が脱線してたな」

『あ、いや、そうじゃなくて────……』 

「どうしたんだよ」

『確認なんだけど、紗代が告白して付き合ったんだよな?』

「ああ。雪も見てる」


 雪が頷く。


『……すんげえ言い辛いんだけどさ』

「なんだよ、珍しく歯切れが悪いな」

『これは俺が見ていた紗代の話で、本心までは知らないから確実な情報とは言えないけどさ────』


 そう言って冴島は、耳を疑うような事を伝えて来た。


『その話、ちょっと簡単には信じられ無いっていうか、いや疑ってるわけじゃ無いんだけど。受け入れ難いって言うのか、いやだからその……紗代、紅貴の事好きじゃなかった────いや寧ろ、嫌ってたから』


 

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